心は勝手に浮かれてる
「ごめん!待った?」
「いや、俺もさっき着いた。」
待ち合わせ場所にはすでに朔がいて、片手にやけにでかい袋を持っていた。うさぎの耳がはみ出しているから、きっと大きいぬいぐるみだろう。
いくら溺愛してる妹のお土産だからって、チケット代よりも高そうなぬいぐるみはやりすぎな気がする。正直、ちょっと引く。
あと、よく見ると服を着替えていた。テーマパークのTシャツから、朝見かけた時と同じ服に変わっていた。
「わざわざ着替えたんだ。」
「電車の中であれはまずいだろ。他に同じようなのがいるならまだしも。」
「あー、確かに。……石堂君たちはあの格好で怪盗シスルのところ行ったのかな。」
「やめろよ、想像しただろ。」
私の一言で朔が吹き出して、ゲンナリした顔をする。そしてそのまま、メインゲートに歩き出してしまった。
ほんっとうにそういうところよくないと思う。
さっきと同じように、勝手に歩き出した朔を追いかけて、また二人無言で歩き出す。
優子に騙された待ち合わせ場所の噴水を過ぎたところで、急に朔の足が止まる。電車まであまり時間がなくなってきたのにどうしたんだろう。その時、ドンっと音がして、あたりが明るくなる。パレードの大詰めの花火が始まったみたいだ。
もしかして、花火見るために止まったのかな。
花火に見惚れていると、目の前にテーマパーク特有の袋を押し付けられる。でかい袋に隠れていて私が気づかなかっただけで、小さい袋も持っていたみたいだ。
「朔?」
「……やる。」
どうやら、私にくれるらしい。受け取って中身を確認すると、キーホルダーが入っていた。私の記憶があっていれば、多分、スイッチを入れたら光るタイプの。
「お前、昔そういうのほしがってただろ。泣くレベルで。」
「なっ……!なんで覚えてるの!?」
そうだった。私が欲しくて泣き叫んだのは、よりにもよって朔たちと一緒に来た時だった。
今日誰も触れてこないから、私が覚えてるだけの黒歴史かと思っていたのに、朔は覚えていたらしい。
流石におもちゃはどうかと思ってキーホルダーにしたとか朔はぼやいてるけど、そういう問題じゃないのだ。朔の記憶に残っている方が問題なのだ。
それにしても急にこんなことしたのはなんでだろう。思い当たる節は私には今のところ一つしかない。
「……まさか、ホワイトデーこれ?」
「違う!」
ポツリと呟いた言葉は全力で否定された。流石にセンスそこまで終わってねえだの、なんだの喚いている。
じゃあ、これは一体なんのために渡されたんだろう。
「あー、前に悠月の相手してくれて礼だよ。そこまで高いもんじゃなかったし。」
「したっけ?」
「してただろうが!……いやなんでもない。あと、ほら、これ。ホワイトデーの方。」
全くした覚えのないことに対するお礼だった。
悠月ちゃんの相手をちゃんとしたのは年末のあの時と、バレンタインデーのあの時ぐらいしかここ最近はないし、今までも、そんなことに対してお礼なんてしたことなかったのに、急にどうしたんだろう。
私の疑問は解消されないまま、今度は小さい箱を渡される。こっちがホワイトデーのお返しらしい。
中身を開けると、金属製のキーホルダーが入っていた。大会前にもらったのと同じように銀色で、デザインはちょっと違って四葉のクローバー。やっぱり形が若干歪なところがあって、今回も朔の手作りらしい。
「ありがとう。ねえ、前から気になってたんだけどこれって、朔の――」
「時間ねえから急ぐぞ。」
私に最後まで言葉を言わせないで、朔は駅に向かって小走りになった。
慌てて箱をもらった袋にしまい込んで後を追いかける。私の顔が熱いのも、朔の耳が赤く見えるのも、きっと花火のせいだ。心臓の鼓動がやけに早いのも、走ってるせいだ。
そうじゃなきゃ、まるで私たち――お互いにドキドキしているみたいじゃないか。
駅に着いて、ほとんど駆け込み乗車の状態で電車に乗りこむ。駆け込み乗車に近かったのに、座れる席があったのはラッキーだった。
慌てていたので、カチューシャをつけっぱなしで周りの人に微笑ましい目で見られていた。まだ、顔が赤いのもきっとそのせいだ。
お母さんに何時に最寄り駅に到着するのかのメールを打ち込んで、お互い無言のまま電車に揺られる。そこから、私の意識はなくなっていた。
「おい、次で降りるぞ。」
揺さぶられて目が覚める。だいぶぐっすり寝てしまったようだ。
しかも、状況から察するに朔の肩に頭を乗せて。
寝起きで掠れた声で謝って、慌てて体を起こす。また、心臓の鼓動が速くなって、顔が熱くなる。
ただの保育園から一緒の幼馴染――そう宣言したのは他でもない私なのに、さっきから行動が一致していない。
最寄り駅に着いて改札を通り抜ける。私はここから車なので朔とはここでお別れだ。
「じゃあな。踊ってる時のお前、楽しそうでよかったよ。大会も頑張れよ。」
そんなことを別れの挨拶で言われてしまった。
そんなことを言われてしまったものだから、逃げるように足早に立ち去る朔の腕をがっちり掴んでしまった。
なんで掴んでしまったんだろう私。
「じゃあ、応援しにきてよ。そしたらもっと頑張れるから。」
「……気が向いたらな。」
がっちり掴んだはずの腕はあっさり振り解かれてしまった。やってしまった。
本当にやらかしてしまった。あんなんじゃ、まるで私が朔に応援にきてほしいみたいじゃないか。
今までそんなこと言ったことも思ったこともなかったはずなのに。本当に何もなかっただなんて、亜矢に向かって堂々といえない。
テーマパークの非日常のせいで、ずっと変なこと考えてる。
私の気持ちと行動がめちゃくちゃなのをテーマパークのせいにしようとしたけど、うまくいかなかった。
朔の言葉の真意と、自分がなんであんなことを言ったのかが頭の中でぐるぐるして、どう言い訳しても一つの結論にしか辿り付かなかった。
私は朔のことを、ただ保育園から一緒の友達なだけとは思ってない。
何もないことを証明しようとしただけなのに、より深い墓穴を掘ってしまったことを後悔した。
これなら、あの時帰って仕舞えばよかった。でもそれじゃあ、朔からあんな言葉をもらえなくなってしまったんだろうな。それは、ちょっと勿体無い。
そんなこと思ってるだけで重症だよ……。私。
どうやって迎えの車に乗り込んで、晩御飯を食べて、お風呂に入って、ベットに入ったのかも分からなかった。ただ一つ言えることは、明日の私は確実に寝不足になるんだろうなってことだけだった。
ほんのちょっとだけ戻って、あかねが駅から車に乗り込んだ頃、比良坂朔はなんともいえない顔をして、自分の家の方向に歩き出していた。
やらかした。余計なことを言った。
一人で帰り道を歩きながら俺は頭を抱えていた。
楽しそうに踊るあかねのことはずっと昔から好きだった。今までそんなこと言葉にしたことなかったくせに。テーマパークのせいで浮かれまくっている。本当に余計な事を言った。
あのキーホルダーだってそのせいだ。ホワイトデーの方はまだしも、光る方は悠月のお土産選んでたら目について、そあかねこういうの昔欲しがってたなだなんて考えて、うっかりカゴに入れてしまったことに、会計まで気づかなかった。
本当に何してるんだ。俺。
ーー保育園から一緒の友達ってだけ!
あかねがそんなことを言ったのに、動揺したのだって今思えばバカなことをした。
しかも態度に出ていた。最悪だ。事実、あかねに好意も何も今まで見せてないだろ。それなのに動揺してどうする。
――じゃあ、応援しにきてよ。そしたらもっと頑張れるから。
そんな言葉で舞い上がるな。きっとあかねは応援がいっぱい欲しいだけで、俺に見にきてほしいなんてつもりで言ってないぞ。調子に乗るな。あかねも内心同じ気持ちだなんて思うな。
自分に言い聞かせながら暗い道を一人で歩く。
言い聞かせても、言い聞かせても、都合のいいようにあかねの言った事を解釈する頭のせいで、一向に心臓は鳴り止まない。
正月に決意したことは、もうすでにできそうにもなかった。




