比良坂朔は何も伝えない
「何しているのか知らないけど、聞かれたくないなら怪我とかしないでよね!こっちだって心配になるわ!」
返事の代わりに片手をあげる。これからも心配かけるような怪我をすることはないと、はっきりと返事をすることはできなかったからだ。
何をしているのかなんて、言えるわけがなかった。毎晩、どこからか湧き出てくる、魔物やら幽霊やら悪魔だの退治しているなんて、正気を疑われるだろう。
俺は化物退治の家系の生まれで、必然的に化物退治をするようになった。
勝手に湧いてくる分にはどうでもいい。けど、俺の身の回りに手を出してくるなら別だ。情け容赦をかけてやる理由がない。
もっとも俺が近くにいるせいで、友人たちがそういうものを惹きつけやすくなってしまったのは申し訳なさでいっぱいだ。
高校に上がったあたりでそのことに気づいてしまい、急に距離をとったし、新しく友人も作らなかった。事情も何も話さなかったし、話せなかった。
そのおかげかは知らないけど、友人たちがこんなことに巻き込まれるのは目に見えて減っていた。
距離を置くことに何の躊躇いもなかったわけじゃない。でもそれ以上に俺のせいでこんな不気味で、残酷で、血腥いことにあいつらが巻き込まれてしまうのが嫌だった。
それなのに全く今日は朝から肝が冷えた。同じ学校の人間が真っ黒いモヤのようなものに取り憑かれていたから、ぶつかりながら祓ったらあいつだった。
その後も変な石を見つけたせいで、危うく体を乗っ取られかけていた。なんとなく嫌な予感がして、駅前で偶然を装って家まで送ることにした。
駅で会った時、よく見るとあかねは何かに呪われていた。
学校にいる間は呪いなんてなかったからダンス教室の誰かにかけられたことしか考えられない。
朝から変なことがあかねの周りで続いていたことも、考えると元々あった呪いの効力が弱まったのをみて、再度かけ直したというのが正しそうだ。
あかねがこんな目に遭ってるのが俺のせいじゃなかったことにまず安堵してしまった。
ため息をつきながら光の当たらない暗がりを見ると、人ではないものが影からこちらを恨めしそうに見ていた。
俺がいるせいで駅からの帰り道で、あかねのことを襲えなかったんだろう。もちろんこのまま見逃すわけがない。
人払いの結界をかけて、刀を取り出す。人ならざるものは退治されることに気づいたのか影から這い出て本性を現した。
ついさっき、しれっとあかねにかけられていた呪いは解除したから、あかねが襲われることはないだろう。かけた奴がどうなるかなんて知りもしないし、どうでもいい。
サクッと片付けてしまいたいところだが、そういうわけにもいかない。怪我をするなと注文をされてしまったのだ。
いつもみたいに怪我を気にせず戦ったら、あかねにまた問い詰められてしまう。
「全く、面倒なこと言いやがって。」
言葉では悪態をついていたが、口元が緩んでいた。
何も言わずに勝手に距離をとって心配かけるような人間を、見捨てないでいてくれた。それがとても嬉しかった。
こいつらの退治にはなんの報酬もない。ただのボランティアだ。それでもつい首を突っ込んでしまったのは、こんな自分を心配してくれる人が、こんな奴らのせいで傷ついてほしくないからだ。そのためなら、無賃労働であろうが、変な噂が流れようが、いくらでもこの生活を続けられる。
ーーどうかお前が、こんな世界を知らずに、普通の生活を続けられますように。
そんな小さな祈りを込めながら、化物どもを退治する。つい調子に乗りすぎて、このあたり一帯の化物どもを退治してしまい、気がついたら朝になっていた。これでしばらくは呪いがあってもなくても安全だろう。
友人たちのことを考えるなら、学校も辞めて、一切関わりを持たない方がいいのだろう。
どうせ、大人になったら否が応でも切るしかない縁だ。それでもあと数年だけでいいから近くにいさせてほしい。
化物どもからは俺が全部ちゃんと守るから、俺のわがままを許してほしい。
夜通し化物退治をして、返り血を大量に浴びたせいか、思考がよくない方に向かっていく。寝不足はよくない、さっさと家に帰って寝るか。
眠気に耐えながら、家に帰ると母親に朝帰りに関して怒られ、帰りを待っていたけれど耐えきれず寝落ちしてしまった妹はひどく拗ねていた。また、化物退治関連を取り仕切ってるところで働いている叔父からは、電話でやりすぎだと長々としたお説教を受ける羽目になった。
今日は化物退治関連の集会に出ないといけない。そこでも色々言われそうだ。加減を覚えろだの、他の取り分考えろだのどうでもいいことも言われそうだ。
きっと、今日はあまりよくない一日になるだろう。




