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親友はリア充街道驀進中

 来たるべき黄ノ宮のパーティに向けて、杏とは色々話したいことがあったけれど、残念なことに、次の日からお盆の準備で桃西の家は慌ただしくなった。

 といっても、5才児の私がすることといえば、兄達と一緒に、訪ねてくる親類に顔を見せる程度だけど、その間外出することはできなかった。

 来客は13日の夜からだったので、午前中のうちに、これから数日公園に行けなくなることを夏園くんに伝えられたことは良かったけど、数日間会えないのは不安だ。

 私の家の電話番号は教えてあるから、何かあったら連絡をしてくれるとは思う。

 でも、それが分かっていても、今まで殆ど毎日顔を合わせて、その無事を確認していたのに、数日とはいえそれができなくなることは怖かった。

 だから、お盆明けの16日に、いつもと変わらずに笑顔で私を迎えてくれた夏園くんを見た時は、安堵の胸をなでおろした。


 そして、やってきた17日。

 そう日がなかったとはいえ、パーティのことを知ってから今日までは本当にあっという間だった。

 結局、杏と会う機会は得られず、昨日電話で数分話すことしかできなかった。作戦会議は、明らかに不十分といえるだろう。

 もう少し、赤羽代議士の友達という、杏の叔父さんについても聞きたかったんだけど、こればっかりはしょうがない。

 私は、数日前に買ってもらった、姉と色違いのアンティーク着物を着て、みんなで黄ノ宮のパーティに向かった。

 

 パーティ会場の黄ノ宮邸は、私がこれまで見た中で最も広大で、絢爛たる洋館だった。いや、寧ろこれはもう、城といっていいかもしれない。

 小南の家も凄かったけど、まさかそれ以上に、シャトーという言葉が相応しい建物を見ることができるとは。さすがは、この世界における、国内きっての名家。

 パーティは邸宅内じゃなく庭園で行われたため、中はあまり見れなかったけど、庭園だけでもその素晴らしさを理解するのには充分だった。

 ただ、機会があれば、次は是非とも中を見せてもらいたいと思う。探検したら、すごく楽しそうだ。



 会場に着くと早々、父と母は知り合いに挨拶に行き、姉は友だちとともにどこかへ行ってしまったので、私は兄と二人残される形となった。

 その兄自身も、先程から、様々な人に声をかけられているけれど、その人たちとどこかに行くことはなく、ずっと私の傍にいてくれた。

 しかも、一人(一グループ)の人と長く会話をすることがないことから、恐らく私に気を遣ってくれているのだと分かる。

 隣で、長々と会話されると、ぼっち感半端ないもんなぁ。さすがは、お兄ちゃん。気が利く。


「夕兄様、ごめんなさい。私がいるせいで、鈴姉様のように、お友達のところに行けなくて」


 それでもさすがに、兄が誘いを断ることが何度も続くと、感謝よりも申し訳なさが上回り、人が途切れたと同時に謝罪の言葉を口にする。

 兄は、僅かに目を瞠らせた後、笑みを浮かべて私の頭を優しく撫でた。

 

「そんなこと気にしなくていいんだよ。僕は、薫といたいからいるんだ。それに、こんなにも可愛らしいお姫様を独り占めできるなんて、僕には身に余る光栄だよ。僕はきっと、今、この会場で一番幸せな男だろうね」


 ふふ、と笑いつつ、兄は言う。

 黒羽二重のお対に馬乗り袴を粋に着こなす兄は、乙女ゲームライバルキャラの兄という設定だけあって、妹の私が言うのも何だけど、大層見目麗しい。

 そんな兄が、柔和な顔で笑ったものだから、近くにいたご令嬢方は、きゃぁっと黄色い声を上げた。

 だけど、みんな騙されないで。その柔らかい笑みで、この人、今、すっごいシスコン発言したよ。妹にそんな甘い言葉言ってどうするって程、結構な口説き文句もどき口にしてるよ。


「もう、夕兄様ったら。相変わらず、口が上手いんだから。そんなに褒めても、何も出ないですよ」

「おや。僕の本気が伝わらないとは悲しいね、お姫様。そう、つれないことを言わないでおくれ。僕は、本当に、君しか見えてないんだから」


 わー。

 いや、あの、うん。その瞳からして、お兄ちゃんが私のこと偽りなく本気で思ってることは分かるし、それは大変嬉しいんだけども、あまりにもこっ恥ずかしくて居たたまれなくなるので、やめてくれないでしょうかね…。

 こそばゆくて、背中がもぞもぞするよ。

 心なしか、兄が煌めいて見えてくるという、謎なエフェクトまでかかってきたので、私はそれから逃れるように、ついと視線を逸らした。

 何とも可愛らしい、内裏雛のような一対の男女が目に入ったのは、その時のことだ。


「…杏ちゃん?」


 周りの人も微笑ましく見ている、その愛らしいカップルを、私はよく知っていた。

 てっきり洋装で来るものと思っていたから少し驚いたけど、あれは間違いなく、私の待ち人である杏と、朔くんだった。 

 私の視線に気づいたらしい朔くんが、杏にそれを伝えたのか、彼女は小さく右手を振って、こちらへと歩いてくる。

 その左手は、しっかりと朔くんの手と繋がれていた。



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