遠藤翠は眠れない
「生徒に相談することではないのかもしれないのだけれど、これを見てくれる?」
わざわざ放送で呼び出された、オレたちが見せられたのは見覚えのある白いカード。
見覚えがあるのは当然だ。
ほぼ毎晩と言っていいぐらい、いい感じの言葉が思い浮かばなくて、よくにらめっこしている金色の装飾があるカードだ。
怪盗シスルが予告状に使っているカード……!
そして、文にはデカデカと予告が書かれていた。
『文化祭当日に、この学校の大切な物をいただきます。止められるものなら止めてみてください。』
なんだこの、雑な予告状は!怪盗シスルはこんなこと言わねえ!こんな予告状でいいなら毎晩にらめっこなんかしてねんだよ!
石堂のやつは何故かオレを呆れたような目で見てくるし、瑠璃は露骨に不機嫌になった。
「これ、本物だと思います?翠くん。」
「なんでオレに聞くかは、分かんねえがこんなバカっぽい予告状を怪盗の類が書くとは思わねえな。」
石堂が疑うように聞いてくるが、素直な感想を言って誤魔化す。
細かいことを言うなら、この予告状のカードは怪盗シスルが使うやつによく似てるけど、細部が違う。金色の装飾のRGBが少し違うし、実はこっそり降ってるシリアルナンバーがない。こんなことを石堂に言おう物なら色々突っ込まれるから何も言うつもりはない。
最近は神楽坂グループが怪盗シスルのことを隠さなくなったせいで急激に知名度も上昇したし、予告状がテレビのニュースに映る頻度も増えた。どこかの誰かが頑張って再現したんだろう。
「これが今日の午後に職員室に届けられて……警察にも相談するつもりではあるけど、そうなるとどうしても文化祭に影響が出るのよ。」
「なるほど、だから僕たちを読んで一旦判断を仰ぐことにしたんですね。本物の予告状を見たことがある人に。」
……確かに警察呼んだら大事だろうし、何よりマスコミの類にうっかり漏れたら大惨事だろう。色んな意味で文化祭を中止にせざるを得ない。どこの誰か知らないが、余計な真似をしてくれた。
もしかしたら、怪盗シスルの正体がばれたのかもしれない。
最近の夜は銃だの爆弾だの色々と物騒だし、そいつらの仕業かもしれない。夜のバイトに警察以外の邪魔が入るようにもなった。だからこうして疑わしい人間に対して脅すような真似をしているのかもしれないが。
……オレのことがバレるようなヘマはしてない。けど万が一って可能性もある。とすればどうにか対策を打たないといけないだろう。
「……どうやら、その他の高校にも出ているようですね。予告状が。今、上司である探偵さんから連絡が入りました。」
「なんだそりゃ……。」
「もー!むかつく!あのコソ泥!色んなとこの文化祭を潰してきっと楽しんでいるんだわ!やっぱり最低の愉快犯ね!」
携帯で何かを見ていた石堂がつぶやくと、オレは呆れてしまったが、瑠璃は完全に怒ってしまった。
オレの仕業じゃないが、名前を騙られて、幼馴染を怒らせたことには申し訳なく思う。こうなったらどうにか予告を撤回するしかねえ!
「とりあえず、警察には届けましょう。石堂の話が正しいなら、うちの高校以外も警察に相談するでしょうし。そうなった時に乗り遅れたらマスコミからぶっ叩かれるだけじゃすみませんよ。」
「僕も翠くんに賛成ですね。本当に怪盗シスルの予告状かは置いておいて、学校に対してことを起こそうとする何者かがいるのには間違いないでしょうし。」
チラチラオレを見ながら言う翠は腹立たしい。キレたくなるのをグッと我慢する。どうせ一週間後の文化祭当日で痛いめに合わせることはできるのだ。オレの完璧なトリックによって!
それはそうとして、どうにかさっさと偽物の予告状をなかったことにしなければいけない。あんだけ頑張って考えたトリックを潰されるのも嫌だし、こいつの悔しがる顔が見れないのだけは絶対に嫌だ!
それに、瑠璃をこれ以上、怪盗シスル以外のせいで傷つけさせたくない。
そうなったら今晩早速動かねえといけない。
「じゃあ、オレは用事があるので、これで失礼します。」
「ちょ、翠くん!」
呼び止める石堂の声と、すがるようにこちらを見てくる瑠璃のことを見なかったことにして職員室から駆け出した。
さっきの朔のせいで関節が軋んでる気がするし、連日謎解きを考えるので寝不足で若干フラフラする。それでも今日は眠れない!
オレの、オレらの文化祭は絶対に潰させねえぞ!瑠璃がオレの謎解きも絶賛してくれたし、何より無茶苦茶楽しみにしてたんだからな!




