兄と親友の思い人は和装コンビの兄弟弟子
桃西家と秋白家は、家族ぐるみの付き合いがある。元々、数代前から繋がりがあったのだが、何よりも今現在の親しい関係があるのは、父親同士が竹馬の友であるからだ。
それ故に、私だけじゃなく、兄も姉も朔くんとは顔見知りの仲だ。いや寧ろ、兄に関して言えば、去年まで秋白の家の道場に通っていたから、私たちよりも、朔くんと親しいと思う。
その兄が、杏と仲睦まじくやって来た朔くんに対して、僅かに目を輝かせたのを私は見た。
「こんにちは、かおるさん。お久しぶりです、ゆうさん」
「ああ、久しぶりだね、朔。ところで、一緒にいるお嬢様はどなたかな?まさか、君が誰かをエスコートするなんて思ってもなかったから驚いたよ。しかも、こんなに愛らしい方をなんてね」
「…彼女は、こみなみあんずさん。先日うちの道場の門下生になった方です」
「成程。でも、それだけの間柄ではないように見えるんだけど、それはぼくの勘違いかな」
わぁ、お兄ちゃん、すごく楽しそうだね。妹にはすごく甘いけど、弟分はからかうタイプだったかー。さっきと同じキラキラスマイルなのに、どこか違って見える気がするよ。
可哀想に、朔くん、顔赤くして困ってるじゃない。もう、お兄ちゃんったら…はは、いいぞ、もっとやれ。
「それは、その、あんずさんは、僕の大切な人なので」
「ああ、そうか。どこかで聞いた名だと思ってたんだ。先生が言っていた、朔が見初めた唯一の君は彼女のことなんだね」
「父上がそんなことを!?」
「僕に、というよりは父にだけどね。僕は一緒にいて、偶々聞いたにすぎないよ」
友とはいえ、息子の恋バナを話すとは…秋白のおじさん、意外と口が軽いんだろうか。そんな風には見えなかったんだけどな。いや、でも、私たちが結ぶ予定だった婚約も酒の席で冗談交じりってことだったし、そう考えると別に意外でもないのか。
まあとりあえず、親に勝手に恋バナ暴露されていた朔くんは泣いていいと思う。
しかも、自らが半ば茫然自失状態においやった朔くんをよそに、お兄ちゃん、さっさと杏に自己紹介してるし。ホント抜け目ないわ。
「杏嬢は、薫の待ち人なんだよね。さて、これ以上、お嬢様方の会話を邪魔するのも野暮というものだ。朔、僕たちは、向こうで挨拶回りでもして来ようか」
「は、はい」
「それじゃあ、僕の可愛いお姫様。心苦しいけれど、一時のお別れだ。お友達と、パーティをどうかゆっくり楽しんでおいで」
そして、杏と軽い挨拶を交わした兄は、未だ平静を取り戻せていない様子の朔くんを引きずるようにして、中央へと去って行った。最後まで甘い言葉を発していたのは、さすがというべきか何というか。その際、お前もやれよと言わんばかりに朔くんに視線をやっていたけど、いくら何でも彼に兄の真似をしろというのは酷だ。それでも朔くんなりに頑張ったらしく何度か口をぱくぱくしたけれど、結局、目線をずらして恥ずかしそうに、また後でと告げたのみだった。
尚、その姿があまりにツボをついたのか、杏は、2人の姿が小さくなっても暫く、手を握りしめてぷるぷる震えていた。
「たらし文句言おうと頑張って、でも言えない朔くん、可愛すぎる。いいよいいよ、寧ろそういうの言わない、無自覚たらしラブ。ああけど、照れながらほぼ棒読みでたらし文句述べる朔くんも見てみたい。どうしよう、今日の朔くんの格好だけでも充分やばかったのに、これ以上萌え要素加えられたら、キュン死にしちゃう」
アッハイ。相変わらず、元気そうで良かったです。
杏が落ち着くのを待って、私達は、隅の方に移動した。赤羽代議士の姿を確認しやすのは、もっと中央よりだろうけど、内緒話がしやすいのは断然こちらだ。それに、杏が叔父さんに聞いたところによると、数時間遅れての参加になるそうなので、彼が来るまでにはまだ時間がある筈だ。
ある程度まで話したら移動することを決めて、私たちは話し始めた。
「まさか、杏が和装だとは思わなかったわ。やっぱり、朔くんに合わせたの?」
「それもあるけど、父の生家が老舗の呉服屋だから、ドレスより寧ろ着物の方が持ってるのよね、私」
「はいストップ。私、小南の家が呉服屋とか聞いてないし。更に言えば、杏の母親がリンリンの母親の従妹ってことも、この前初めて知ったんだけど」
「別に必要ない情報でしょ。それに、リンリンの母親に関しては、私だって、数日前母から初めて聞いたの。大体、それ言うなら、薫にあんなかっこいいお兄ちゃんがいるなんて、私聞いてないわよ。イケメン兄、羨ましい。あ、勿論、私は朔くんが一番かっこいいって思ってるけど」
「それは聞いてないし、知ってる」
でも確かに、杏の言う通り、そこまで重要情報じゃないといえばそうか。思った以上に、登場キャラたちに繋がりがあるから驚いたけど、よく考えれば、親同士が従姉妹だからって何なのって話だし。
まあ、あの黄ノ宮と繋がりがあるってのは、十分すごいことではあるんだけど、如何せん、私たちの目的とは一切関係ないからなぁ。
「けど、あのイケメン兄、和装男子にしては、いちいち台詞が甘ったるいわね。和装男子といえば、黙して語らずなクールビューティでしょ。しかも、妹をお姫様呼びって、お前はどこぞの王子様かと」
「その和装男子像って、杏の好きなタイプってだけじゃないですか! やだー。兄に関しては、何も言えないけどさ」
「あと、兄とはいえ、毎日あんなイケメンに甘やかされてたら、無駄に理想高くなりそう。あ、そうか。だから、ゲームの薫は、朔くんを選んだのね、納得」
「あーはいはい、そうだね、朔くんかっこいいもんね」
もうツッコむのも疲れたので素直に同意すると、杏は頬っぺたを膨らませて、朔くんは渡さないんだからと睨んできた。
相槌を打っただけなのに、なんて理不尽! けど、膨れっ面の杏も可愛くて、本当にこれだから美少女は困る。




