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怪しい雲行き


 帰りのホームルームはいつも通りに進んで行った。ただ、先生の顔がずっと眉間に皺がよっている状態だったのが気になった。


 翠以外は先生が教室に入る前に先ほどの騒動の証拠の隠滅が完了してたけど、さっきの騒ぎは廊下まで聞こえていたに違いない。


 いつ先生からのお説教が始まるか気が気じゃなかった。ただでさえ帰りのホームルームが始まるのが遅れたのに、説教までされたらさらに下校時間が遅くなる。

 今日のダンスのレッスンに遅れることはないけど、隙間時間に勉強をしておきたい。前回の模試の判定もいいとは言えるものじゃなかったし。


 内心、どうか先生のお説教が始まりませんようにと祈っていると、先生が「伝えなければいけないことがある。」とか言い出したから、顔が引き攣った。


 だってこの状況でのそれは、絶対にお説教じゃない!


 諦めのこもった顔で、変なとこを見ていてさらに注意されるのも嫌だから、とりあえず先生の顔を見る。相変わらず眉間に皺がよっていたけど、怒ってるというよりはなんだろう、何かを考え込むような顔だった。


「今年の文化祭はーー中止になる可能性があります。」


 教室が一気にざわつく。私はてっきりここから、あんなに騒いでるぐらいなら準備時間は自習に変更しますとか、反省するまで通常授業をするように他の先生にもお願いしますとかの、さっきの騒ぎに絡めた話をするかと思ったけど、先生は一切そんな話をしなかった。


 ただ、「詳細は現時点では話せません。今後の説明を待ってください。」とだけ言って、私たちに混乱だけばら撒いて、ホームルームを終わらせて職員室に戻ってしまった。


 クラスのみんなも訳がわからないという状態で、ホームルームが終わったというのに誰も教室から出て行かなかった。みんなでなんで先生がそんなことを言い出したのか推測する声と、明日の文化祭準備が、文化祭そのものどうなるのか不安がる声、詳細を教えてくれない先生に不満をいう声が溢れていた。

 私も近くの席の子とそんな話をしていた。先生がさっきなかなか来なかったのもこのことが関係があるのかもしれない。でも、今は衝撃的なことを言われたことでいっぱいいっぱいだ。早く帰りたい気持ちはすっかり頭の片隅に追いやられてしまっていた。


 クラスみんなで騒めいていると、校内放送のピンポーンパンポーンという通知がうっすら聞こえてきた。それに気づいた一人がみんなに声をかけたおかげでクラスのざわつきが一旦静まる。


『三年五組の石堂晶さん、三年十組の遠藤翠さん、花咲瑠璃さん、至急職員室に来てください。』


 聞こえてきたのは、生徒を職員室に呼び出す放送だ。それも全員知ってる顔。


 その中で呼ばれたクラスメイト二人に、他のみんなの視線が集中する。一体何をやらかしたんだと言わんばかりの顔で。


 翠も瑠璃も心当たりがないらしく、困惑した顔を浮かべている。石堂君も呼び出されているから、あの怪盗関連できっと何かあったんだろう。


 でも、タイミングが悪い。


 先生からあんなことを言われた後で、職員室からの呼び出しなんて、文化祭が中止するかもしれないことと関係があるんじゃないかって、誰かがぼそりと呟いた。


 それを合図にクラスのざわつきが戻ってくる。


 絶対に三人とも文化祭のこととは関係がないのに。


 みんなはそんなこと知らないから好き勝手に色々言っている。瑠璃も翠も居心地が悪そうに俯いている。我慢できなくなって、立ち上がりかけた時、誰よりも早く動いた人がいた。


「とりあえず行ってきた方がいいんじゃないかしら。二人とも。石堂君も呼ばれてるあたり、どうせ、あの件でしょう?」


 誰よりもまっすぐな背筋で凛と立つ弥ちゃんが、よく通る声で二人に微笑みかけながら言った。そしてクラスのみんなを微笑みながら、でもどこか睨みつけるような感じで続けて言った。


「みんなも、早く帰りましょう?どうせここにいたって何も分からないわよ。それに、部活はいいのかしら。三年生が遅れてくるなんて顔が立たないんじゃない?大会近い人たちもいるでしょう?」


「あー!もうこんな時間じゃん!行くよ亜矢!今更外周なんてやりたくないでしょ!」


「ちょ、ちょっと待ってよ優子!」


 弥ちゃんの声に反応して、優子とやや遅れて亜矢が教室から駆け出して行った。それを見て運動部の何人かは同じように慌てて後に続いていった。それを見て他の子達も続々帰る準備を進めてく。

 翠と瑠璃もいつの間にか便乗してクラスから抜け出したようで、さっきみたいな声は止んでいた。カバンを持って弥ちゃんの方に駆け寄る。


「ごめん……弥ちゃんありがとう。私なんも言えなかった。」


「あら、あなただって立ち上がりかけてたじゃない。私の方が早かっただけよ。優子もキレる直前だったみたいだし。私が言わなくても誰かが言ってたわ。……それにしてもみんな適当なことばかり言うのね。」


 やっぱり、クラスの雰囲気が良くないのを感じ取って、あんなことを言ったらしい。本人は気にしないでと言っているけど、弥ちゃんだけ矢面に立たせてしまったようで居た堪れない。


「でも……。」


「あかねさんも帰りなよ。今日は確かダンスの日でしょう?……今日のことを気にしてるのであれば、そうね、明日お菓子でもくれればいいわ。」


「……分かった。じゃあ明日楽しみにしてね。」


 弥ちゃんに急かされて教室をでる。全く弥ちゃんには敵う気がしなかった。一番最初に声を上げたことにも、私を気遣ってお礼を欲しがったところも。なれるなら、あんなスマートな大人になりたいって思えるぐらい、弥ちゃんのことは同じ高校生には思えなかった。


 ……でも、翠に対しては一番最初にキレてたんだよね。いや、これは流石に翠が悪い案件だ。忘れてしまおう。


 とりあえず教室を出る。クラスのみんなも、ほとんど教室からいなくなっていた。


 明日瑠璃に何があったか聞いてみよう。教室中に響き渡るような声で。それでなんの関係もないってみんな分かるだろうし。


 本当は適当なことばかり言っていたみんなに謝ってほしいところだけど、そこまでは多分、瑠璃は望まないだろうし。優子あたりはズバッと言っちゃいそうだけど。


 どうせ、明日になったら色々分かるだろうし、今は早く家に帰ろう。それでちょっとだけ勉強して今度はダンスに集中しよう。今年は全国大会も例年よりはやめで夏休み前にある。なんだかんだ時間がないからそっちにも集中しなきゃ。


 今日は珍しく瑠璃と一緒に学校から出なかった。学校からの最寄り駅までも一緒に帰らなかったのは、かなり久々な気がした。


 そして、文化祭が中止になりかけた理由は、次の日、見覚えのあるほど不機嫌な瑠璃のおかげですぐに分かることとなった。


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