暁弥のかくしごと
二人が見えなくなったところで、家の中に入る。友達を家に招くのなんて初めてだったから、うまくできたか不安でしかない。その上、伊藤さん――あかねさんには、醜態を晒してしまったし、見せてはいけないものを見せてしまった。
ひとまずなんとか普通の高校生として、勉強会を終わらせることができたことに安堵の息を吐く。それはそうとして、今日起きていた《《使い魔》》たちのミスに関しては、しっかり詰めておく必要がある。
「全員集合!十秒以内によ!」
手を叩いて、それなりの大声を出す。三秒もしないうちに、家の中から黒い影が集まってきた。あかねさんたちに見られないように、屋敷の奥深くから出ないように命令していたせいか、いつもより集合が遅かった。これに関しては、私にも非があるから責めないけれど。
案の定、十秒すぎても全員は集まらなかった。
加えて、あろうことか、一番最後に呑気にてくてく歩いてきた黒猫もいた。
命令を破り屋敷内で昼寝して、あかねさんに踏まれた挙句、人の言葉を堂々としゃべったバカ猫だ。全く腹立たしくてしょうがない。
私の雰囲気が変わったことに気づき、他の使い魔たちが震え上がる。あなたたちにはそこまで怒るつもりはないのだけれど、とそんな思いを込めて微笑んだら、より震えが激しくなった。全く失礼な使い魔たちね!
『吾輩!お腹すいたのだ!さっきの詫びも込めて、マグロを要求する!』
――このバカ猫は、全く本当に人をイラつかせる才能があるのね。……誰が主か徹底的に叩き込む必要があるわ。
集まった使い魔たちが、私に怖気ついて一斉に道を開ける。呑気にあくびをしているバカ猫の首根っこを掴みあげる。ここまでやって、このバカ猫はようやく事態が理解できたようだ。
『何をするのだ!吾輩、何もしてないのだ!』
「何もしてないですって?命令を破った挙句、普通の人の前で喋り出すなんて!魔法の存在がバレたらどうするつもりだったのよ!」
魔法の存在を公にしてはならない。魔法を使える人間が、普通の教育を受けていれば絶対に言われる言葉だ。もちろん使い魔どもも知っている。だって、破れば人間の世界から追放されるのなら上々、最悪、なんで学校なんかに通っているのかわからない男——比良坂朔みたいな退治人どもに殺されてしまうからだ。流石のバカ猫もしでかしたことの重さを理解したのか、目を大きく見開いて、驚いたように口を開いた。
『オマエに魔法使い以外の友達いたのか!』
「お黙り!バカ猫!」
一体何を言うのかと思えば、全くもって失礼な一言が飛んできた。
平安から続く、偉大なる暁家の一員として、秘密裏に魔法で日本を支えてきた、魔法使いの名門の一人として、恥じない行動を心がけてきた。確かに一般の方々との付き合いが少ないけれど、高校は普通の学校に通っているのよ!私にだって、魔法が絡まない普通の友達ぐらいいるわ!……今日できたようなものだけれど。頭の中では反論でいっぱいだったけれど、あまりにもみっともなくて言葉には出せなかった。
そして、思わず噴き出してしまった愚かな使い魔がいることも見逃さなかった。
「このバカ猫以外のあなたたちもよ!入り込んだら正式な手順踏まないと出れない絵画や、触れたら一生眠りっぱなしになる魔法薬用の花を飾っているのはどういうことかしら!今日は普通の子が来るって言ったわよね!」
怒りの矛先を向けられたことで他の使い魔たちも怯え出す。猫に、カラスに、フクロウに、蛇、そして耳や羽、鱗などがついた人間の形した何か。命令通り急いで駆けつけてきたせいで、中途半端に人間の姿になっていたり、動物のままの姿をしたりしている。
その状態でガタガタ震えているものだから、まるで私が動物をいじめてるみたいに見えるじゃない!こいつらほとんど悪魔とかなのに!
とてもじゃないけど、あかねさんたちには絶対見せられないようなことをしている自覚はある。でも、使い魔の躾は魔法使いとして、一般人を下手なことに巻き込まないためにも必要なことなのだ。
「覚悟しなさい!あなたたち!もう一回しっかり躾けてあげるわ!」
ーーどうか、こんな私の姿が、普通の子達にバレませんように!




