急病人と昼ごはん
優子の合図でみんな一斉にそれぞれ手を出す。それを何回も繰り返した。なんせ十人もいるからなかなか綺麗に別れてくれない。パーが多かった次はグーが多くなって、今度はまたパーが多くなって。途中から面倒くさくなったのか朔はグーしか出していない。だから私もしれっと途中からパーしか出さなかった。結局、なんとか綺麗に別れた時には、私たちが待機列の先頭になっていた。
私、瑠璃、樹、ヒロ君、石堂君がパーを出して、朔、翠、優子、亜矢、弥ちゃんがグーを出した。綺麗に私が一緒になりたくなかった人たちが別になった。心の底から安心した。翠なんかはまた瑠璃と離れてしまったせいで、ものすっごく悔しがっていた。
ボートのような形をしたアトラクションに乗り込んで、安全バーが降りる。スタッフさんの「ボンボヤージュ!」の掛け声と共に発進した。私たちの列は、普段の学校のこととか部活のこととかいたって平和な会話をしていたけど、後ろの列は恋愛モンスターにロックオンされた翠が、とっても大変そうになっているようだった。そして最後の目玉の急降下。派手な音を立てながら落下というよりも水に突っ込むような感じで、私たちはずぶ濡れになった。このアトラクションってここまでずぶ濡れになるようなものだったっけ?
「やっべえ、想定外に濡れた!」
「これってこんなに濡れるやつだったっけ?」
「レインコート買えばよかった!」
他のみんなもこんなに濡れると思っていなかったみたいだ。乗り場に戻るまでの間はその話題で持ちきりだった。アトラクションを降りてもこんなに濡れているのは私たちだけで、ものすごく目立った。なんなら、列に並ぼうとしていた人たちが慌ててやたらと高い遊園地価格のレインコートを買いに行っていたほどだ。
本当はこの後、時間的にもちょうどいいから、ご飯を食べるはずだったのだけれど、こうもびしょ濡れだと、店に入りずらいし、最悪、入店を断られるかもしれない。どうするべきか、アトラクションの出口から少し離れたところで話していると、亜矢が急に悲鳴を上げた。
「神代君大丈夫!?ど、どうしよう!!」
ワタワタする亜矢の横で、非常に顔色の悪いヒロ君が亜矢に寄りかかるように立っていた。このままだと倒れそうだ。私が何か行動を起こす前に男子たちが素早く動いた。樹と朔は亜矢一人じゃ支えきれないと判断して支えに行ったし、石堂君は応急手当てとかの知識があるのか指示を出している。翠は石堂君の指示を聞いて、近場のベンチを探し、場所取りに向かった。 ヒロ君はただの貧血だと言っているけれど、絶対大丈夫じゃない。完全に私は忘れていたけれどヒロ君はなにかしらの持病を持っているんだ。絶叫系にそもそも乗って大丈夫じゃなかったのかもしれない。
樹と朔が両サイドから支えながらなんとかベンチまで辿り着いたヒロ君の顔色は、座っているおかげかさっきよりもだいぶマシになっていた。とは言っても心配だ。救護室とかで一旦見てもらったほうがいいかもしれない。マップを確認した感じ近くにはありそうだけど、いまいち距離感に自信がない。そう思って1番詳しい優子に聞いてみることにした。
「ねえ、優子。救護室ってここから近くにあるんだっけ?ヒロ君が歩けるようになったら行ったほうがいいよね?」
返事はなかった。なぜか優子は引き攣った顔……というか信じられないとでも言いたげな顔をして、ヒロ君たちの方を見ていた。急にヒロ君が倒れかけたからびっくりしたのかもしれない。ヒロ君は普段もいたって健康体に見えるし、ちょっと前までは部活でもそれなりの成績を出してたし、持病があることを知らなかったのかもしれない。私たちも体育にすら参加できないって知った時は信じられなかったし。確認のためにもう一回声をかける。
「えっ、あ、そうだね。あ、歩けるようになったら行ってもいいかもね。無理に動かしてもよくないだろうし。あ!あたしたちもあっちにいこっか。離れてても仕方ないし。」
そう早口で言うとベンチの方へ小走りで行ってしまった。急に置いてかれるような形になったけど、他のみんなはヒロ君のことを心配してベンチ周りに集まっていたし、移動していないのは私と優子だけだった。そのことに気づくとなんだか自分が全く心配に思っていない薄情な人みたいに思えて、私も慌ててヒロ君のもとへ行った。
私がベンチの方へ行くとヒロ君はちょうど何か薬を飲んでた。そしてそのままもう大丈夫と言い張っていたけど、流石にみんなが許さなかった。ヒロ君的には私たちを自分のせいでこの場に留めておくのが嫌なのか、みんなで他のところ行っておいでと言うけれど、それもよく思ってない人の方が多い。一瞬雰囲気が険悪になりかけたところに、優子がある提案を出した。
「ちょうどパレードまで一時間ぐらいだし、ここで服を乾かすついでにご飯食べて待つのはどう?一時間たって神代君が復活するならそれでいいでしょ?」
「確かに、それなら休憩も兼ねてちょうどいいかもしれないわね。」
「まあ、そうだけどさあ……。おい、ヒロ!一時間立っても死にかけてたら救護室ぶち込むからな!」
1番激しめに言い争いかけていた弥ちゃんと翠が納得したことでそう言うことになった。そこからは早かった。準備のやたらいい優子がカバンの中からレジャーシートを取り出すと、翠もなぜか持っていて、ベンチを含めて十人が座れる場所ができた。そしてすぐに買い出しジャンケンが始まった。体調の悪いヒロ君を除いても九人もいると決着がなかなかつかないことは目に見えていたから、四人と五人に別れて負けた二人、合計四人が買い出し係になることになった。
私は初手で一人まけをかましたので、買い出し係確定。笑う他の人に対して、こっち側にこいと怨念を送る係になった。結果的に買い出し係は私と樹と翠と瑠璃になった。なんだか懐かしい気持ちになるメンバーだ。翠はようやく瑠璃と一緒になれたのがよっぽど嬉しかったのか、速攻で瑠璃と二人で買い出しに行ってしまった。なにが食べたいかとかの希望も聞かずに。
仕方がないので、私と樹はみんなの希望を聞いてから買い出しに行くことにした。優子が近場のフードスタンドになにが売っているかは把握していたのと、みんな気を遣ってくれてそこにあるものを希望に出してくれたので、ありがたい限りだ。他の人に一旦別れを告げて樹と一緒に目的のフードスタンドまで向かった。
フードスタンドに着く前や、買うまでに並んでいる間、樹とは部活のことだったり、私の習い事のことだったりたわいもないような話をしていた。樹は今年なんとU18の日本代表のキャプテンを務めるらしい。アジア大会もあるから優勝したいとも言っていた。それだけじゃなくて、春高だけはまだ優勝できていないから今年は絶対に優勝したいとも。バレーに対する情熱が過去1高まっているようだ。
私も、高校生として大会に出れるのは最後だから、最後くらい全国規模の大会で優勝をしたい。それに、まだダンスの先生が少し言っていた程度の話だけど、もしかしたら今年、私は海外の大会に挑戦するかもしれない。去年、中間テストを犠牲に勝ち取った大会までそんなに時間もない。全てに高校生活最後の枕詞がついてしまう時期はもうすぐそこまで迫っていた。あと、大学受験も。樹と話していると、テーマパークの楽しい空間に、現実の二文字が襲いかかってくるような気がした。それは樹も一緒だったらしい。ある程度、バレーやらダンスのことを話したら急な話題転換をしてきた。
「そういえばお返しはもらったのか?」
「なんで!?樹まで!?」
私にとっては嬉しくない方向に。ただ、翠や亜矢と違って、ただただ確認として聞いてきただけだったのと、私が返答を濁しているとなにを思ったのかまた別の話題を振ってくれたので樹は許そう。まあ、その話題も「翠と瑠璃はいつの間に付き合ったんだ?」なんてちょっと、事実と異なることだったんだけれど。もちろん、瑠璃の名誉のためにまだ付き合ってないよと教えてあげたけど、あんまり信じてなさそうだ。
樹の天然なのかよく分からない、ちょっとズレた認識を正していると、私たちの番がやってきた。それなりに人数いるからそれなりの量だったけど、気を効かせた店員さんが大きめの袋とトレーをくれたので割と運びやすかった。……まあ、樹がほとんど持ってくれたんだけなんだけどね。みんなに頼まれた大量のポテトやチキン、ハンバーガーを持って帰ると、翠たちもちょうど戻ってきていた。
翠たちは大量の甘いものを買ってきていた。私たちの買ってきたご飯系と合わせるとなかなかの量がある。食べ切れるかちょっと不安になったけど、運動部の三人と朔がすごい勢いでバクバクてべているから大丈夫そうだ。みんなで食べながら適当に色々話していた。亜矢が恋愛系の話に持って行こうとするのを何回阻止したのか分からない。心配で時々ヒロ君の方を見ていたけど、体調はすっかり回復していそうだ。




