まさかの合流
「え!? どうしたの弥ちゃん!?大丈夫!?」
「ええ、そのちょっと……大丈夫よ。」
思わず大声を上げた私に、他の三人以外の周囲の見知らぬ人たちも振り向いてしまった。
そんな大声にもかかわらず、弥ちゃんからは全く大丈夫と思えないような弱々しい返事が返ってきた。
みんなが動揺して立ち尽くす中でも、いち早く動いたのは優子だった。
「もう!無理すんなっての!……私ちょっと救護室かトイレに連れてくから!」
そう宣言すると、弥ちゃんに肩を貸して迷いのない足取りでゆっくりとしたペースで歩き出した。
今日この中で一番、TTJに詳しいし、園内マップも頭に入ってるといっていたし、多分大丈夫だろう。
「分かった!この辺りで待ってるね!」
「……あそこのベンチに座っておこうか。」
「うん、そうだね。」
亜矢が勢いよく返事を返して、瑠璃の提案で近くのベンチで待っていることとなった。
さっきまでとはうって変わって暗いムードがあたりを漂い始める。
みんな、正直言って、かなり反省していたのだ。一番初めに乗ったジェットコースターはとてもじゃないけど、ジェットコースターどころか遊園地の初心者に乗らせるようなものではない。
それに、怖さは二、三番目でも一番酔いやすい乗り物だったし。弥ちゃんも楽しみにしている私たちの手前、きっとなかなか言い出せなかっただろう。
三人でテーマパークに似合わない反省会を、ベンチで開くこと数分。場に合わない異質な雰囲気に周りの人からもチラチラと遠巻きで見られているような気もする。それに一番最初に耐えられなくなったのは、亜矢だった。
「……よし!私たちが落ち込んでても逆に弥ちゃんの迷惑になるでしょ!気分転換も込めてなんか食べ物か飲み物買ってくる!」
「ちょ…待って!亜矢!」
「ストップ、あかね。私たちまで動いたら優子たちが迷子になるよ!」
行動力のある亜矢があっという間にどこかに駆け出していき、それを追いかけようとしたところを瑠璃に止められた。
瑠璃のいうことは最もだけど、一人で五人分の食べ物とか飲み物持つのはだいぶ厳しい。それにお金は後で回収するとしても結構な金額が一気に飛ぶ。半月前ぐらいからずっと金欠を連呼してたけど、大丈夫かな亜矢……。
さらに不安なことも増えて落ち込む私に対して、瑠璃のテンションは回復していったようだ。理由はわからないけど、亜矢の言う通り、私たちが暗い雰囲気になってもあんまり意味がないし、弥ちゃんも望まないだろう。顔が真っ青になるまで私たちのこと気遣ってくれたみたいだし。ここからは瑠璃の真似して、反省ムードを出しすぎないようにしなきゃ!
そしてそれからまた数分、買い物に行った亜矢よりも先に、優子の声が響いた。
「あ…亜矢がいない!? 瑠璃とあかねはお待たせ!」
勢いよく声の聞こえた方を振り向くと、優子と、すっかり体調が良くなってそうな弥ちゃんと、なぜか見覚えのあるやたらと可愛いカチューシャをつけた、お揃いのTシャツをきた完全に浮かれてるようにしか見えない男子の集団。
「ごめんなさいね。もうすっかり良くなったから大丈夫よ。心配しないで。」
「そっか、よかったーー!亜矢は一旦食べ物とか買いに行ってるの。戻ってくるまではここで待っておこっか!」
声まで元の調子に戻して、あっという間に元気一杯になった弥ちゃんに、男子の集団はスルーして話を続ける瑠璃。
平気そうだけどさっきのこともあるので、ベンチは弥ちゃんに譲った。それにしても後ろの集団はさも当然のように私たちのそばにいるけど何……?
「ああ、もしかして一人で行ったのかい?手伝いに行ってくるよ。幸い人手はいっぱいるし。」
「じゃあ、俺と石堂で行くか。」
そして瑠璃の言葉を聞いて、流れるように石堂君と翠が亜矢が駆け抜けていった方へ移動していった。いや、まあ瑠璃がさっき説明しながら指さしてたから方向ぐらいは分かるだろうけど、問題はそこじゃなくて。
「よし、亜矢が戻ってきたら十人で乗れそうなとこ見つけるか!大体大丈夫だと思うけど!」
「ちょっと待った優子!い、いろいろ言わせて!」
優子が決定的な言葉を言ってしまったせいで、私は思わず大声を上げてしまった。知らない人からも注目されてしまって恥ずかしいけれど、そんなことよりも先に確認しておかないといけないことがある。
「どうして、男子と一緒に遊ぶことになってるの?」
「え?せっかく遭遇したんだし別に良くない?」
「いや、そうなんだけど、今日は女子会って感じだったじゃん!さっきは追い払ってたのに、優子こそ急にどうしたの?」
思わず優子に詰め寄ってしまった。さっきのカチューシャを選んでいた時の感じだと、優子は男子がついてくるのはあまり快く思ってなさそうだった。そもそも一緒に回りたかったら最初から誘ってるだろうし。
「まあまあ、いいんじゃないかしら。ほら、せっかくなら人数多い方が楽しいでしょう?」
どうやら、弥ちゃんまで乗り気なようだ。弥ちゃんもさっきまで、「あの人たちに遭遇しないようにお呪いでもしようかしら」とか言ってたのに。
二人とも急な方向転換だ。瑠璃も満更でもなさそうだし。
別に、男子と一緒に回るのが嫌なわけではない。実際に石堂君以外とは、昔から何回か一緒に来たことあるし。
ただ、問題は、朔がいることなのだ。あのバレンタイン以降、まともに話せていない。テストとダンスに追われてあんまり余裕がなかったのと、今年の出席日数が不足する心配がなくなったのか、朔の遅刻とサボりが格段に増えたからだ。学校にいても大概寝てるし、登下校の間に見かけることもほとんどなかった。
……ここまでのは言い訳だ。つまり、単純に私がひたすら朔のことを避けていただけだ。
理由はもちろん恥ずかしいから。顔を見るたびに、自分のやらかしを思い出して顔が赤くなりそうだった。
そんな状況なのに、一緒にテーマパークで遊ぶなんて本当に勘弁してほしい。おまけに私たちをくっつけようとしている誰かさんも近くにいる。
そうなると、一緒には回りたくない。かといって、全力で否定するとそれはそれで、何かやましいことがあると認識されていろいろ聞かれてしまうだろう。それも嫌だ。
結局、他の人に表立って否定する真っ当な理由もないせいで、一緒に回ることを拒否することもできないまま、当たり障りのないことしか言えなかった。
極力、朔のそばに行かないようにして、亜矢たちが戻ってくるまで、次の目的地をどうするか話していた。
なぜか、優子も私のそばにいた。なんか、さっきからやたら優子も朔を避けてないか?噂みたいに怖いやつじゃないんだけどな。そもそも優子は朔の噂も気にしてなかったな。
じゃあ、やっぱり私の気のせいかな。湧き上がった疑問を自分一人で解決した。私がぐるぐると余計なことを考えている間もみんなは次はどこを回るかで盛り上がっていた。
また数分経って、買ってきた物を両サイドの男子に持たせて自分は手ぶらな状態で亜矢が戻ってきた。
私の顔を見るなり、ニヤリと笑ってきたので、心底嫌な顔をしてしまった。絶対にろくなことを考えていない。
アトラクションに並ぶ時は気をつけないと、絶対に朔と隣同士にさせられるだろうし、隙さえあれば二人きりにしてきそうだ。亜矢にはよく警戒しておこう。
亜矢の買ってきたやたらとゴテゴテしたチュリトスを片手に、余計な心配が増えたことにため息をついた。今日はただただ女子会するだけだったのにな。
全く、翠は余計なことしかしないんだから。思わず翠を睨みつける。本人は瑠璃と遊べることに浮かれていて、全く気づきそうにもなかった。




