表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔血吸の在り方  作者: スクロー
黄昏の出会いと結束の章
66/67

幕間・グランの生き様

遅くなりすみません、幕間ですが、これが次話の扱いです、申し訳ない

「クソっ!!」


青年が悪態を吐く


場所は大通りから一本脇の道、薄暗い通りを肩を怒らせて歩く


その足取りは怒りの余り大きく強く、乱雑に踏み出されている


それも無理のないことだった


街を歩けば、人は皆こちらを指差してヒソヒソと話を始め


酒を飲めば笑いものにされる


「・・・糞ったれめが・・・」


しかし彼はそれに対し何かをすることはない


それは、自らが行ったことに納得し、後悔しないと決めた彼なりのケジメだった


以前の彼ならば、指をさされよう物ならガンを飛ばし


笑われよう物なら掴みかかった


たが、彼は自分でそうしないと決めた


そしてそうしている自分に納得している


納得はしているが・・


「生きてて何が悪いんだよ・・」


やはり気持ちのいい物ではない事は、間違いようがなく


わだかまりは彼の中で大きく膨れ上がる



人は彼を指差して言う


(目的すら覚えていない大馬鹿者だ)と


また、酒場で人は彼をこう囃し立てる


(魔物を恐れて逃げ出した臆病者チキンだ)と


「おもしろくねぇ、おもしろくねぇぜ・・」


それでも彼は胸を張る


例え誰に笑われようとも、たとえ誰に罵られようと


それは、彼の胸に決意があるから


自らが選んだ道に、間違いはないという確信があるから







 ~竜門伝《滝を登りて竜となる男》・序~









彼は少年の頃、所謂ガキ大将だった

近所の子供たちを連れ回し、大人が危険だという倉庫や森や川、果ては魔物がいるという洞窟まで入って行った

それが出来たのは、彼の人並み外れた体力と、彼自身のカリスマがあったからだ


隣の村の3歳年上の悪ガキに、近所の子供がイジメられた事があった

彼はその話を聞くや否や飛び出し、ボロボロになって帰ってきた

もちろんそれから隣の村の悪ガキが、彼の仲間に手を出す事はなかった


大人に怒られ、泣いた事もあったが、次の日には


「おうおうおう!!ここで終わっちゃぁ男が廃るっ!!俺様に着いてこい!!!」


と言って、近所のガキどもをまた連れ回した



そんな彼の村が魔物の襲撃に遭った

事前に襲撃があるだろうという予想はついており、大人たちは移住するか、この村に残るか考えている最中だった

もちろん大人たちは子供たちに、外出を控える様に散々言ったのだが、その時彼は


(滝の裏にはきっとお宝が隠されている!!)


という想像に、冒険心を突き動かされ


「ここは流石に危険だ、だから俺だけで行くっ!!」


と言い残し、裏山の滝まで走っていった


当然滝の裏には何もなかったが、彼は川に流され、水を大量に飲んで岸に打ち上げらた

そこから村に戻ってきた彼は、その光景に絶句した


そこではパレードが行われていた

魑魅魍魎ちみもうりょうたちが人々を食い散らかす

死のパレードだ


彼は一瞬呆けて、次の瞬間激昂した


「俺の村になにしてやがるぁぁっっっ!!!」


彼は持ち前のセンスと体力を遺憾なく発揮し、次々と魔物を倒していく

落ちていた身の丈を越える太刀を、全身を使って振り回す

彼は長く、長く戦い続けた



それも何時しか終わりが近づいてきた

村の人々は殆ど全て死んでしまい、逃げだした者はもう遥か遠くに逃げただろう

それでも魔物の群れは一切途切れなかった

もう半日は戦っただろうか・・・?

いや、まだ日があるということは、それほど長くはない

6時間?3時間?それとも・・・・


もはや時間の感覚など無かった

それでも彼は


(・・・次、・・・次、・・・次、・・・次だ、・・・っ・・次!)


戦い続けた

魔物にも強い奴がいた

それらとの戦いはとても長く感じたが、まだまだ次がやってくる

彼の体は彼自身の血に塗れ、汗は乾き、目が霞む

それでも尚戦い続け


(・・・・次、・・っ!?)


遂に膝を着いた


そのまま倒れこむ様に地面に転がり距離をとると、最後の力で壁にもたれかかった

最後まで、敵を見ながら死にたかったからだ

足は鉄になった様に硬く、重く、最早指を動かす事すら出来ない

体の感覚などとうの昔に消え失せて、今なら切り落とされても痛みなど感じないだろう

そんな中、彼は掠れた声で語る


「よう、俺はもう限界みたいだ、俺はもう十分お前らを殺したから、お前が俺を殺せ」


そこには最早清々しさすらあった

全力を出し切った彼は、自分の限界を悟り、自らの死を受け入れたのだ


そんな時、村に泣き声が響く


それは、最近よく聞く泣き声


隣近所の農家の青年とその花嫁の待望の一子、生まれたばかりの赤ん坊の泣き声だった

この赤ん坊はずっと戸に隠されていたのだが、農家の青年とその花嫁は逃げ遅れて、殺されてしまっていたのだ


魔物たちがそちらを向く


「・・・おい」


魔物たちが泣き声に集まる


「・・ちょっと待てっ!」


魔物たちは少年の事など気にしない

もう既に、放っておけば死ぬ事を理解しているからだ


「ま、待てよっ」


声が掠れていて、音量が出せない

魔物たちが、玄関のドアを壊し、侵入する


少年は許せなかった

自分より弱い者を殺す魔物が

自分より弱い者を守れない自分が


手に力を込めるが、ピクリとも動かない

足も同様だ


「ま、待って、くれよっ!」


赤ん坊の泣き声が響く


魔物が家を荒らす音が聞こえる


その時初めて、少年が




「誰か、誰か助けろよっ」




人を頼った



そして、その願いは




「っっぬぉおおおっっっせいいいぃ!!!!」




叶った



霞む視界に、小さな嵐が写った


その嵐は魔物に近づくと、瞬く間に切り刻み、全く勢いが衰えない


嵐が農家の青年の家に入り、しばらくばたばたと音が聞こえ、時々快音が響く


そして辺りが静まり返り


しばらくして、赤ん坊の声が移動を始め


「おうおう、よく無事じゃったのぉ!」


家からヒゲの生えたおじさんに、抱えられて出てきた


少年は神に感謝した、こんな奇跡があるならば、もっと真面目に祈ってもよかったと思う程だ


その時、右から足音がした


魔物だ


明らかに少年を狙っている


少年には抵抗する気力も体力もなかった


正に殺される、その瞬間


首から上が飛んだ


「ほぉ、まだ生き残りがおったか!今日はめでたいのぉ!!」


それが、少年グランと、彼が尊敬して止まないダイジの、初めての出会いだった















~現在~



しばらく行動を共にしたダイジは、グランに常々こう言っていた


「生きろ、生きてさえいればそれが勝ちじゃ」


未だその真意は分からないが、遠征の終わりにあの竜と対峙し、それでも戦う積もりだったグランに、ゴウ隊長は


「後は任せた」


そう言った


それは隊を預かるという事

ならば、自分が死ぬ訳にはいかない

そして、隊員を死なす訳にはいかない


彼は平気な振りをしていたが、撤退を指示した時、きっと部隊の誰よりも悔しかった


「勝算などない、だが挑まなければそれもないままだ」


その通りだと、言ってしまいたかった

握り締めた拳から、血が流れ落ちた


彼はそうやって、生きる事を選んだ


それが間違いでなく、正解だと信じて


「さて、それじゃ、今日も行くかぁっっ!!」


胸の痛みを隠して、今日も彼は鍛錬に励む



自らが、より高みに登れる事を、あの竜を倒せる事を、皆を守れる事を


信じて

強い人っていますよね、でも、絶対に無敵ではないんですよね

人より取り繕うのがうまいだけなんだと思います


強い人にエールを、どんなに強い人も、傷つくのだから

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ