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白馬と姫  作者: カーネーション


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112/144

第112話『嫌な予感』

 腕に重みを感じて、わたしは目を覚ました。横を向いた体勢で寝ていたらしく、瞼を上げると腕に乗っかっている人物がすぐにわかる。


「サディ……アス?」


 抱き締めていたはずの赤茶色の犬はどこにもいない。きっと、馬車が森を越えてベルホルンに到着したのかもしれない。サディアスの体がもとの姿に戻ったのもそのせいだ。


「って、えっ?」


 そこまで冷静に考えられたけど、ぼんやりとした視界がはっきりしてきたら驚くしかなかった。


 だって、わんこならまだしも、あのサディアスと向かい合って眠っていたなんて! ありえない。しかもこの距離だと、まつ毛の長さまでよくわかる。


 安らかな眠りに入っているサディアスはとても無防備で、いつもの邪気がない。子供っぽいんだ。何だかずっと眺めているのは危険な気がする。離れなくちゃ。慌てて距離を取ろうと思っても、腕に乗った頭は岩のように重い。


「サディアス!」


 これしか方法が見つからなくて声を上げると、閉ざされていた瞼がぴくっと動いた。静かに開かれた瞳はわたしを見てくる。


「サディアス? 起きたの?」


 聞いてみても答えは返ってこない。寝ぼけているのか、まったく視線や表情が変化しなくて、こちらが困ってしまう。こんなサディアスを見たのははじめてだし。


 しかし、サディアスはいきなり目を見開いて、何かに気づいたように腕から離れた。辺りを見渡したあと、こちらに真剣な目を向ける。不覚にも胸の奥が高鳴った。


「おい、ジュリアはどこへ行った?」


「えっ?」


 ジュリアさんならその辺りにいるでしょ。そう思って周りを見渡してみれば、どこにもいない。ジュリアさんはどこへ行ってしまったの?


「嫌な予感しかしない」


 不吉なことを言い残して、サディアスは馬車を降りた。わたしもそれに習って降りてみたら、馬車はすっかり兵士たちに囲まれていた。中でも一際大きい体を持つ熊のような男と、ジュリアさんはひとり立ち向かっていた。

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