電話越しの本音
「え、あ、やったああー!!」
優勝が宣言されてから数秒後にやっと両手を突き上げて、大声を出して全力で喜んだ。
うっかり漏れた気の抜けた声を、会場の全員の記憶からとにかく消したかった。
地区予選とはいえ流石に優勝したんだから、最後までかっこよく決めたかった。なんだか私、最後まで情けないなあ。
そう思うと若干涙が出てきたような気もする。これは嬉しさで込み上げたものじゃないな、絶対。
一人でよく分からない感情の洪水に飲まれていると、MCがマイクを持って近づいてくる。ああ、優勝者はインタビューあるんだっけ。え、なに言おう。というかなにいえばいいんだろう。いいこととか何にもいえないけど!変なこと言うのも嫌だ!
「おめでとう!Aki!優勝者インタビューと言いたいところですが、本日時間も押しているため、一言だけどうぞ!」
優勝の喜びや、色々なやらかしに関する後悔とかはどっかいって、ただただ焦りの二文字だけが頭の中にあった。でも、なんか話さないといけないし………えっと、えっと……
「ぜ、全国も勝ちます!」
会場からどよめきとも言える歓声が上がる。なんでここで戦線布告したんだ私。
対戦相手とは全国でも当たる可能性あるのに。無難に頑張りますとかでもよかったでしょ。それか応援に関する感謝とかいえばよかった!そっちの方が、人として色々よかった!
頭を抱えたくなるのを、ステージ上にいるって理由だけでなんとか耐える。MCはまだ何か話しているけど、よく耳に入ってこなかった。この後はジャッジの総評とか表彰になるのかな。ああ、記念撮影とかもあるや。それが終わるまで朔たち、待っててくれるかな。
会場を見渡すと、呆れた顔をしている朔と目があった。ちょっとムカついたから、「優勝したんだけど!」の気持ちを込めて、ピースを向ける。朔はさらに呆れた顔をして、ひらひらと手を振る。口もなんか動いてる。なんだろう……?
「ちゃ ん と し ろ」
本当にこいつ………!
せっかく、ステージ上でも会話しようと努力してたのに!とびきり嫌な顔をむけて、朔から目を逸らす。さっきはちゃんと応援してくれてたのに!
今度は瑠璃たちを探す。二回目踊る前は見つけきれなかったけど、どうやら朔とは反対側にいたみたいだ。
朔に目線が止まったせいで見なかったあたりだ。二人とも手を振ってくれていたから、それに応えて手を振りかえす。
そうこうしている間に、今度はジャッジの総評が始まりそうだ。流石にここはちゃんと聞いていないとね。その次は表彰だし。体の向きごと、観客席の方からステージ上に戻す。
これが終わったら、先生のところ行って、朔たちに会いに行かないとな。応援のお礼はちゃんとしておきたいし。
ステージでMCやジャッジたちの話を聞いていたら、瞼が下がってくる。
流石に今日は色々あって疲れて、アドレナリンも切れて、眠くてしょうがなかったのは許してほしい。
それでもステージの上で寝落ちするわけにいかないから、頑張って耐えに耐えた。総評も表彰も、写真撮影も乗り切ったけど、きっと、撮られた写真は可愛くない顔してるだろう。
やっとステージから降りられた時には、踊りきってから一時間近く過ぎていた。まず先生のところに行ったけど、私があんまりにも疲れていた顔をしていたからか、今日の反省会のようなものは短く済んだ。多分、次のレッスンでたくさん指摘を受けるパターンだ。
人が半分ぐらいに減った会場内を歩き回って、朔たちを探す。瑠璃と弥ちゃんはすぐに見つけられた。
二人から優勝おめでとうと全国も頑張ってねと労いとお祝いをもらってすぐに解散したけれど。これも、私が疲れ切った顔したせいで二人に気を使わせてしまったせいだ。
学校でちゃんとお礼しないと。その前にメールでも軽くお礼の言葉を送っとかないと。家に帰ったら寝落ちしそうだから、帰りの電車でやっとこう。
一方の朔はどれだけ会場を動き回っても、見つからなかった。もう帰ったのかなとは思ったけど諦め切れなくて、電話をかける。
なんだかんだ直接会ってないし、応援に来てくれたことぐらいのお礼も言いたいし……それに、今日の感想も聞きたい。私、あの時みたいに楽しそうに踊れてた?……ってなんか恥ずかしいし、なんかこうもっと別の言い方しよう。
そんなことを考えてたけど、電話は繋がらないまま、感情のない留守番電話の案内が流れてきた。
――今日来るかどうかも当日にメールをして、決勝ギリギリにきたと思ったら、まさかすぐ帰ったの?メールもなにも連絡せずに?あんなに探し回ったのに?
応援してくれたことへの喜びよりも、好き勝手に今日の私の情緒をめちゃくちゃにしたことへの怒りが勝った。朔はそういうルーズなやつだって分かってたのに、なんだか無性に腹立たしい。
『ピーという発信音の後にメッセージを録音してください。ピ―』
「ちょっと朔!?帰るなら連絡ぐらいしてくれてもよくない?無駄に探し回って疲れたんだけど、だいたい、あのぐらいのメールなら前日までにできなかったの?おかげで私無駄に余計なこと色々考えたんだけど!そういうところ昔っから思ってたけど直したほうがいいよ!それに、ちゃんとしろってなに?集中してなかった私も悪いけど頑張ったなとかお疲れとかでもよくない!?」
録音開始の音声に悔い気味にかませて、感情のまま言葉を重ねる。ある程度言い切ったところで、怒りがおさまってきた。一度深呼吸をして心を落ち着かせる。どうせ留守電なんて朔は聞きやしないだろうけど、せっかく応援に来てくれたのに文句しか言わないのは、朔に嫌われ――違う、朔がどうのこうのじゃなくて、人としてやばい。
「………ともかく、その、今日は応援に来てくれてありがとう。朔のおかげでうまく踊れた……気がする。それと、えっとあと、私、あの時みたいに楽しく踊れてた?……今のなし!忘れて!あー!とりあえずありがとう!じゃあね!」
なにをしてるんだろう私。恥ずかしいから言わないようにしたことまで言ったし、なんかしどろもどろで照れてるみたいに話してしまった。
瑠璃と弥ちゃんと話している時はこんなふうにならなかったのに。
「……もう、今日は帰って寝よう。」
きっと疲れてるだけだよ。深く考える前に、そう無理矢理結論をつけて考えることをやめた。疲れてるから無駄に考えこむと、変な結論を出す。
荷物をまとめて、会場を後にした。やけに顔が熱いのは優勝の興奮のせいにしてしまおう。
なんか最近、朔に会うたびに、顔が赤くなったり、熱くなったりしてる。本当にどうしちゃったんだろう私。
ーーあかねが家に帰ってぐっすり眠っていた頃。
『えっとあと、私、あの時みたいに楽しく踊れてた?………今のなし!忘れて!あー!とりあえずありがとう!じゃあね!』
「……今日のお前は綺麗だったよ。」
時刻はとっくに日付を超えた真夜中。いつの間にか入っていた留守電を聴き終わって、絶対に本人の前で言えない感想を漏らす。
どうせ誰も聞いてやいないし、問題はない。
相変わらず昔から、踊ってる時のあかねは綺麗だった。俺と目があったような気がしたし、より一層、綺麗に見えたのはきっと気のせいだろうけど。あんなに眩しいステージで、あんな距離から俺が言った応援の言葉なんて届いてるわけもない。
留守電を再生した初っ端に怒鳴られた時は、ぶつ切りしようかと思ったけれど、切らなくてよかった。
どうせ、留守電なんて確認しないだろうと思って、うっかり本音を話したんだろう。対面だとお互い――主に俺がすげない態度を示すから、あかねは意地張ってあんなこと言わない。
たとえ録音でも、お礼を言われたから、それだけで報われた気分になる。
今日は元々、魔物退治関連で一日潰れる予定だった。それを今まで言ったこともないようなわがままを言って、叔父を困らせ、バカみたいなペースでひたすら斬って、切って、へし折って、なんとか時間を作った。
血まみれで応援なんて行けるわけもないし、匂いが残ったままなのもあかねの平穏を侵略しているみたいで嫌だった。だから、時間はギリギリになった。
優勝を見届けたらすぐに戻ってまた化物退治。ただでさえ、人手が足りない中で無理矢理抜けてきたのだ。散々困らせた挙句に、他の退治人や化物どもの盾になってる叔父のためにも早く戻らないといけなかった。
でも、まあそんなのはあいつには関係ない。悪いことをした自覚はある。それでも、ちゃんと事情を話せないから謝ることもできない。俺は本当に酷いやつだとは思う。
でも、それでも、きっとあかねが踊ることを見られるのは最後になるから見ておきたかった。
どうせ、来年の今頃は顔すら合わせられなくなってる。だから、今日の光景はしっかり目に焼き付けた。いつだって楽しそうに踊るあいつのことは好きだった。
決して言ってはいけない言葉を、音にせずに頭の中だけで呟き続ける。この気持ちにも区切りをちゃんとつけて、さっさと忘れてしまおう。あいつらと、あかねと別れるまで、後少ししかないのだから。




