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白馬と姫  作者: カーネーション


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110/144

第110話『再会しても』

「無事だったんですね」


 彼はクラウスさんだった。クラウスさんが生きていてくれた。涙がこぼれそうになるのをこらえながら鼻をすする。


「ええ、どうにか」


「こちらの方はお知り合いなのですか?」


 ジュリアさんは短剣に手をかけていたけど、わたしがうなずいたら警戒心を解いたらしい。短剣にかかった手を離した。


「フォル、お変わりないようで安心いたしました」


 兜はやわらかな笑顔を透させてはくれない。


「ふん、クラウス殿はずいぶん様変わりしたようだな」


 サディアスはまたそんなことを言う。


「きみの悪い口も変わりなくて安心した。しかし、こうして長々と話しているわけにはいかない。フォル、あなたにこれを」


 そして、クラウスさんはわたしの手をすくって紙を握らせた。


「ルル様からの伝言です」


「ルルさん?」


 ルルさん(レーコさん)がわたしに何を伝えたいのか。紙を広げてみると真ん中辺りに日本語で書かれた文字があった。


『ミャーコ、馬車の御者と検問はこちら側の者だから安心してね。お城で待ってます。ルル』


 根回しの良さはすごい。占い師という肩書きも嘘じゃないのかもと思う。荷馬車には安心、安全で乗ることができた。バレないように隠れる必要もないので、不自由なことはない。


 わたしは箱を背もたれにして座りながら、クラウスさんのほうに目を向けた。


「クラウスさんは、どうするんですか?」


 できれば、このまま一緒に来てくれたらいいのに。そうすれば心強い。でも、クラウスさんは「俺にはまだやり残した仕事がありますので」と告げた。


「そうですか」


 答えが少し不機嫌な声になってしまった。


 子供っぽいのかもしれないけど、落ちこんだ自分の気持ちを隠せない。困らせるだけだとわかっているのに、わたしは成長しない。そんな自分が嫌でうつむいたら、小さな笑い声がした。クラウスさんが笑っている。わたしはその表情が見たくて、顔を上げた。


「フォル……あなたは本当にお変わりないですね」


 そうだろうか? わたしの周りはとてつもない速さで変わっている気がするけど。


「これでも変わりましたよ。わたし、実はレーコさんの娘だったみたいで、そういうとこが変わったんです」


「いいえ、お変わりありません。ご自分の生い立ちを知ってもなお、素直でいらっしゃる」


 驚いたようすがない。もしかして、彼も知っていた?


「クラウスさんはわたしのこと知ってたの?」


「ええ」


 知っていたんだ。


「どれくらい前から知っていたの?」


「ずいぶん前からそんな気はしていました。幼いあなたはお城から出ることはなく、あなたのお姿を見たものはほとんどいません。ですが、俺はあなたに会っている。あなたの真っ直ぐな目を知っているのです」


「どういう意味?」


 深く聞きたかった。まるでクラウスさんが幼いわたしを知っているみたいだったから。先を知りたいのに、今は時間が足りなすぎる。まさかのタイムリミットだった。


「さあ、時間はありません! どうか、お元気で!」


 馬車が動き出す。クラウスさんが遠ざかる。わたしは手を伸ばそうとしたけど、クラウスさんを掴むことはできない。


 どんどん距離が離れていく。そのとき手首のブレスレットが目に入った。わたしは咄嗟にそれを掴んで、クラウスさんに向けて見えるように掲げる。兜の目だしからは見えているはずだ。


 きっとまた会える。次会えたら、クラウスさんにたっぷり質問攻めにするんだ。だから、覚悟しておいて。

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