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もしかして:親友の叔父はキーパーソン



「ちょっと気になったんだけど、杏の叔父さんって、今は赤羽代議士の臨時運転手をやってるんだよね。その前は、何やってたの?やっぱり、呉服屋の手伝い?」


 杏がむくれたままだと話が進まないと、少し離れた先にあるテーブルから取ってきたデザートを手渡しつつ、私は聞いた。

 さすがに、店主(またはそれに近い立場の人間)が、いくら友達の所だとしても運転手をやるはずはないから、叔父さんはそれに当てはまらないと思うけど、それなら運転手をやる前は何をしていたんだろうと気になったのだ。

 私の問いに、受け取ったサントノーレのシュークリームをフォークで一つ取って食み、美味しそうに目元を細めた杏は、現金なもので、すっかり機嫌を良くした様子で答えた。


「叔父は、歴史研究家なの。少し前に勤務していた大学を辞めて、今は少しお休み中とか言ってたわね。とはいっても、近い内にフィールドワークをしに行くとも聞いてるから、ただの休みじゃなくて、そのための準備期間といったところかしら」

「えっ、それって、運転手をやってる暇なんてないんじゃないの?」

「細かいことは聞いてないけど、普通に考えたらそうね。父も、運転手を辞めて準備に専念したらどうかって言ってたし。でも、叔父は、今はまだ駄目だって、頑なに辞めないみたい」


 そう告げて、杏はため息をつく。

 そして、持っていたお皿からまたシュークリームを取ろうとして、ピタリと動きを止め、顔を上げた。


「何?」

「喉乾いたから、それちょうだい」


 一体何事かと思えば、何だそんなことか。

 私は、デザートと一緒に持ってきていたジュースを杏に差し出した。


「食べるのに邪魔だろうから私が持ってたけど、最初から杏の為に持ってきたものだから、全部飲んでいいよ。それより、仮にもお嬢様が回し飲みしようとするのはどうかと」

「ああ、確かに自分の部屋じゃないもんね。失敗、失敗。別に誰かに注目されてる訳じゃないけど、いついかなる時でも、公の場では気を抜けないのは結構きついわ」

「いや、杏は、ちょくちょく気を抜いてると思う」


 主に、朔くんへの想いを声に出すという、お嬢様としてというよりは人としてどうなのって感じの気の抜け方だけど。

 いくら小声とはいえ、その内、第三者に聞かれそうで怖いわ。


「薫が傍に居るから自然と気が抜けちゃうだけで、それ以外ではちゃんとしてるわよ」

「よし、最初に会った時のこと思い出そうか」

「あっ」


 そんなやっちまったみたいな顔した後で、誤魔化すようにてへっと笑っても無駄だ。杏の両親や朔くん相手なら効果覿面だろうけど、生憎と私は美少女の面を被った変態女子に甘くない。

 私があまりリアクションを返さないでいると、杏は、ちぇっと呟いて、先程渡したジュースを口にした。


「私のことはいいの! 今は叔父の話でしょ」

「話の腰を折ったのは杏……いえ、何でもないです」

「なら、話を続けるわよ。私、思ったんだけど、叔父は今は駄目だって言ったのよね。勿論、研究が上手く纏まってないとかいった可能性もあるけど、もしかしたら、赤羽代議士に関することで何か気がかりがあるのかもしれない」


 美少女台無しの顔で睨まれて、やだこの子こわいと、おちゃらかしていた私は、続く杏の言葉で、一気に頭を切り替えた。

 見れば、杏も、いつの間にやら真面目な表情になっている。


「つまり、杏の叔父さんは、夏園くんがどういう状況なのか分かってると?」

「うーん、赤羽くんに関してはどうだろう。叔父は正義感が強い方だから、赤羽くんの状況を知ってたら、赤羽代議士に何か言うなり赤羽くん自身に話しかけるなりしそうなんだよね。けど、赤羽くんから、そういった手助けしてくれる人物がいるって話は聞いてないんでしょ?」

「初めて会った時、話しかけてくれる人がいないって言ってたし、それ以降もそういった話はしてないよ」


 最近は、小さな出来事でも何か変化があれば話してくれるので、もし杏の叔父さんに声をかけられたなんてことがあったら、絶対に教えてくれると思う。

 とはいえ、知らない人、特に大人が苦手っぽい夏園くんは、杏の叔父さんが優しく接してきたとしても、最初は全力で逃げそうだけど。


「だったら、やっぱり、赤羽くんの状況は知らないんじゃないかな。ただ、友達の赤羽代議士の周辺が、今色々とごたついてるから、それが落ち着くまで手伝ってあげてるのかも」

「その手伝うの中に、どうして、夏園くんに関することは入ってないのさ」

「向こうから言われたんならともかく、いくら友達とはいえ、人様の家庭にそう深くまで立ち入らないでしょ」


 それはそうなんだけど、夏園くんの一番の味方を自負する私としては、彼の周りで少しでも仲間になってくれそうな人は増やしたいというか、頼りになりそうな大人がこっちの陣営に入ってくれると大変ありがたいというか。

 杏の叔父さんだったら、ポジション的にも最適だし、是非とも味方になってほしいなぁ。


「はいはい、そんな微妙な顔しない。まったく、感情移入するなとは言わないけど、引っ張られ過ぎて冷静な判断ができないなんて事態にはしないでよ」

「肝に銘じてはおく」

「何その曖昧な答え。ま、いいけど。ああ、あと言い忘れてたんだけど、赤羽くんのことは叔父に伝えておいたから」

「ちょっ、それ重要なことじゃない。忘れないで」

「だって、私の友達が赤羽くんの友達で、彼は家が居辛いみたいぐらいしか言えなかったし。けど、叔父の反応が……あっ」


 考えるように急に黙り込んだ杏が、庭園の中央付近に向けていた視線をピタリと止め、小さく声を上げる。

 叔父さんがどうしたんだ、と気に掛かりはしたけど、杏の反応も気になったので、その視線を追った私は、すぐに彼女が何に反応したか分かった。


「ようやく、本当の待ち人来たる、ね」


 私たちの視線の先にいる、グラスを持って数名と話をしているその壮年の男性こそが、ずっと相対したいと願っていた夏園くんの父親、赤羽代議士だった。



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