二人きりの遊園地
一人で喋り倒しているうちに、ヨアリの前についた。
待ち時間は少し前から短くなって六十分。乗って帰ったらちょうどいいぐらいの時間だろう。
晩御飯は家で食べるつもりだったし。あ、お母さんに帰りが伝えていた時間より遅くなること伝え忘れてた。列に並びながらメールを打つ。電話は繋がるかわかんないし、繋がったところで悲鳴やはしゃぐ人たちの声であんまり声が聞こえないだろう。
ちょうど、会話というより、私の独り言が途切れたタイミングでメールを打ち始めたせいで、朔も携帯をいじり出す。私も結局、いい感じの話題が思い浮かばなくて、そのまま携帯を触っていた。
テーマパークに来てお互い喋らずに携帯を見てるなんて、よくある光景だけどなんだか気まずい。
携帯を触るのにも飽きてきて、ふと壁に置かれたアトラクションの説明が目に入ったから読んでみる。
このアトラクションは、オペラの中でも私が曲名がわかるぐらいの演目――というか曲をモチーフにしたもので、このテーマパーク内で一番高いところまで登って、落ちて、登って、落ちてを繰り返すジェットコースターだ。
説明にもモチーフになった曲の解説?のようなものが書いてある。あと、オペラの演目の解説も。
内容は知らなかったけど、意外と愛の物語だったみたいだ。ただ、なんとなく、愛とか恋とかそういうのはもういっぱいな気分で解説から目を逸らす。
反対方向を向いたら、いつの間にか携帯から顔を上げていた朔の顔がすぐそばにあって思わず後ずさる。
「急に振り向くなよ。」
「いや、そっちこそ近くない?」
「うるせえ、壁の説明読んでたんだよ。」
うわ、同じことしてた。
きっと朔も携帯を見るのに飽きたんだろう。
目を細めて説明を読んでるから、場所を交代してあげようとしたけど、そこまでしてみたいもんでもないって断られてしまった。
そしてまた、携帯に目を向けたかと思えば、朔はポツリと呟いた。
「……テーマパークの割には物騒な曲がテーマだったんだなここ。」
「言われてみればそうだね……。アトラクションの始まりもここ物騒なアナウンスが流れていたような気もするし。」
「昔はそんなん気にしたことなかったしな。アトラクションのモチーフとかテーマなんか。」
「私たちも大人になったってことじゃない?多少は?」
小さい頃はアトラクションなんて乗れればよかったし、ミュージカルやオペラなんて興味もあるわけない。
そう考えると、そういうのにも興味が向くようになったのはちょっとは成長してるように感じる。
ミュージカルも子供向けの演目を小学生ぐらいに観たってだけで記憶もあんまりないし、ちゃんと大人になってから有名どころのは観てみたいな。オペラなんてなおさら観たこともない。
「いつか、ミュージカルとかオペラとか観に行きたいなあ。」
「……暁あたりにいえば連れてってくれるんじゃないか。」
確かに弥ちゃんなら今日の感じだとノリノリで連れて行ってくれるに違いない。せっかくなら今日遊んだメンツで、乗ったアトラクションのモチーフになったものを観に行っても楽しいかも。実現するかどうかは別としてね。いつか提案してみよう。
そこから毒にも薬にもならない雑談をした。雑談とは言っても、朔が一方的に私の近況を聞いてきたり、話し始めたと思ったら妹の話しかしなかったりと、亜矢が期待しているような感じにはなりそうにもないものだ。
相変わらず、ほんのちょっと、なんとなくだけど、距離を感じる気がする。いつもだったら、聞き流してるようでところどころ相槌打ってくれるのに、その回数が少ないような、私に話しかけてくれる時はいつも目を合わせてくれるのに、今日はやたら視線を外してるような気がする。
ちゃんと数えたり、観察したりしてないから気のせいかもしれない。うん、流石に気のせいだ。こんなこと気にしたってしょうがない。ていうか、気にしてる方がしょうもない。
そう自分に言い聞かせながら、違和感を胸にしまい込んで話したり、携帯を見たりしていると、アトラクションの順番が回ってきた。
実際の待ち時間は、一時間もなかったのに、今日で1番長く感じた。
アトラクションに乗って、バーを下ろしてスタッフの確認を待つ。ジャンケンで外側を勝ち取った朔はなんだかいつもよりテンションが高そうだ。
そんなにこれ好きだったっけ?それとも私が知らないだけで今日一日中、乗る度にこんな感じのテンションだったのかな。
安全バーの確認をされてちょっとしたら、さっき話していた物騒なアナウンスが鳴った。
これが、あの解説に書いてあったアレのこと言ってるんだなあと呑気にしていたら、アトラクションが動き出して、全く構えてなかった私は後ろに押さえつけられて、ぐえと可愛くもない声を出してしまった。
隣から吹き出す声が聞こえてきた。最悪だ。
文句を言いたいところだけど、あいにく、アトラクションが一気に加速したからそれどころじゃない。文句を言うより、楽しい悲鳴をあげる方が今は優先だ。
あっという間に頂上について、落下する。せっかくだから両手を上げて、キャーと歓声なのか悲鳴なのかよく分からない声を上げて、全力で楽しむ。
隣からも同じような楽しげな歓声が聞こえてくる。朔ってこう言うのでちゃんと悲鳴あげるタイプなんだ。
みんなで乗っていた時は、あんまり朔の声は聞こえなかった気がする。単純に席が遠かっただけかもしれないけど、ただ、ほんのちょっと、私と一緒だから、素直に楽しんでるといいなって、思ってしまった。
……なんてこと考えてるんだ私。変なことを考えてしまったのを打ち消すように、次の落下に備えて大きく息を吸い込んだ。もっと純粋に楽しまなきゃ。
「そんなにヨアリ好きだった?」
「はあ?」
アトラクションから降りて、思わず朔に聞いてしまったけど、いつも通りの無愛想な態度でバッサリと切られてしまった。
「この後どうするんだ?まだ、なんか乗るのか?」
「いや、乗りたいのは乗れたしもういいかな。お母さんに晩御飯作ってもらってるし。」
「じゃあ、帰るか。」
私が返事をする前に朔はメインゲートに向けて歩き出してた。そういうところは本当に親切じゃないんだから。
話す話題はもうさっきの待ち時間で尽きたからお互い無言で歩く。
あたりは流石にもう真っ暗で、ちらほらと光るおもちゃを持った子供がピカピカ光らせながらはしゃいでいる。もう子供じゃないから欲しくないけど、昔はどうしても欲しくて親におねだりをした記憶がある。泣きじゃくりながら。結局買ってもらえなかったけど。
エントランスが近づくにつれて、人が増えてきた。閉園まではもうちょっとあるけど、時間が時間だし帰る人も多いんだろう。そう思っていたところに、近くにあったスピーカーが急に大音量を出した。
思わず体が反応してしまった。お昼ぐらいにも似たようなことあったなあ。大音量の音楽とナレーションに耳を傾けているとどうやら夜のパレードが始まるらしい。
パレードに巻き込まれたら足止め喰らうからって理由で一言も会話することなくお互い歩く速度を上げた。こんなところの考えはお互いあってしまうみたいだ。
みんなと最初の待ち合わせ予定だったメインゲートまで後少し、というところでお母さんにお土産を頼まれていたことを思い出した。
この期間限定のストラップがやけに可愛いらしくて、朝と帰りに最寄り駅まで送ってもらった対価として要求されていた。
「ごめん、お土産ちょっと見て行っていい?あれだったら先に帰っていいけど。」
「別にどうせ次の電車まで時間あるし。どうせ俺も悠月になんか買って帰んねえと文句言われるだろうし。」
「じゃあ、十分……で間に合うかな?買い終わったらここに集合で!」
ちょうどわかりやすいオブジェの真ん前だったから、そこを集合場所にしてそれぞれ目的のために一旦別れた。
私の目的のものはすぐ近くのショップにあったけれど、レジが大混雑で買うのに時間がかかってしまった。これなら、カチューシャ買った時にお土産のこと思い出してればよかったのに!
待ち合わせの時間は会計の時点で過ぎていたので半分走りながら戻った。




