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絶叫系連発タイム

 私の笑いがようやく治ったのを見て、みんなで移動を開始した。時刻は大体十四時ぐらい。なんだかんだ朝早くからいるからちょっと疲れてきた。そもそも今日は早めに帰りたい人も何人かいるから、アトラクションはあと二、三個ぐらいしか乗れなさそう。


 石堂くんと瑠璃……となぜか翠はまた怪盗シスルの予告状が出たとかで、夜からはそっちに行くらしいし、優子と亜矢と樹は明日は部活。ヒロ君も弥ちゃんも明日は朝から予定があると言ったいたし、なんだかんだみんな大忙しだ。

 そんな中、貴重な一日を一緒に遊べてよかったとは思う。また、卒業する前にみんなでもう一回ぐらい来れたらいいなあ。


 そんなことを考えながら歩いていると、ふと目的地が、このテーマパークで最強のジェットコースターであることに気づいた。私はさっきまで笑いすぎて聞いていなかったけれど、これから時間もないし、絶叫系トップスリーを順番に行くことになったらしい。


 朝イチあのジェットコースターに乗せられて酷いめにあった石堂君は若干青い顔をしていた。どうせ、翠あたりが煽ったせいで、乗らないという選択肢は取れなくなったんだろう。かわいそうに。

 私はあのジェットコースターは別に怖くはないからいいんだけど、みんなで乗って大丈夫なのかな。特に初めての遊園地の弥ちゃんと、さっきまで体調を崩していたヒロ君。気になって、近くにいた弥ちゃんに耳打ちした。


「ねえねえ、弥ちゃん。次のジェットコースター朝に乗ったやつより怖いやつだけど大丈夫?」


「あら、大丈夫よ。最初に乗ったやつは浮く感覚になれなくてよってしまったけれど、次のはそうではないんでしょう?優子から浮く感じはほとんどしないと聞いているわ。」


「いや、まあ、そうなんだけど。」


 にっこりと若干圧のある笑顔で言われておとなしく引き下がる。


 次のジェットコースターは酔ってしまうような感じはしないんだけど、重力を感じるというか、Gを感じるというか、一回転やらとんでもない向きで走行するタイプなんだけど、大丈夫かな……。

 心配そうな目で見てしまうけど、あまりにも弥ちゃんは何か問題でも?とでも言いたげな顔で見てくるから何も言えなかった。

 ちなみに、ヒロ君に関しては声をかけなかった。ヒロ君を見て顔を赤らめる同い年ぐらいの女の子たちにすれ違うたびに笑顔を振り撒いてたから、ずいぶん余裕そうだ。昔から体調崩した時の復活早いし、多分今回も大丈夫でしょ。心配して損した。


 目的のジェットコースターの待ち時間は一時間半。


 今まで並んだ中で一番待ち時間が長いけれども、これでもいつもよりは短い。


 このアトラクションは四人で一列の両足が浮いているタイプだ。だから、今まで通り男女二人ずつ組むことになった。

 今まで通り男女に分かれてそれぞれ番号を決めて隣同士に座る人を決める。


 私の横は石堂君。石堂君とはあんまり話したことはない。


 怪盗シスルの件も私は瑠璃経由でしか話を聞いたことないし、なんなら石堂君は文系のためクラスが違う。その割には休み時間によくこっちのクラスに来て翠に絡んでる。クラスに友達いないのかな?


 そんな失礼なことを考えていると、急に後ろから歓声が聞こえてきてびっくりした。どうやら翠はようやく瑠璃とペアになったらしい。

 それにしたってうるさすぎる。本当にどんだけ嬉しかったんだろう。私はただ呆れているだけだったけど、周りの迷惑になると判断したのか、近くにいた樹が実力行使で黙らせていた。樹も樹でたまに突拍子もない行動を取るからびっくりする。


「愉快な人たちだね。伊藤さんは彼らとは付き合い長いんだろう?」


 私と同じく、呆れたような顔をした石堂君が話しかけてきた。


「うん、そうだね。今日ここにいる半分くらいとは小学校とかそれより前からの付き合いだよ。」


「へえ、そんなに!僕はそこまで付き合いが長い人は身近にいないから少し羨ましいかな。」


「うーん、そうかな。たまたま、高校まで一緒だっただけだし、将来はバラバラになってそうだしな。」


 そこまで言葉に出して後悔した。せっかく話題を振ってくれたのに、終わらせる方向に行ったらダメだろう。

 それに、自分で言葉にしといて、将来みんなとバラバラになるのにショックを受けた。将来の夢はみんな違うし、バラバラになるのは当然だ。それでも、17年とちょっと生きてきて、半分以上はずっと一緒にいた人たちがほとんどだ。

 あと一年ちょいでそれぞれの道に進んで、今までみたいに一緒にいられないのは、正直言って嫌だ。


 ……止めよう。今日考えることじゃない。今日はただただ楽しむために来たんだから!暗くなった気持ちを誤魔化すかのように別の話題を石堂君に振ることにした。


「そういえば、石堂君って探偵?なんだよね?どんなことしてるの?テレビの特集ぐらいでしか見たことなくて……」


「ああ!興味あるのかい?探偵と言っても僕たちは……」


 話題選び失敗したかも。石堂君はいつもの落ち着いているような感じをどこかに置き去って、キラキラした目でマシンガントークを始めてしまった。あまりの勢いに、私は相槌を打つ機械になってしまった。

 そしてそのまま、一時間半の待ち時間が過ぎ去っていった。その間に私はさっきまで知りもしなかった、現代における探偵とはどんなものなのかという知識を身につけていた。

 亜矢の恋愛トークと比べたら、かなりマシだったけど、それなりに疲れたことは言うまでもない。


 ジェットコースターに乗る直前になると、石堂君はさっきまでの輝いていた目と止まらなかった口はどこかにやって、だんだんとロボットみたいなぎこちない動きになった。朝イチに刻まれた恐怖を思い出してしまったらしい。

 直前でやっぱり怖いって人むけの出口もあるからそこに案内しようとしたけど、石堂君本人に阻止された。


「このまま逃げて翠君あたりに揶揄われるのだけは僕のプライドが許さないんだ。隣で僕がどんなに情けない悲鳴をあげていたとしても、気にしないでくれ。」


「そっか……。」


 その時の石堂君はまるで戦場に向かう兵士みたいだった。ジェットコースターに乗るだけなのに。


 待ちに待ったアトラクションは、宣言通りとなりから情けない悲鳴が聞こえてきて、笑いを堪えるのに必死だった。石堂くんには悪いと思ったけど、その気持ち以上に面白さが勝っていた。


 アトラクションを降りると、石堂くんは息も絶え絶えの状態で、翠が全力でいじり倒していても反応が鈍い。石堂くんと同じく今日が初ジェットコースターの弥ちゃんは余裕そうだった。最初に乗ったのが酔いやすいやつだったからきっとあんなに体調悪そうな感じになったんだろう。


 アトラクションから降りて、邪魔にならないように通路の端に集まった。時刻は十六時時ぐらい。乗ろうとしていた残り二つのアトラクションはどちらも90分待ちで、帰りの時間を考えると、どっちか一つにしか乗れそうにない。


「どうする?スキシャンの方は私たち乗ったけど、そっちはまだ乗ってないよね?」


 優子の問いかけに翠が頷く。


「俺としては、スキシャン乗らないとここにきた感じしねーから乗りたい!」


 樹もヒロ君も緑に同意してる。石堂君は『さっきのよりましならどれでもいいよ。』と相変わらず死にそうな感じ。

 何の反応もしていない朔を優子は気にするように見たけれど、朔はどっちでもいいとぶっきらぼうに言うだけだった。


 私たち女子組も、どっちでもいいと言えばどっちでも良かったので、結局スキシャンに乗ることに。個人的にはもう一つのヨアリの方に乗りたかったのだけれど、多数決で決まりかけてるところに口を出すのも申し訳なかったし何も言わなかった。


 次の目的地について、誰と一緒に乗るか今度は違う方法がいいって亜矢が言い出したから、今度は男女それぞれジャンケンで勝った順番にペアを決めた。


 私はまさかの初回で一人負けをしたから、ちょっと退屈。


 割とあっさり決まった私たちとは違って、男子は泥沼のようなじゃんけんを続けている。私たち全員の結果が決まっても、誰一人も勝ちも負けもしてなかったのだ。

 何度もあいこを繰り返し、樹が一抜けしたら、その次は朔とヒロ君が二人とも負けた。


 この時点で私はどちらかの隣に乗ることが決まったのだけれど、朔とだけは一緒になりたくなかったから、心の底から朔の勝利を願う。

 私の願いが通じたのか、ヒロ君が負けてくれたおかげで、朔の隣に座ることからは逃げるのには成功。思わず安心して口から息が漏れた。


「おや、私じゃ不満だったかな。」


 いつかの翠と同じようなことを言うヒロ君を睨みつけたけど、全く響いていなさそう。今度こそ呆れたようなため息が口から漏れた。


「違うよ。安心しただけ。」


「ああ、そういえばバレンタインはうまくいったのかい?最近あなたたちが一緒にいるのはあんまり見ていなかったのだけれど。」


 さっきよりもきつくヒロ君のことを睨みつける。この人もそういえば、私をはめた側の人だった。それでもって、私が朔のことを避けていることをわかった上でふざけた冗談を言ってきたのだ。


「何か勘違いしてるみたいだけど、私が渡したのはただの義理チョコ!試作品!これ以上そのこと話題に出したら、あんたの連絡先、学校の女子にばら撒くからね!」


「それは勘弁して欲しいかな。これ以上そのことには触れないさ。ところで、進路はあれからちゃんと決まったのかい?」


 本気でするつもりは全くなかったけど、私の脅しはよっぽど聞いたらしい。いつも変わらない笑顔が崩れた。

 そしてそのままさっきまでの会話はなかったことかのように話題を変えられた。私としてはありがたいけど、そんなに連絡先ばら撒かれるのは嫌なんだろうか。倫理的なところは置いておいて、自分からは女子にガンガン声をかけるくせに、向こう側から来られるのは嫌いなのかもしれない。正直ヒロ君の恋愛観(そこ)はよく分からない。


「とりあえず、文転して語学系にいくつもりではあるよ。ダンスでも世界に行くなら活かせそうだし。」


「そう。ならよかったよ。相談に乗った甲斐があったよ。」


 そこからは宣言通り、ヒロ君は例のことには一切触れずに、樹にしたのと同じようなことを話していた。ダンスで今年どうするのかとか、受験の対策どうするとか、まるでもう高校三年生になったかのような会話だ。


 樹と話してても思ったけど、この時期ってなんか嫌だ。学校生活の話をすれば、最後の二文字が頭に浮かぶし、あとちょっとしたら遊んでもいられなくなる。

 一年後の今頃は、受験の結果も決まっていて、何がどうあっても今のままの生活は続けられないし、みんなとも別々の道を進み始めてる。気が早いといえばそう、重く考えすぎといえばそうだけど、私はそれが気が気じゃないのだ。


「まあ、何はともあれ、今日は最後まで楽しみなよ。これから忙しくなるんだろう?」


「え?」


 余計な考えが浮かんでいて、返事が適当になっていたのがバレたのか、さっきまで話してた模試のことはどっかにやって、ヒロ君は突然そんなことを言い出した。


「色々考え込むのは今日じゃなくたっていいだろう?ほら、色々やってくれた大河さんにも悪いじゃないか。」


「……うん。そうだね!」


 ヒロ君の言う通りだ。今日は楽しむためにきたんだ。このメンツで今度集まれるのはいつになるか分からないからこそ、今日はしっかり楽しむべきだし、明日からはどうせダンスと勉強漬けの日常が戻ってくる。


 アトラクションの乗り場はもうすぐそこまで来ていた。90分の待ち時間が短く感じられたのだってヒロ君が話上手いのもあるけど優子がどこにどう並べば、早く順番が回ってくるのか私たちを誘導してくれたおかげだ。

 それだけじゃない、優子は今日の日程調整だとか、チケットの手配だとか、さらには私たちの案内まで全部張り切ってやってくれたんだ。最後まで楽しまない方が失礼な気もする。


「ヒロ君も、いい感じの悲鳴をあげて楽しもうね!!」


「うん、いい笑顔だけど誤解を招くような言い方はやめて欲しかったかな。」


 乗る直前に、今更吹っ切れたようなテンションになった私は変なことを口走って、ヒロ君に呆れられてしまった。

 肝心のアトラクションは、両手もあげて、落ちるためにバカみたいな悲鳴とも歓声ともつかない声をあげて全力で楽しんだ。

 よりにもよって先頭になった、石堂君の悲鳴が聞こえてきたのは多分、気のせいだ。後ろの朔と弥ちゃんがなんの声もあげてないような気がしたのもきっと気のせいだ。


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