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白馬と姫  作者: カーネーション


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111/144

第111話『馬車のなかの獣たち』

 クラウスさんと別れてからサディアスは怒っているようだった。なぜか、いらだたしいように赤い髪の毛をぐしゃぐしゃにして「おかしい」と吐き捨てる。何がおかしいの?


「こんなにもすんなり行くのはおかしい。あの女がここまで手を回すとは思えない。もしや、あいつの罠じゃないだろうな」


 あいつとはおそらくクラウスさんのこと。いまだにクラウスさんを信用していないらしい。でも、ルルさんから手紙をもらっているし、罠だとは思えない。


「罠なわけないでしょ。クラウスさんはそんなことしないから!」


「ふん、どうだか」


「何で信じられないのよ」


 サディアスはまるで、すねた子供のように顔をそらす。


「あのね」


 どうしたらサディアスにわかってもらえるのか、考える。クラウスさんは悪い人じゃない。むしろ、いい人なのに。


 次の言葉を言おうとしたら、馬車は大きく揺れた。座っていても頭をどこかに打ちつけてしまいそうで恐い。体を支えるために馬車の床を手で押さえた。


 しばらくして揺れが治まった。あの揺れはいったい何だったのか、サディアスに聞いてやろうと思って顔を上げる。彼のほうに視線をやったら、わたしは言葉とかそういうものをいっぺんに無くした。


 これはどうしたんだろう? 目の前にいたサディアスのぐしゃぐしゃの赤毛が縮んでいくのだ。そればかりか、不機嫌な顔もこじんまりとなっていく。鼻がつんと伸びて、顔が毛に覆われていくのを見ると、わたしには理解できた。


 ――サディアスが獣になろうとしている。


 長身はしゃがみこんだように小さくなり、全身が赤茶色の毛に覆われていった。前足と後ろ足が床に着地して、しっぽが横に揺れる。赤茶色の犬がそこに立っていた。


 ジュリアさんの変化もはじまっていた。細身の体型がさらに細くなり、まとめられた金色の髪の毛が縮んでいく。金色の混じった白色の毛が全身を覆い尽くしていくと、仕上げみたいにヒゲがぴょんと跳ねた。長いしっぽが優雅に降り下ろされると、しなやかな前足が立ち上がる。彼女はネコだった。


 赤茶色の犬はサディアス。金色のネコはジュリアさん。窓を見ると、御者の座るところにはおさるさんが座っていた。


 つまりはわたしたちを乗せた馬車は、森のなかに入ったということになる。それはそれでいいんだけど、目の前のふたりが気になって仕方ない。獣に変わったふたりはものすごく可愛らしいんだ。触りたいくらい。今はこんな場合ではないとわかっているけど、わき上がった好奇心を抑えられない。


「あの〜、ジュリアさん、触っても?」


 断られそうな気がしながらも近寄ってみたら、ジュリアさんのほうから近づいてきてくれた。鼻がわたしの手に触れる。うわ、可愛い。背中をさすってみると獣らしいあたたかさがあって、口元がゆるむ。


 サディアスを見たら、こちらの視線に気づいた途端に顔をそらした。本当に外は可愛いのに中身だけは可愛くない。


 しばらく可愛くて優しいジュリアさんとたわむれていたら、眠くなってきた。うとうとしたわたしの腕をすり抜けたジュリアさんは、口で毛布を持ってきてくれる。なんて親切なんだろう。


「ありがとうございます、ジュリアさん」


 彼女はネコ語で返事をくれた。赤茶色の犬といったら、まったく動こうとせずにだらけている。眠いのか薄目になっている。もしかして、これはチャンスなのかもしれない。触れるチャンス。


 でも、わたしも眠かった。だから動くのは面倒になっていて、思わず言ってしまった。「おいで」なんて。


 来るわけないと思っていたら、予想に反してわんこ(サディアスだと思うと嫌だからわんこ)はこちらにやってくる。腕を伸ばすとそこに収まってくれた。わたしは安心してわんこを抱き締めた。夢がやってきたのはすぐだった。

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