嵌められた二人
アトラクションを降りると、時刻は十七時四十分。
死にかけの石堂君が朝の時点で調べてくれた情報によると、十八時二十七分の電車に乗れれば、石堂君たち的には大丈夫らしい。
ここから駅までは十分もかからないし、テーマパークから出るにはちょっと早い。
かといって別のアトラクションに乗りに行くような時間もない。人が増えてきたのか、待ち時間はどのアトラクションでも最低三十分以上かかるみたいだし。
「よし、それじゃあ、十八時十五分に、メインゲートに集合で!それまではお土産買うなり、デザート食べるなり各自自由行動にする?」
優子の意見に反対する人は誰もいなかったので、それぞれ一旦解散になった。とはいっても、せいぜい男女に分かれただけなんだけど。男子は翠の悪ノリで、メインゲート近くの子供向けのエリアにあるゲームコーナーに行くことに。盛れないプリクラを撮るらしい。面白そうだし、後で翠に頼んだら見せてもらおうかな。
私たちは、初めてきた弥ちゃんがお土産やグッズを買いたいとのことだったのでそのショッピングに付き合うことに。グッズの元ネタとなったミュージカルやオペラの解説を弥ちゃんから聞きながらショップを回ったから、なんだか新鮮な気持ちになった。
そうこうしている間に集合時間まで後五分。これから行くタイミングがあるか分からなかったから、お手洗いに他の人に断りを入れて向かう。
待ってもらうのも申し訳ないから、先に待ち合わせ場所の方に行ってもらった。
この選択をしたことをほんの数分後に後悔する羽目になるとは全く思わなかった。
近場のお手洗いはちょっと混んでいて、時間がかかってしまった。この調子じゃ待ち合わせに間に合わないかも。一応優子にメールをするとすぐに返信がきた。
『全然大丈夫!男子がメインゲートじゃどこにいるか分からないって言い出したから、集合場所、噴水前に変更になったから!間違えないでね♡』
確かに言われてみれば、メンゲートだと範囲広い。遭遇するのに時間かかったら待ち合わせの意味がない。
特に疑問も持たずに『了解!』とだけ返事して特に問題はないと考えていた。本当にこの時点で気づけばよかったのに。
お手洗いを済ませて、言われた通り噴水前に来たのに、誰もいなかった。
焦って携帯の時計を見ると十八時十二分。もしかしたらまだみんな来てないだけかもしれない。
一応、さっき優子からもらったメールを確認したけれど、やっぱり場所は噴水前と書かれている。
そこから一分、二分、と時間が経過して、とうとう十五分になったけど誰も来ない。
まさか、私置いて行かれた?いや、流石にそれはないはず。いくらなんでも誰か気づくだろうし。不安になって、噴水を一周したけれど、やっぱりみんないない。だからもう一周して、さらにもう一周して、ちょっと遠くまで見に行って、いつの間にか五分以上過ぎていた。それでも誰も見つからない。
本当に私が間違えてるのか、優子のメールが間違っていたのか、みんなに何かあったのか、どれが正しいのか分からないまま、涙目で優子にメールを打っていると、名前を呼ばれたような気がした。
ーーいや、気のせいじゃない!やっぱり私の名前を呼ばれてる!
若干涙目のまま、呼ばれた方を振り向くと、呆れた顔の朔がこちらに走ってくるところだった。
「お前さ、今更迷子になるとか本当にどうなってんだ?もうみんなメインゲートに集まって……」
「ぐす……。よかったあ……。」
近づいた朔は、涙目で鼻をすする私の姿を見てギョッとしている。「迷子で泣くとか何歳児だよ」とさらに呆れた顔をよこしている。
そういう割には、カバンからポケットティッシュを渡してくれるあたり、なんだかんだいいやつ。
もらったポケットティッシュで鼻を噛んでいると、中途半端にメッセージを打ち込んだままの携帯が振動した。
通知を見る限り、優子がメールしてくれたみたいだ。
こっちは朔と合流できたことをちゃんと伝えないといけない。そう思ってもらったメールを開くと、私はあいた口が塞がらなくなった。
片手に携帯、もう片方にティッシュを握りしめたまんま動かなくなった私を見て、朔は心配して声をかけてくれた。
けれど、朔の携帯がメールの通知音を鳴らして、内容を確認した時、朔は私と同じように固まった。
きっと同じようなメールが来たんだと思う。差出人は翠あたりで、実際に中身を書いたのはきっと私と同じで亜矢。そして、中身にはこんなことが書いてあるんだろう。
『夜も明日もお暇なお二人で楽しんでね!私たちは先に帰ってるから!次会うときに何があったか教えてね!もし付き合うことになったんなら明日までにはメールしてね♡』
そして、追伸にはこんなことが書いてあるんだ。私には、『追伸 ホワイトデーのお返しちゃんともらうんだよ』朔には、『追伸 ホワイトデーのお返しちゃんと渡すんだよ!もう一週間経ってるんだよ!』って。
朔の携帯の画面を覗き込んだわけじゃないけど、そんな確信がある。
つまり、私は、バレンタインデーの時と同じく、あの人たちにまた嵌められたんだ。今度は朔もちゃんと巻き込まれて。
「もう!なんなのよ!」
テーマパークにふさわしくない怒りの声は、噴水の中に吸い込まれていった。そのまま亜矢に電話をかけようとしたのを、朔に止められる。
「電話したところで、あいつらもう電車の中だ。諦めろ。」
「……っでも!」
「あれだったら、先に帰ってろよ。俺は明日なんもないけど、お前は夕方用事あるんだろ。」
「朔はどうするの?」
「俺は乗り損ねたヨアリに乗ってから帰ろうかな。それじゃ。」
朔は言いたいことだけ言って、スタスタと宣言通り歩きだす。
その|カチューシャにTシャツ《浮かれまくった格好》で一人でうろつく勇気がよくあるなとか、そんなにヨアリ好きだったけかなとか一瞬浮かんだけど、ギリギリ言葉には出さなかった。
もし出てたなら、さっき以上に呆れたを通り越して冷たい目線を浴びる羽目になっただろう。
結局、私の口から出たのは朔を引き留める言葉だった。
「待って!!」
朔が私の声に反応してぴたりと足を止める。問題があるとすれば、想定外に大きい声が出たせいで、周りの人からヒソヒソ話が聞こえてくることだ。
側から見たら、テーマパークで喧嘩したカップルにしか見えない状況なのを今更自覚した。
「ほら!みんなあっちいるかもしれないし!」
耳が赤くなってるのを感じながらも、言い訳するように馬鹿でかい音量のまま、二人で来たわけじゃないことをアピールする。
そしてそのまま足を止めてしまった朔の横に並ぶ。朔は相変わらず呆れたような顔をしていた。
「声でけえ。変に目立っただろ。」
「うるさいなあ!私だってあんなに大きい声出すつもりなかったの!」
「はいはい、よかったのか帰らなくて?」
「別に明日は昼まで寝るつもりだったし。今日は遅くなっても問題ないし。」
「……また、桐山に色々言われるだろ。メールでもやかましかったし。」
話しながらふと朔の方を向く。
さっきの先に帰れの言葉朔なりに気を遣ってくれた結果らしい。
それにしても下手な言い訳だ。乗りたいアトラクションがあるなんて。
そんなキャラしてないくせに。急に用事ができたとかで帰ってしまうとかもっと上手くできただろうに。
そういうところは優しいくせに、変なごまかし方するからみんなから余計な印象がついちゃうんだよ。まあ、そういうところ嫌いじゃないけど。
言葉にはしなかったけど、ちょっとだけ笑いが漏れた。ちょうど会話が途切れていたタイミングなのもあって、隣にいる朔には私の笑い声はすぐにバレてしまった。
鋭い目線を向けられる。何考えてたか聞かれるのも恥ずかしいし、無理やり話題を変えてしまおう。
「別に変なこと考えてないよ。それで、行くんでしょ?ヨアリ?」
「……いいのか?」
これは、多分、二人きりになるけどいいのかの確認だ。
きっと、一緒にいることで亜矢とか、他にも今日ここにいるかもしれない学校の人たちに、問い詰められたり、あらぬ噂が広まったりすることに対しての確認だ。
私は別に朔と一緒にいるのが嫌なわけじゃない。
「ここで、二人っきりでなんもなければ、いい加減亜矢も諦めてくれるでしょ?何にもなかったって、堂々と言えばいいだけだし。私たちは保育園から一緒なだけの友達。それ以下でもそれ以上でもないって。動かぬ証拠になるでしょ?」
「……だな。」
そう、バレンタインデーのあれがあったからちょっと避けてただけで、ホワイトデーもなんもなかった以上、せいぜい私たちは友達でしかない。ここで何も起きなければ尚更だ。
そう自分に言い聞かせるように言ったけど、朔も納得してくれたみたいだ。小さく返事だけして、何にも言わなくなった。
それからは、朔が会話を振ってくることなんて滅多にないし、いつもと同じように一人で喋り倒した。
主に、亜矢の恋愛モンスターぶりに苦労してる話とか、それに乗っかるみんなの愚痴とか。朔は適当なタイミングで相槌を打つだけで、会話をしてくれそうな気配はなかった。
朔と二人っきりになる時はいつもそんな感じだけど、なんだか今日は距離を感じる気がする。……バレンタインデーから避け続けた私が言えることじゃないけど。
なんだかほんの少しだけ、寂しい気がする。




