待ち時間の疲労
「せっかくだから男女で隣同士なろうぜ!」
「賛成ーー!」
アトラクションの乗り場に着いた途端、翠の浮かれた提案と、亜矢が乗り気な返事が聞こえて、私のテンションは下がった。
他の人もそんなに乗り気なのは、その二人だけだったけれど、勢いが強すぎて、みんな押し負けた。
あっという間に男女それぞれ分かれて、一から五までの数字を選ばされて、誰が何番目に並ぶかを決めさせられた。数字があった人同士がペアになるらしい。
頼むから、朔とだけは隣になりたくない!!
結局あの合流から、十人の大所帯で動くことになってしまった。そしてそのまま、待ち時間も少なくて、私たちが座ったベンチの近くにある二人乗りの、比較的怖くない――言ってしまえば子供向けのジェットコースターに乗ることになった。
行き先を決めている時に発覚したことだけど、弥ちゃんだけじゃなくて、石堂君も遊園地に来たことがないタイプの人だった。
なお男子が全員悪ノリしたせいで、ここで一番怖いジェットコースター、通称『ファントム』の期間限定版のさらに怖いやつに乗せられたらしい。
男子って本当に容赦がない。私たちと違って、ジェットコースターに乗ったことがないことを知っていながらの犯行だったらしい。
そのおかげで、石堂君は次に行くのが本当に子供向けのジェットコースターなのかずっと疑っていた。実物を見て流石に一発目に乗ったものよりはマシなことの確信を持てたらしい。…このジェットコースター、子供向け詐欺で有名だけど大丈夫かな……。
そんなことを考えていたら、男子たちも順番が決まったらしい。女子はじゃんけんで決めたけど、私は早々に一人まけをしたから一番後ろの五番目だ。朔が前の方に並び出したのをみて思わず安心してため息が出た。ふと横から強い視線を感じてみると、やけに不満そうな顔をした翠と目が合った。
「……なんだよ、オレじゃ不満なのかよ。」
「別に違うけど。自意識過剰じゃない?」
「なんでオレにだけあたり強いんだよ!」
私の隣は翠らしい。ちょうど横に来た時に私がため息を吐いたため、勘違いしたみたい。
色々と余計な提案をしてきたことの八つ当たりを込めて冷たくしたら、わざとらしく嘘泣きしてきた。
面倒くさくなって前を向くと、亜矢がやたらヒロ君に絡んでるのがやけに目立った。……隣に学校一のイケメンがいて浮かれてる。
ここからでも分かるぐらい、ぴょんぴょん飛び跳ねたり、やけに大きめな身振りをしていたり、テンションが高いのが丸わかりだ。
ヒロ君は人の良さそうな笑みを浮かべたままだけど、あれは絶対面白がってる。付き合いが長いおかげでなんとなく分かる。
二人に呆れていると、隣からとてつもない重圧を感じた。
驚いて隣を向くと、翠が親の仇でもみるかのような目で誰かを睨んでいた。
視線の先を追うと、石堂君がいた。そして仲良さそうに何か話している瑠璃も。一番先頭にいるから会話の内容はわからないけどそれなりに盛り上がっていそう。 翠はさっきまで、嘘泣きしていたくせに、そんな怖い顔をしてもイマイチ迫力がない。
そもそも翠が男女ペアに、しかも面白くないからそれぞれ分かれて番号で決めようなんて言い出したのだから自業自得だ。
そんなに瑠璃の隣がよかったなら、自分から瑠璃と乗るっていえばよかったのに。そう思ってたら、口に出ていたようで、今度は私が翠に睨まれた。
「それができたら苦労してねえんだよ!」
「あんなに好きって言ってるのに!?」
今日一日で一番びっくりした。翠の照れる基準がよく分からない。あんなに告白まがいのことしておいて、今更そんなことで照れるんだ………。
あまりの衝撃に口を開けたままでいると、翠は照れているらしく、顔が赤くなってきた。
「それはそれ、これはこれなんだよ。そういうお前だって朔にバレンタイン……。」
「なんであんたが知ってんの!?」
翠が知らないはずのことを言ったせいで、焦って声も裏返った。今度は私の顔が真っ赤になっていた。翠はしてやったりと言わんばかりにニヤニヤしていた。
「へえー、マジだったんだあの話。で?そこからは?」
……嵌められた。翠は本当は知らなかったんだあの話。
私が露骨な反応をしたせいで、翠にまでバレてしまった。そこからはひたすら翠の追撃を適当な言葉と、瑠璃のことで言い返してアトラクションの待ち時間をやり過ごした。
それどころか、アトラクションに乗ってる時ですら、翠とくだらない応酬を繰り返していた。
乗り終わってからも言い合ってると、遠目からみていた瑠璃に、二人とも仲良いねと言われて、翠はようやく黙った。
お陰でバレンタインにまつわる詳細を翠に握られることなく、なんとか逃げ切れた。
……ちなみに、アトラクションの方は子供向け詐欺に石堂君が見事に引っかかったことは言うまでもない。
瑠璃に黙らされた翠が、普段の仕返しと言わんばかりに、からかい初めている。石堂君には悪いけれど、翠の頭の中から私と朔のことは抜け落ちていることにほっとしてため息をつく。
次のアトラクションに向けてみんなでゾロゾロ歩き出す。そして数分歩いたところでなんだか人数が足りないことに気づいた。
よくみたら朔がいない。アトラクションには一緒に乗ってたはずなのに、ほんのちょっと目を離したらいなくなっていた。どこに行ったんだろう。あたりを見回してもいなさそうだ。その様子をみて隣を歩いていた亜矢が話しかけてきた。
「どうしたのあかね?そんなにキョロキョロして?」
「いや、朔ってどこに行ったの?」
「あーほんとだ。ていうか弥ちゃんもいないね。」
「えっ……!あ、ほんとだ。」
亜矢に言われて初めて気がついたけど、弥ちゃんもいない。
朔はともかく、弥ちゃんはここに来るのが初めてだから、迷子になっていないか心配。
亜矢とどこに行ったんだろうと話していたら、近くにいた翠と瑠璃も気づいたようで探し始めた。先頭でみんなを誘導していた優子も騒ぎに気づいた。
「あー!ごめん!伝え忘れてた!二人ともちょっとトイレとかなんか電話きたとかでちょっと離れてる!後から合流するから先に並んどいってだって!」
「さっきそう言って抜けてたけど、後ろの方まで伝わってなかったみたいだね。」
優子が慌てたように二人がいない理由を伝えて、ヒロ君がフォローをしてくれた。
そりゃ、こんな大人数で邪魔にならないようあまり横に広がらないように歩いていたから、後ろの方にいた私たちに伝わらないわけだ。
私なんかさっきまで翠とくだらない言い合いもしていたし。それなら気にせずに次のアトラクションに行ってしまおう。
再びみんなで歩き出したところで、肩を叩かれた。振り向くとやたらとにやけた顔した亜矢と目が合った。
「弥ちゃんがいないのには気づいてなかったのに、比良坂がいないのにはすぐ気づくんだね〜!」
「はあ?」
何が言いたいのかいまいち理解できない。
「そんだけ比良坂のこと見てるってことでしょ!つまり、やっぱりあかねは比良坂のことす……」
「違うって!すぐそっちの方向に話持ってくのやめてくれる!?」
「そんなに否定するってことは……!」
「本当に違うから!」
勘弁してほしい。
いいネタを見つけたと言わんばかりに亜矢にいじられる。翠との言い合いが終わったと思ったら、今度は亜矢との攻防が始まった。
恋愛モンスターにネタを提供してしまった私が悪いとはいえ、こんなことでもネタにしてくる亜矢も大概だ。
アトラクションについてからもその攻防は続いた。他の人は関わらないが吉と言わんばかりに別の話題で盛り上がっていて私の味方はいない。……しれっと聞き耳立てていそうな、優子と翠は後で締めよう。
アトラクションを待つこと数十分。ようやく朔と弥ちゃんが戻ってきた。
それに一番最初に気づいたのは、話が止まらなくなっていた亜矢で、朔を見つけるなりキャーキャー言い出して、朔に睨まれてた。
流石に怖かったのか、ようやく亜矢の話が止まる。朔の前で本人をネタにした恋愛トークをする気はないのか、それきり話が振られることはなかった。
今回ばかりは朔の尾鰭のつきまくったよくない噂に感謝した。それぐらい、恋愛モンスターと化した亜矢の相手をするのに私は疲れていた。
朔たちが合流して少しすると、荷物を預けるためのロッカーのあるエリアまでたどり着いた。ここでロッカーに荷物を預けたら、十分ぐらいでアトラクションに乗れる。
今度のアトラクションは最後にかなりの高さから真っ逆様に落ちてびしょ濡れになるやつだ。
正確にはもう少しアトラクションは続くのだけど、そこのインパクトが強すぎて、最後どんなのだったか覚えてない。
これも、かなり有名なミュージカルが元ネタだった。私は観たことないけど、道中の歌の方が有名で、なんで水に落ちる系のアトラクションにしたのかよく分からないと、弥ちゃんは言っていた。
ともかく、濡れるなら日が出ているうちがいいとの理由で、このアトラクションに乗ることに決めたらしい。
複数人の荷物をある程度まとめてロッカーに詰め込んで、列に並ぶ。
TTJマスターと名乗っても過言じゃないぐらい優子のおかげで、空きロッカーをすぐに見つけられたから、さっきまで前の方にいた人たちを何人か抜かすことができた。
私も何回かTTJに来たことはあるけど、そんな私でも全然知らない知識を優子はいっぱい持ってる。
今度は優子と二人で、全アトラクションを一日で制覇するのにチャレンジしてもいいかもしれない。
なんてくだらないことを考えていたら、今度も男女それぞれごちゃ混ぜで座ることにいつの間にか決まっていた。
一列五人乗りだから、みんなでグーとパーで分かれることになった。私としては、朔と翠と亜矢の三人の誰かと一緒にならなければ全然誰とでもいい。とりあえず恋愛系の話題を提供するのも問い詰められるのももう嫌だ。
つい手を握りしめて祈っていたら、気合い入りすぎだとみんなにいじられた。うるさいな、こっちは本当に本心からあの三人と一緒になりたくないだけなのに!




