大河優子は疲れている
一人で急に笑いが止まらなくなったあかねにみんなの注目が集まっている間に深いため息をついた。
やっと、やっと、全部の魔法の解除が終わったらしい。
男子と合流した時にこっそり神代くんから渡されたキーホルダーにそのことが表示されてやっと肩の力が抜けた。
このキーホルダーも魔法的なアイテムらしいけど、つくづく魔法って便利だ。認証した人にだけ音声やメッセージが聞けたり見えたりするなんて、ちょっと魔法が使える程度のあたしには絶対作れない物だけど。
キーホルダーを眺めていると、さっきまでの苦労が思い浮かんでまた、ため息が出た。別にあたしは何もしてないといえばそうなんだけど、あの三人が勝手にするおかげで毎度いい感じの言い訳をしたり、みんなの視線を別の方に集めたりするのが大変だった。
まず最初に、比良坂と弥が勝手にどっかに行っていたのは、次のアトラクションに移動する際に魔物――あたしはよくわかってないけど悪魔とかそう言う類の集団が集まってくるからって倒しに行ったせいだ。
比良坂はともかく、弥が一緒に行ったのは、結界やらなんやらの人目に触れないようにするための対応だったらしい。
あと、こっちにちゃんと魔法で戦える人間がいた方がいいという理由で神代くんが残った。そこまでは別にいいんだけど問題は事後報告だったこと。
おかげで、あかねたちが二人がいないことに先に気づいて、騒ぎになるところだった。
かなり適当な理由をでっち上げたけど、みんなが信じてくれたからよかったけれど、最低限一言言って欲しかった。
その後戻って来た時の口裏合わせも失敗しかけて、石堂君あたりに疑われていそうだった。幸い神代くんがなんとか誤魔化してくれたからよかったけど。
それでさっきのアトラクションもまあまあ最悪。
安全が確保されているっていう情報があるからわざわざ並んだのに、結局魔法の解除はされてなかった。
正確にはされてはいたんだけど時間差でもう一つの魔法がかかるような仕掛けになっていたらしい。
まあ、結果魔法はかかりっぱなしの状態だったんだからどっちでもいいんだけど。
おかげで、あたしはやばそうな魔法がかかっているのに内心ビクビクして、ヤバめの顔色になり心配される羽目になった。
最もあの三人には大したことのない魔法だったようで、大丈夫としか言わないし、なんなら勝手にどんどん解除していた。そこまではいい。
問題はアトラクションに乗っている最中のことだ。なんか見たこともない、おどろおどろしい人形が増えていると思ったら、次の瞬間にはどこからか飛んできた矢のようなものによって切り刻まれて消滅したり、この世のものと思えない叫び声をあげて消滅していた。
亜矢と翠は恋愛話で盛り上がりすぎて周りが見えていなかったからいいけど、他の人はそうもいかない。みんなに疑問を持たれないように、ちょっとしかできない魔法をなんとか使って、そういったものが見えたり聞こえないように、いつも通りのアトラクションの風景だと誤魔化すのに全力だった。
この時ほど何度もTTJに来てよかったと思ったことはない。かなり細かいところまで再現できた自信がある。
一番の問題は最後の急降下のところ。急降下して落ちる着地点に、例のおどろおどろしいバカでかい人形が口を開けて待っていた。ちょうど乗っているボート型の乗り物が飲み込めるぐらいの。
おかげであたしはこのアトラクションで今まで味わったことのない恐怖を味わう羽目になり、過去一の悲鳴を上げる羽目になった。
結局、比良坂がそのアホみたいにでかい人形を倒してくれたから、飲み込まれることはなかったのだけど、その代償に派手に水柱が上がって、ビッショビッショになった。
本当は出口の近くに、落ちる時に撮られた写真を買えるところがあるけど、あたしがかなりヤバめな顔をしている自信があったから、濡れてることを言い訳にみんなを近寄らせなかった。
乗り終わったら乗り終わったらで、今度はこの周囲から動くのが危険らしくて、神代くんが朝の宣言通りに体調の悪いふりをした。
明らかに体調の悪そうな様子とは対照的に、キーホルダーからはいつも通りの調子で、指示を出してくるものだから、あたしは思わず引いてしまった。
その後ちょっとして、魔法が全て解除されたとの連絡が入ると、神代くんは薬という名のラムネを飲んで、体調が良くなったフリをしていた。
正直この場から動いてもよかったけれど、あのアトラクションのせいでやたらと疲れていたので、パレードを言い訳にここに止まる提案をした。
翠と言い争うことで時間の引き延ばしをしていた弥も納得してくれたし、なんだかんだ弥たちも疲れてたんだと思う。
その後のパレードで、ストレス発散と言わんばかりに踊りに行った。一人じゃ恥ずかしいからあかねを巻き添えにして。
そのあかねが比良坂を巻き添えにしたのは想定外だったけど、恥ずかしそうにしていたから、さっきまでの勝手な行動たちに対する怒りはどっかに飛んでいった。
何はともあれ、魔法の解除は終わったから、ここからは普通に遊園地を楽しめる。そうなったら次に行くべきアトラクションはあそこがいいかな。いまだに笑いの止まらないあかねを尻目に、今後の計画を頭をフル回転して考えた。だってやっとあの三人も心の底から今日を楽しめるようになったんだから!




