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誰よりも近くて誰よりも遠い2人

 私の中の赤羽代議士像は、表面上はいつも笑顔で穏やかそうに見えるけどもその実、誰に対しても冷淡で常に冷然たる態度の孤独な人物だった。

 彼の周りには多くの人がいるけれど、彼はその誰をも信じていない。

 そう、まるでゲーム世界でのヒロインに会う前の赤羽夏園のように。

 赤羽夏園自身、自分と父親はそっくりだといったような台詞を言っていたような気がする。

 殆ど出番のない赤羽代議士について、朧気ながら覚えているのはそのためだ。

 だから、杏の叔父さんが彼の友達だといっても、上辺だけの付き合いだろうなと思っていた。

 それがどうだろう。

 実際目の前で2人の会話を聞く限り、本当に仲が良さそうだ。

 職業的に笑みを作るのにも本心を隠すのにも慣れてそうではあるけど、さすがに赤羽代議士のこのリラックスした様子が偽りには見えない。

 そもそも、いくら周りの目があるとはいえ、近くにいるのは友達と子どものみといったこの状況で、ここまで完璧に演技する必要があるだろうか。

 杏の叔父さんに向けて友達を演じているといった理由なら分からなくもないけど、その場合は何でそんなことをするのかという疑問が浮上する。

 つまり、赤羽代議士と杏の叔父さんはかなり親しい友達ということになる。

 だけどそうなると、私の知っている赤羽代議士と今現在の彼に齟齬が生じる。

 ゲーム世界は今から十数年後の話だから、その間に変わってしまったのだろうか。

 その時にはもう杏の叔父さんも日本にいないみたいだと杏が言っていたから、もしかすると2人の間に何かあったのかもしれない。


「姪がこんなに可愛いんだから、実の子どもだったらもっと愛おしいんだろうな。あー、俺も早く杏みたいに可愛い子ども欲しい」

「はは。お前の奥さんになってもいいなんて奇特な人間探すのは大変そうだな。まあ頑張れよ」

「てめぇ、言ってくれるじゃないか、玲一。見てろよ、お前が羨ましがるぐらい優しい嫁さんゲットしてめちゃくちゃ可愛い子どもを授かってやる」

「それは楽しみだ。実現するのは何十年後だ?ゆっくり待っててやるよ」


 ……うん、仮にこの先何かあったとしても、今は間違いなく仲良しだわ。

 赤羽代議士って、意外にノリが良かったのね。

 まるで学生のような2人のやり取りにびっくりしつつ、考えていたよりもずっとフランクな赤羽代議士に対してほっとする。

 イメージ通りの彼だと、そもそも話しかけても応じてくれるかが不安だったけど、この様子なら少なくとも話を聞いてはくれそうだ。


「そんなに待たせるか、馬鹿野郎。何たって、俺の結婚式では杏にフラワーガールになってもらう予定だからな。あれって確か10歳位までだろう?だからそれまでには何としても相手を見つけてみせる!」

「……お前は本当に、頭が良いのに馬鹿な男だなぁ、辰巳」


 問題は、何だか盛り上がってる2人に割り込んでいいのかってことなんだけど、さてどうしようかねこれ。

 何とかうまいこと入り込めないだろうかとちらちら見ていると、それに気づいた杏の叔父さんが赤羽代議士との会話を中断して、私の傍まで来てくれた。

 そしてその場で屈み、私と目線を合わせて言った。


「杏のお友達かな?こんにちは。俺達に何か用?」

「は、はい。初めまして、ももにしかおるといいます。お話し中にすみません」


 ぺこりと頭を下げて杏の叔父さんに答えた後、少し離れた場所でこちらを見ている赤羽代議士へと視線を移す。

 彼は、私と視線が会うと僅かに目を瞠った。


「あの、あなたはかえんくんのお父様、ですよね?」


 私の問いかけに、赤羽代議士が反応をするよりも先に隣から小さく声が上がる。杏の叔父さんのものだ。


「そうか。君が杏の言っていた……」


 驚きと納得の混じったその呟きを耳にしながら、私はこちらに歩み寄る赤羽代議士から目が離せなかった。

 彼は優雅ともいえる足取りで杏の叔父さんの隣まで来ると、同じように屈んで私と目を合わせた。

 でも、杏の叔父さんと違って、その顔はどこか冷ややかだ。


「桃西といったね。君は、桃西流の家元のご息女で間違いないかな」

「はい。相違ありません」

「ふむ。確かに、君の言うとおり夏園は私の息子だが、どうして君がそれを知っている?あの子は、まだ幼稚園にも行かせていない。桃西のご息女と会う機会などない筈だ」

 

 じろりと探るように見つめられてドキッとする。

 ついさっきまでの気安さはもうどこにもなく、今の赤羽代議士は私がイメージしていたのとほぼ変わらない彼となっていた。


「おい、玲一。子ども相手に詰問するなよ。第一、そんな怖い顔で聞いたら答えられるものも答えられないだろ」

「気になったことを聞いただけだ。詰問なんてしていない」

「嘘付け。完璧、仕事モードになってただろうが。大人げないんだよ、お前は」


 蛇に睨まれた蛙のように硬直してしまった私を庇うかのように、杏の叔父さんが赤羽代議士と私の間に入ってきた。

 彼の冷たい視線から逃れることができて、いつの間にか高まっていた緊張感がふっと緩む。

 暫くして、赤羽代議士と一言二言交わした杏の叔父さんは、振り向いて優しく私の頭を撫でた。


「えっと、かおるちゃんだっけ。怖かったな、ごめんな。お兄さんがあいつのこと見張っておくからもう大丈夫だ。今みたいな怖い思いはさせないからな」

「さり気なく自分をお兄さん呼びするなよ、三十路過ぎ」

「黙れ、元凶」


 私に対しての冷たさが嘘のように、赤羽代議士はまた杏の叔父さんと軽い会話を始めた。

 そんな2人を見ている内に、私は合点が行った。


 ああそうか。赤羽夏園が言っていた、そっくりの意味はこういうことだったのか、と。




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