伊藤あかねと遊園地
「あ、列が進み始めたよ!」
「時間的にもちょうど開園の三十分前。いつも通りなら一般でもそろそろ入れる時間だね!」
「ええと、最初はどこに行けばいいのかしら……?」
「もーさっきも言ったでしょ?ここに来たら一発目はスキシャン!あれ乗らずに始まらないでしょ!」
「まあまあ、優子、弥ちゃんは初めて来たんだし。」
ようやく、列が進み始めたことでみんなのテンションが一気に上がる。なんせほとんど始発に乗って今日はここまできたのだ。隣県にあるテーマパークのトワイライトシアタージャパンに、いつメンみんなで来ていた。
年末と同じようにたまたま春休み期間中に、全員が一日フリーな日ができたことと、弥ちゃんの『行ったことない』という発言がきっかけで、みんなで行くことになった。
隣県とはいえど、電車に乗れば一時間ちょっとで着くし、年パスだって2、3回行けば元が取れる値段だ。それこそ高校生にもなると、私たちの地域ではほとんどみんな年パスを持ってるほどだ。行ったことない人の方が珍しい。そういう意味では弥ちゃんはレアキャラだった。
基本的に略されてTTJと呼ばれることがほとんどだけど、シアターの名がつく通り、ここはミュージカルだとかオペラだとかそういう演劇系のものをモチーフにしたテーマパークだ。また、世界にも何個か同じテーマパークがあるから、ジャパンもついている。
さっき優子が言っていた「スキシャン」も某ミュージカルの鉄道猫が由来のジェットコースター。私はかろうじて見たことあるからわかるけど、一般の高校生なんてアトラクションの由来なんてどうでもいいので、優子みたいに略していうことがほとんどだ。
好き勝手に略して呼ぶ私たちとは対照的に、弥ちゃんは園内のパンフレットを見ながら、アトラクションの名前を見るたびにテンションが上がっていた。こう言ったことに詳しいのかもしれない。あんまりいい言い方じゃないけど育ちの違い(もちろん向こうのほうがいいという意味)を感じる。
みんなでワイワイしていたら、あっという間に入場ゲートは目の前だ。早めに並べば、それだけ待ち時間が少なく済むからここからは走らない程度に急がないと。カバンの中からチケットを慌てて取り出す。
「いい!カチューシャなんて後でゆっくり買えばいいんだからよそ見するんじゃないよ!入ったら三個目の曲がり角を右だからね!」
特に、なんだかんだ一番楽しみにしていた上に、一番TTJに詳しい優子なんか気迫が違う。
なんか前一緒に来た時よりも、気合が入っている気がする。そんな優子に急かされるように入場ゲートを通り抜けて、走らない程度に早歩きで目的のジェットコースターに向かう。やっぱり、何回来てもテーマパークはワクワクが止まらない。今日は最高の一日になりそう!
そして、そんな私の予想通り、最初の一個目のアトラクションのスキシャンには、三十分も待たずに乗ることができた。
「やっぱ最高ーー!」
「次どこ行く?」
「まだ、一時間待ちにすらなってないやつあるよ!」
「じゃあ次そこ!どこ?」
「ヨアリ!」
「行こう!」
一個目のアトラクションを乗り終わってテンションが高い私たちとは違って、弥ちゃんはどこか放心したような顔をしていた。見たことない表情で、思わず大丈夫か声をかけると、なんと人生で初めてのジェットコースターだったらしい。それはだいぶ酷なことをしてしまった。
このテーマパークの中でも二、三番目に怖いやつにいきなり乗せてしまった。優子なんかは、『先に言ってくれればもっとマイルドなのから始めたのに!』と文句を言っている。
次に乗るつもりだった、アトラクションは園内一位の名を持つものだ。今の弥ちゃんのことを考えるとさすがにやばい。
平気で二、三時間以上待つアトラクションが一時間待ちですらないのに諦めるのはもったいない気持ちもするけど、流石に初心者相手にそこまでみんな鬼じゃない。
ひとまずはカチューシャを買いながら次の予定をまた考えることにした。
「「あ」」
カチューシャを買いに入った店には見覚えのある顔がいっぱいいたせいでそんな声が重なった。
翠に、ヒロ君に、樹に、石堂君、そして朔。男子もみんなで遊びに来ていたみたいだ。お揃いでやたらと可愛い系のカチューシャを試着していた。それを見られたのが恥ずかしいのか、何人かは目線を逸らしながら速攻で外してたけど。
「よ、よお!お前らも来てたんだな!」
「……遠藤に今日のこと言ったやついる?……いない?そう。通報していい、遠藤?」
「待て待て待て!本当に偶然なんだってば!」
翠が偶然を装ったかのように声をかけてくるけど、女子側は瑠璃を除いてみんな呆れた目をしていた。
優子の言葉が四人の内心を的確に表していた。
どうせ、私たちの話に聞き耳を立てて、周りを巻き込んでついてきたんだろう。瑠璃が自分でわざわざついてきてとは流石に言わないだろうし。
他の男子も私たちと会ったことによって大体の事情が分かったのか、翠に冷たい目を向けている。
その視線を受けた翠が必死の弁解を始めたけれど、誰一人信じていない。それがさらになんというか情けない感じがして、私たちも優子に続くように冷たい言葉を浴びせていった。
「……そういうので誘わないからダメなんだよ。」
「あら、一生お友達でいる方向に舵を切ったのね。」
「翠……流石にどうかと思うよ。」
「う、うるせーなお前ら!」
「……?みんなどうしたの?」
唯一、瑠璃だけは状況わかってなさそうだけど、それが一番翠に効いてしまっている気がする。
ともかく、今回は女子会の想定だったのだ。男子はお呼びじゃない。どうせたびたびすれ違うだけだし、さっさとカチューシャを決めて、さっさと別れてしまおう。優子に視線を向けるとそれを察したのか、軽く頷いてくれた。
「ま、どうでもいいけど。今日は女子会だしね!カチューシャどれにする?」
そしてそのまま話題を無理やり変えてくれた。男子たちのことなど目に入ってないと言わんばかりの方向転換だ。ありがたくそれに乗っかる。
「んー、ある程度持ってるから期間限定のやつにしとく?」
「あ、でも新しく定番化したやつも可愛いね、どれがいいかな?」
「こういうのって色もそろえるものなのかしら?私初めてでよくわからなくて……」
私の発言に乗っかって、亜矢も弥ちゃんもカチューシャを選び始める。亜矢が「せっかくなら一緒に回ろうよ!」と言い出さないか気が気じゃなかったけれど、流石に自重したらしい。……なんか若干残念そうな気配を醸し出しているのはきっと気のせいだ。友情を優先してくれた友達のことを疑うのもよくない。いくら相手が恋愛モンスターとはいえ。
「色はバラバラでもいいかなって。これとかちょうど五色あるからいいと思うの!」
「それなら、やっぱ瑠璃は青が一番にあ……」
「「遠藤はどっかに行って」」
「あ、すいません……。」
しれっと話に入ろうとした翠は私たち四人によってさっきよりも冷たくあしらわれた。そしてそのまま、他の人に連行されていった。
翠を除く四人からは軽い謝罪があった。朔ですら会釈をしていた。みんなもなんも知らずに来ただけの被害者なのに。翠以外には悪いことしたな。
……全員手にはやたら可愛らしいカチューシャ持ったままだったけど、まさか本当にあれみんなで着けるつもり?すれ違った時に思わず吹き出してしまいそうだ。特に朔と樹。あの二人があんなのつけてたら笑う自信しかない。
想定外の出会いがあったとはいえ、今の目的はカチューシャ探し。思ったよりも早く決まった。さっき瑠璃が提案してくれた五色色違いのカチューシャ。全部春っぽくパステルカラーだ。
私がピンク、優子が黄色、亜矢が緑、瑠璃が水色、弥ちゃんが紫。亜矢とピンク争奪戦になりかけたけど、亜矢は洋服と合わせた時に微妙だったらしく譲ってくれた。なんだかんだみんな今日の服装にあった色をそれぞれ選んだ形だ。とりあえず目的は果たしたのでお店をでる。
次の目的地は絶叫系じゃないやつで、待ち時間が少なめなやつということで具体的には何一つ決まってない。正直、割としょっちゅう来てるのでそんなに絶対乗りたいがみんなあんまりない。弥ちゃんは初めてだから分からないというのもあるかもしれない。
みんなでフラフラと喋りながら歩いていると、ふと弥ちゃんの口数があまりにも少ないことに気がついた。
話していたことも、TTJに来たら外せないものとか、昔のこのイベント最高だったとか、来たことある人にしか分からない内容だったから口を挟めなかったのかもしれない。やばい私たちだけで盛り上がってた、弥ちゃんにもなんか話題を振らなきゃーー!慌てて弥ちゃんの方を向くと、弥ちゃんの顔は見たこともないぐらい真っ青になっていた。




