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パレードは笑顔で


 話しながら食べていたのと、なかなかの量があったせいで食べ終わるのにはちょっと時間がかかった。


 食べ終わるとすぐにお金の精算だ。樹がたまたま一万円札を持っていたので一旦まとめて払ってもらっていた。

 それに翠たちが買ってきたものもあるし、結局合わせるとなかなかの値段がした。ファミレスにニ回どころか三回ぐらいいけそうな金額だ。

 食事でこんなに使うつもりはなかったからなかなか痛い出費だ。カチューシャとかもなんだかんだ高いし。そう思っていたのは私だけではなかったようだ。何人かは財布の中身を見てちょっと引き攣った顔をしている。


『レディースアンドジェントルメーン!お待たせいたしました!まもなくパレードが始まります!』


 いつの間にかそんな時間になっていた。パレードの開始直前のアナウンスがなった。


 寒くなった財布を引っ込めて、大通りの方に視線を向ける。どこからかともなくスタッフさんがやってきて、恒例のみんなで踊るダンスパートのレクチャーが始まった。

 ちょっとした悪ノリでみんなで練習がてらふざけながらスタッフさんの真似をした。なんだかんだ私たちのいる位置は最前列だったし、盛り上げないわけにもいけなかったのだ。……朔まで嫌そうな顔しながら踊っていたのは面白かったけど。


 一応の後ろの人がみやすいようにカチューシャを外しておいて、パレードが来るのを待った。


 小さい頃はよく見ていたけど最近はどんなパレードやっているのかあんまり知らない。他の人に知っているか聞いてみたけどパンフレットに書いてある以上の情報は出なかった。やっぱりみんなあんまり興味ないらしい。


 あのキャラ出てるかな?とか流石にいないわけないでしょとか話していたら、急に爆音で音楽が鳴り出して思わずビクッと反応してしまった。それは隣にいた瑠璃も同じようで、思わず笑いが漏れる。それをみて間髪入れずに翠がからかってきた。


「お前らビビってやんのー!」


「翠うるさい!」


「そういうお前も驚いていただろ。」


「バラすなよ樹!」


「えー、遠藤自分もビビってたのにそんなこと言うんだ。だっさー。」


 樹が翠の様子をバラした瞬間、今度は優子がからかいはじめた。そこからはみんなで翠をいじり出した。

 なんせ今日ストーカーまがいのことをかましていたから、翠は一番下に格付けされてしまっている。あと、ちゃんと反応を返すせいでからかいが止まらないのだ。特に弥ちゃんと石堂君の。ずっと揚げ足をとっている。

 前から思ってたけど、翠はなんかこの二人に弱い。なんか秘密でも握られてるんだろうか。反論する勢いも、他の人を相手にするときよりも勢いがないし。


 そうやってみんなで盛り上がっていると、いつの間にか最初のフロートがもうすぐそこまできていた。せっかくならパレードを楽しもうと言うことで、翠をからかうのは一旦やめて、パレードのダンサーさんや、キャラクターたちに全力で手を振り出した。

 さっきの悪ノリがまだ続いているみたい。でも、周りの高校生と思われる人たちもはしゃいでるし、こんなもんだろう、本当はちょっと恥ずかしいけれど。


 そういえば、小さい頃ここにきた時も、こんなふうに全力でパレードではしゃいでいた気がする。いつだったかは忘れてしまったけれど、それはもう、全力で手を振ったりキャラクターの名前を呼んでいた気がする。

 あんなに好きだったはずなのに、そのキャラクターがなんだったか思い出せないけど、手を振りかえしてくれたことがすっごく嬉しかった。

 確かその時は、朔とかも一緒だった気がする。小学校に入ったばかりとかだった気がする。

 お母さんたちと一緒に、瑠璃や翠も一緒だった気がする。なんだかんだ家族ぐるみで仲良いし、確かそうだった気がする。あの時は、朔もこんな性格じゃなかったし、純粋にはしゃいで一緒に手を振っていた……と思う。


 じゃあ、今の朔はどうなんだろう。後ろに座っている朔をチラリと見ると、あろうことか腕組んで目を閉じていた。……つまり寝ていた。

 さっきまで、一緒になって翠をからかっていたくせに、こんなに大音量で音楽がなっているのに、周りの人もみんなはしゃいでいるのに。

 こんな状況で寝ていられる神経も、みんなでせっかく盛り上がっているのにっていう不満と、こんなやつじゃなかったのに、みたいな感情がごちゃ混ぜになった。 本当にありえない!これ以上寝ている朔をみていてもしょうがないので、視線を前に戻した。パレードはキラキラしているのに、なんだかモヤモヤが心の中に残ったままだった。


 いまいち晴れない気持ちでしばらくパレードを眺めていると、急にフロートが目の前で止まった。……まさかと思うまもなく、パレードの音楽が少しだけ小さくなって、アナウンスが鳴り響いた。


『それではみなさん、私たちと一緒に、素晴らしいステージへ!』


「あ、言い忘れてたけど、ここちょうど真ん前に止まるところ!せっかくだから行こうよ!」


 今まで忘れてましたと白々しく言い訳するような優子に手を引かれて、観客側から踊る側に強制的に連行された。踊る方に行こうとしているのは、私と優子だけで他のみんなは動いてない。

 それに気づいて慌てて立ち止まったけど、優子に「あかねはなんのためにダンス習ってんの!?」とか言われてさらに強く引っ張られる。少なくとも、ここで晒し者にされるためじゃない。踊る側に行こうとしているのはほとんど小学生とかの年下の子供ばっかりだから流石に恥ずかしい。


 小さい攻防をしていると、ダンサーの人たちまでおいでおいでと寄ってきた。さっきまで子供みたいにはしゃぎすぎたせいで目をつけられていたのかもしれない。この攻防だって悪目立ちしている。

 それに運動部の優子にこう言う勝負で勝てるわけない。こうなったらもう踊るしかない。でも私一人だけ晒されるのは嫌だ!

 

 ちょっと手を伸ばして、寝ていた不届者の腕を掴む。そしてそのまま優子に片手を引かれるまま、もう片方の手で朔を引き連れて、子供だらけのパレードのフロート近くに陣取る。朔はまだ寝ぼけているのかおとなしくついて来た。


 ちょうど私たちがたどり着いたぐらいで、とうとうみんなで踊る時間が始まった。それでようやく朔も自分が何をさせられるのか察したのか、顔がいつもの無表情から眉間に皺を寄せて険しい顔になった。周りの子供がビビるからすぐやめさせたけど。


 こんなのは中途半端に踊る方がかえって恥ずかしい。だから、私は逆にノリノリで踊ることにした。みんなで踊ろうがテーマだから、単調な振り付けだけどかえって自分の技術力を出しやすい。周りからすごいみたいな声が聞こえてくるのは少し恥ずかしいけど、悪い気はしない。


 優子の方をチラリと見ると、流石にガチ勢だから慣れているのか特に問題なく踊ってる。よく見るとチラホラ大人もいるし、きっと優子みたいなガチ勢なんだろうな。一方の朔の方は、踊らない方がかえって悪目立ちするかと思ったのか、ぎこちなく、控えめに踊ってる。

 そういえばあの時も、朔は同じようにぎこちなく踊っていた。そういうところは昔から変わらないんだから。パレードで寝るような人間になっていたのに、そこが変わっていないのが、なんだかおかしくって、思わず笑ってしまう。

 久しぶりにこんなに笑顔で踊っている。普段はバトルばっかで楽しんで入るけど、バチバチしていることの方が多いから。


 曲が終わって、元の場所に戻ってね〜みたいなアナウンスが流れて、みんなのところに戻っても、ずっと顔は笑っていた。さっきまでのモヤモヤもどこかに消えていた。席に戻った時に朔の耳がほんのり赤くなっているのが見えた。そこも昔から変わらなくて、また笑いが止まらなくなった。他の人に不審な目で見られたけどどうでもよかった。


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