↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/73

心は勝手に浮かれてる


「ごめん!待った?」


「いや、俺もさっき着いた。」


 待ち合わせ場所にはすでに朔がいて、片手にやけにでかい袋を持っていた。うさぎの耳がはみ出しているから、きっと大きいぬいぐるみだろう。

 いくら溺愛してる妹のお土産だからって、チケット代よりも高そうなぬいぐるみはやりすぎな気がする。正直、ちょっと引く。

 あと、よく見ると服を着替えていた。テーマパークのTシャツから、朝見かけた時と同じ服に変わっていた。


「わざわざ着替えたんだ。」


「電車の中であれはまずいだろ。他に同じようなのがいるならまだしも。」


「あー、確かに。……石堂君たちはあの格好で怪盗シスルのところ行ったのかな。」


「やめろよ、想像しただろ。」


 私の一言で朔が吹き出して、ゲンナリした顔をする。そしてそのまま、メインゲートに歩き出してしまった。

 ほんっとうにそういうところよくないと思う。


 さっきと同じように、勝手に歩き出した朔を追いかけて、また二人無言で歩き出す。


 優子に騙された待ち合わせ場所の噴水を過ぎたところで、急に朔の足が止まる。電車まであまり時間がなくなってきたのにどうしたんだろう。その時、ドンっと音がして、あたりが明るくなる。パレードの大詰めの花火が始まったみたいだ。

 もしかして、花火見るために止まったのかな。


 花火に見惚れていると、目の前にテーマパーク特有の袋を押し付けられる。でかい袋に隠れていて私が気づかなかっただけで、小さい袋も持っていたみたいだ。


「朔?」


「……やる。」


 どうやら、私にくれるらしい。受け取って中身を確認すると、キーホルダーが入っていた。私の記憶があっていれば、多分、スイッチを入れたら光るタイプの。


「お前、昔そういうのほしがってただろ。泣くレベルで。」


「なっ……!なんで覚えてるの!?」


 そうだった。私が欲しくて泣き叫んだのは、よりにもよって朔たちと一緒に来た時だった。

 今日誰も触れてこないから、私が覚えてるだけの黒歴史かと思っていたのに、朔は覚えていたらしい。


 流石におもちゃはどうかと思ってキーホルダーにしたとか朔はぼやいてるけど、そういう問題じゃないのだ。朔の記憶に残っている方が問題なのだ。


 それにしても急にこんなことしたのはなんでだろう。思い当たる節は私には今のところ一つしかない。


「……まさか、ホワイトデーこれ?」


「違う!」


 ポツリと呟いた言葉は全力で否定された。流石にセンスそこまで終わってねえだの、なんだの喚いている。


 じゃあ、これは一体なんのために渡されたんだろう。


「あー、前に悠月の相手してくれて礼だよ。そこまで高いもんじゃなかったし。」


「したっけ?」


「してただろうが!……いやなんでもない。あと、ほら、これ。ホワイトデーの方。」


 全くした覚えのないことに対するお礼だった。


 悠月ちゃんの相手をちゃんとしたのは年末のあの時と、バレンタインデーのあの時ぐらいしかここ最近はないし、今までも、そんなことに対してお礼なんてしたことなかったのに、急にどうしたんだろう。


 私の疑問は解消されないまま、今度は小さい箱を渡される。こっちがホワイトデーのお返しらしい。


 中身を開けると、金属製のキーホルダーが入っていた。大会前にもらったのと同じように銀色で、デザインはちょっと違って四葉のクローバー。やっぱり形が若干歪なところがあって、今回も朔の手作りらしい。


「ありがとう。ねえ、前から気になってたんだけどこれって、朔の――」


「時間ねえから急ぐぞ。」


 私に最後まで言葉を言わせないで、朔は駅に向かって小走りになった。


 慌てて箱をもらった袋にしまい込んで後を追いかける。私の顔が熱いのも、朔の耳が赤く見えるのも、きっと花火のせいだ。心臓の鼓動がやけに早いのも、走ってるせいだ。


そうじゃなきゃ、まるで私たち――お互いにドキドキしているみたいじゃないか。


 駅に着いて、ほとんど駆け込み乗車の状態で電車に乗りこむ。駆け込み乗車に近かったのに、座れる席があったのはラッキーだった。


 慌てていたので、カチューシャをつけっぱなしで周りの人に微笑ましい目で見られていた。まだ、顔が赤いのもきっとそのせいだ。


 お母さんに何時に最寄り駅に到着するのかのメールを打ち込んで、お互い無言のまま電車に揺られる。そこから、私の意識はなくなっていた。


「おい、次で降りるぞ。」


 揺さぶられて目が覚める。だいぶぐっすり寝てしまったようだ。


 しかも、状況から察するに朔の肩に頭を乗せて。


 寝起きで掠れた声で謝って、慌てて体を起こす。また、心臓の鼓動が速くなって、顔が熱くなる。

 ただの保育園から一緒の幼馴染――そう宣言したのは他でもない私なのに、さっきから行動が一致していない。


 最寄り駅に着いて改札を通り抜ける。私はここから車なので朔とはここでお別れだ。


「じゃあな。踊ってる時のお前、楽しそうでよかったよ。大会も頑張れよ。」


 そんなことを別れの挨拶で言われてしまった。


 そんなことを言われてしまったものだから、逃げるように足早に立ち去る朔の腕をがっちり掴んでしまった。


 なんで掴んでしまったんだろう私。


「じゃあ、応援しにきてよ。そしたらもっと頑張れるから。」


「……気が向いたらな。」


 がっちり掴んだはずの腕はあっさり振り解かれてしまった。やってしまった。


 本当にやらかしてしまった。あんなんじゃ、まるで私が朔に応援にきてほしいみたいじゃないか。


 今までそんなこと言ったことも思ったこともなかったはずなのに。本当に何もなかっただなんて、亜矢に向かって堂々といえない。


 テーマパークの非日常のせいで、ずっと変なこと考えてる。


 私の気持ちと行動がめちゃくちゃなのをテーマパークのせいにしようとしたけど、うまくいかなかった。


 朔の言葉の真意と、自分がなんであんなことを言ったのかが頭の中でぐるぐるして、どう言い訳しても一つの結論にしか辿り付かなかった。


 私は朔のことを、ただ保育園から一緒の友達なだけとは思ってない。


 何もないことを証明しようとしただけなのに、より深い墓穴を掘ってしまったことを後悔した。


 これなら、あの時帰って仕舞えばよかった。でもそれじゃあ、朔からあんな言葉をもらえなくなってしまったんだろうな。それは、ちょっと勿体無い。

 そんなこと思ってるだけで重症だよ……。私。


 どうやって迎えの車に乗り込んで、晩御飯を食べて、お風呂に入って、ベットに入ったのかも分からなかった。ただ一つ言えることは、明日の私は確実に寝不足になるんだろうなってことだけだった。





ほんのちょっとだけ戻って、あかねが駅から車に乗り込んだ頃、比良坂朔はなんともいえない顔をして、自分の家の方向に歩き出していた。


 やらかした。余計なことを言った。


 一人で帰り道を歩きながら俺は頭を抱えていた。


 楽しそうに踊るあかねのことはずっと昔から好きだった。今までそんなこと言葉にしたことなかったくせに。テーマパークのせいで浮かれまくっている。本当に余計な事を言った。


 あのキーホルダーだってそのせいだ。ホワイトデーの方はまだしも、光る方は悠月のお土産選んでたら目について、そあかねこういうの昔欲しがってたなだなんて考えて、うっかりカゴに入れてしまったことに、会計まで気づかなかった。


本当に何してるんだ。俺。


 ーー保育園から一緒の友達ってだけ!


 あかねがそんなことを言ったのに、動揺したのだって今思えばバカなことをした。

 しかも態度に出ていた。最悪だ。事実、あかねに好意も何も今まで見せてないだろ。それなのに動揺してどうする。


 ――じゃあ、応援しにきてよ。そしたらもっと頑張れるから。


 そんな言葉で舞い上がるな。きっとあかねは応援がいっぱい欲しいだけで、俺に見にきてほしいなんてつもりで言ってないぞ。調子に乗るな。あかねも内心同じ気持ちだなんて思うな。


 自分に言い聞かせながら暗い道を一人で歩く。


 言い聞かせても、言い聞かせても、都合のいいようにあかねの言った事を解釈する頭のせいで、一向に心臓は鳴り止まない。


 正月に決意したことは、もうすでにできそうにもなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。