↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/72

伊藤あかねは勉強する


 遠くで蝉が鳴いている。気温も朝から30℃を超えて、通学するだけで疲れる季節がやってきてしまった。駅から学校まで徒歩十五分の距離を汗だくになりながら歩く。


 今日からはテスト期間だ。私のクラスは校内でいちばん頭がいいクラス、いわゆる特進クラスだけど、ギリギリで特進クラスに入った私は授業についていくので精一杯だ。

 常に赤点との戦いをしている。テスト問題が違うとは言え、普通クラスの子の方がいい点数取ってるんじゃないかなみたいな点数を連発している。赤点は極力取らないように勉強しているけど、赤点なんて取るときは取ってしまうものだ。


 この前の中間テストは悲惨だった。中間テストのことは一旦捨てて、ダンスだけに集中したせいで。ダンスではなんとか全国大会への切符を勝ち取ることができたから良かったけど、下手したら成績もダンスも中途半端な結果になるところだった。

 それにダンスに関しては正直運が良かったような気もする。当たったら確実に負ける相手、同じダンス教室の舞は、私が練習でボロ負けした次の日に、両足を捻挫して、練習もほとんどできず、半分治っていない足で大会に出ていた。そのせいか、ベスト8にも残れていなかった。


 私の学校、私立開化館学院化札(かいかがくいんかなり)高校では、中間と期末、両方で赤点を取ると補習行きが確定する。それだけは絶対に避けなければならない。中間の成績を犠牲にして掴んだ全国大会を、補習のせいでろくに練習出来ないまま参加するわけにはいかない。

 それに、全国大会で大した成績を残せなかったら、私は実力じゃなくて、舞が怪我していたから運よく出場できた人になってしまう。ちゃんと実力で勝ち取ったことを証明するためにも、今回の期末で赤点は絶対に取れない。


 テストまであと一週間ちょい、今日からはより勉強しておかないといけない。そう心に決めて、いつもどおり予鈴の十分前に教室についた。クラスメイトと挨拶をしながら、自分の席に向かう。


 それにしても今日は暑かった。気のせいかもしれないけど、みんなもいつも以上に汗だくになっている気がする。今日の授業はクーラーがあるとはいえ暑さで集中できる気がしない。

席について水筒のお茶を勢いよく飲む。すごく喉が渇いていてだいぶ呑んでしまった。今度は汗だくなのが気持ち悪くなってきた。汗だくのままいるわけにもいかないので、鞄から汗拭きシートを取り出して、首周りや腕のあたりを拭く。本当はポロシャツの中もやりたいけど、男子がいるから流石に我慢。もう少し時間があったらトイレまで行ったんだけどなあ。今更クーラーの効いてない空間に行く気にもなれないし、まあいいか。そして、いつの間にか予鈴まで後5分になっていた。


「あら、おはよう。」


「おはよー!」


  そのタイミングで私の隣の席の暁さんが登校してきた。サラサラの黒髪ストレートに、色白の肌、そしてとっても綺麗な顔をもつ、思わず息を呑んでしまうような美人だ。

校内では下の名前に様をつけて、弥《あまね》様とまで呼ばれているのを聞いたことがある。噂で聞いたけど、結構由緒正しい名家の出身らしい。


 そんな美人も、今日という日は珍しく汗をかいていた。常に汗ひとつ流さずにいつも涼しい顔をしていることが印象に残っていたので意外だった。綺麗な高そうなハンカチで汗を拭おうとしているところを見て、思わず、自分の汗拭きシートを差し出してしまった。


「えっと、よければこれ使う?」


「あら、ありがとう。今日は本当に暑いわね。」


 暁さんはそう言って、笑顔と共に汗拭きシートをとってくれた。朝から美人の笑顔は眩しすぎる。


 汗拭きシートも、いい香りのものではなくて、冷たさだけで選んでしまったものだったので申し訳なくなってしまった。朝から謎のダメージを喰らったところで、いつの間にか予鈴が鳴って、いつも通り朔やその他滑り込みの人たちが遅刻ギリギリで滑り込んできた。


 朔はあの日以降、私の言ったことを気にしてくれていたらしく、最近は怪我をしている様子はなかった。そんな朔の様子を見ていたら、何見てんだよと言いたげな目線がこっちに投げかけられた。そんなにガン見してたかな私。なんだか恥ずかしくなって慌てて視線を逸らした。そして、ホームルームが始まった。


ーーキーンコーンカーンコーン


 お昼休みのチャイムが鳴っている。今日の午前中の授業の記憶がない。一時間目の数学は予告なしの小テストがあった。期末の範囲と同じような問題が出ていたらしいけど、全く解けなかった。その後の記憶が飛ぶぐらい。その後の他の授業も動揺がおさまらなくて、どこか上の空で受けていた。数学は中間のテストもぎりぎり赤点だったから、今回絶対赤点を取るわけにはいかないのに……。テストまで一週間以上あるとはいえ、すでに赤点を取る未来が見えてきた。


 教科書と弁当箱を持って、いつもの定位置に移動する。他の3人はすでに弁当を食べ始めていた。


「あれ?あかねさんは昼休みもお勉強ですか?まっじめー!」


「本当だ!私も化学やばいから教科書持ってこようかな。」


「もう!勉強するなら食べてからじゃないとお行儀悪いよ!」


 三人の反応はバラバラだった。


 勉強してなさそうで、いつも平均以上は絶対取る優子にはからかわれて、化学の成績だけ赤点とのチキンレースを毎回している亜矢は勉強しようとして、成績は常にトップ10入りしている瑠璃には注意された。みんな私よりは成績いいのだ。今回のテストにも余裕がありそうだ。


「あたし、今回本当に成績やばいからさ……。大会近いから補習も絶対無理で……。」


 ちょっと深刻な雰囲気で言いすぎたかもしれない。さっきまでからかってた優子がものすごく心配そうな顔をしている。


「確かに前回、成績捨てた宣言して、本当に点数やばそうだったもんね。今回、点取んないとダメなのなに?」


「数学と、物理と、化学……。全部赤点だった。」


「んー、うちのクラスなら得意なやつゴロゴロいそうだけどね。」


「あたし、なんで本当に理系選んだんだろう。文系にすればよかった……!」


「ホントわかる!文理選択か教科選択やり直せるなら、やり直したい!私も化学以外取ればよかった!」


 本当にそう!亜矢と2人で1年生の時の自分達を責め立てて盛り上がる。優子は呆れたような顔で笑っているし、瑠璃はいつも通りにこにこと笑っていた。

 そうやってどんどん話が脱線していってしばらく経った時に、瑠璃がある提案をしてきた。


「それならみんなで勉強会しようよ!部活動停止期間だしみんな放課後暇でしょ?」


「あー、ごめん私と亜矢、大会近いから部活あるんだよね。」


「本当ごめん……!部活終わりから合流でよければ付き合うよ!」


「そっか…土日に図書館にでも集まる?」


「ごめん、土日も練習試合が…。」


「いいよ!謝らなくて!部活がんばってね!」


 優子と亜矢の所属するソフトボール部は、かなり強豪の部類で今年も順調に勝ち上がっていた。それに優子も亜矢もベンチ入りしているし、流石に練習は休めないだろうし、練習後に来るのも酷だろう。

 土日なら集まれないかと思ったけれど、それも厳しそうだ。勉強会は瑠璃と二人ですることになりそうだ。


 そんなこんなで話し込んでいたら、昼休みも終わる時間になっていた。自然とみんな自分の席に戻り出した。その時に瑠璃がこそっと耳打ちしてきた。


「二人だけじゃ寂しいから、他の人も誘うね!放課後靴箱前に集合で!」


「わかった!」


 一体瑠璃は誰を誘うつもりなのかな?場合によっては勉強会という名の、だらだら喋ってしまう時間になってしまいそうだ。本当にそんなことになったら、私の成績が悲惨なことになってしまう。ワクワク半分、不安半分で午後の授業が始まるのを待った。


 そしてまた午後の授業が始まるギリギリに朔が教室に入ってきた。また、何見てんだよと言いたげな視線を投げてきたので、ちょっとイラついた。

 授業が始まるギリギリに一人で入ってきたら目立つから、見ちゃうのは仕方ないじゃん!そんな視線を投げかけられる意味がわからない。別に朔のことだけを目で追っているだけじゃないのに。謎の言い訳を頭で考えながら、午後の授業が始まった。


 眠気に耐えながら授業を受けてあっという間に放課後になった。


 今日はホームルーム後に委員会の集まりがあったので、瑠璃は集合場所を靴箱にしてくれた。とは言っても委員会に入っているのは瑠璃だけで私は特に入ってないから、教室で終わるまで勉強していただけなんだけど。


 委員会が終わるまで三十分、しっかり勉強してから靴箱に行ったら、すでに委員会は終わっていたらしく、瑠璃たちは先に待っていた。どうやら私が一番最後のようだ。靴箱で待っていたのは瑠璃と、暁さんだった。


 瑠璃が声をかけたのは、暁さんだったようだ。そこって仲良かったっけ?不思議に思ったけれど、まずは遅れたことを謝らないといけない。


「ごめん、勉強してたら遅れちゃった!」


「気にしないで!私たちもさっき来たところだったから。」


「それじゃあ、行きましょう?」


 そんなに待たせていなかったようだ。それにしても、暁さんってこういうのに来ることあるんだ。他の人と話しているところとか、あまり見ないし、なんとなく近寄りがたい雰囲気もあってあんまり話したことなかったんだよな。

 そう思ってたのが、だいぶ顔に出てしまってたらしい。誤魔化すような笑顔をした私に対して暁さんはにこやかな顔をして言った。


「あんまり、勉強会とかしたことなかったから、やってみたかったの。」


「そうなの!数学の時間に弥ちゃんやったことないって言ってたから誘ってみたの!」


 そういえば、暁さんと瑠璃は数学のクラス分けが一緒だった。もちろん一番上のクラスで。数学が苦手な私はもちろん一番下のクラス。どおりで私の知らないところで仲良くなっているわけだ。


 それにしても瑠璃はすごいな。人をちゃん付けで呼ぶのは誰に対しても一緒だけど、暁さんを誘うのに緊張とかしなかったんだろうか。

 瑠璃に感心していると、暁さんが耳打ちしてきた。


「それに、私文系科目苦手なの。だから誰かに教えてもらいたかったの。」


「え、私でよければ……!」


 やっぱり美人の笑顔は心臓に悪い。


 朝とは違って照れたように笑う顔はいつものような近寄りがたい雰囲気を崩して、まるで普通の女の子みたいに見えた。話しながら駅へと向かう。


 勉強会は暁さんの家でやるらしい。そんなに急に押しかけていいんだろうかと不安になったけれど、暁さんが全く気にしてないので、気にしないことにした。

 いつも乗る電車とは反対方向に乗って、暁さんの家に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。