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桐山亜矢の作戦成功?


「お兄ちゃんどいて、お家入れない。」


 我に帰ったのは、妹からそんな言葉を投げかけられてからだ。押し付けられた紙袋を持ったまま、呆然としていた。いまいち、何が起きたのか分からない。いや、わかってはいるけど処理できないというか。


「ほら、あかねからチョコもらって嬉しいのは分かるけど、喜びを噛み締めるのは家の中でしなよ。風邪ひくよ?」


「別に嬉しい訳じゃねえし!」


「それに、さっきから声が大きくて会話が筒抜けだし、近所迷惑だよ。」


 いつの間にか玄関前にいた隣人、千嘉に揶揄われる。この様子だと、この出来事が起こることは分かっていたようだ。

 妹の手にはお高い洋菓子屋の袋。そして、あかねの言った言葉通りなら、桐山が主犯。そしてわざわざ悠月を今日連れ出した瑠璃も協力している。

 下手したら、石堂や翠あたりまで協力してそうだ。深いため息が出た。どいつもこいつも暇人すぎるし、今更バレンタインなんてものに浮かれすぎだ。


「もー、寒いからドアしめて!ヒロお兄ちゃんバイバイ!」


「うん、またね。」


 妹は早くもらったお菓子を食べたいようで、一人項垂れている俺には目もくれず、さっさと玄関を閉めてリビングに駆け込んでいった。ドアが閉まる間ずっとニコニコしている千嘉の顔はぶん殴りたくなるほど腹立たしかった。


 ともかく、このチョコは母さんにバレる前に処理する必要がある。こういうイベントごとは好きな人だ。絶対に揶揄われる。

 悠月の前で食べるのは気恥ずかしくて、玄関に突っ立ったまま、袋をこじ開ける。

 中には可愛らしい飾り付けの中に異様に目立つ、『義理』と書かれたチョコの塊があった。思わず笑いが漏れる。本命だなんて、今更勘違いをすることもないからここまで主張する必要ないのに。


 『義理』と主張の強いひとかけらを口に放り込む。


「甘ったるい……。」

 

 本人が目の前にいるわけでもないので、思わず本音が漏れる。正直、甘いものはそんなに好きではない。中になんかふわふわしたもんが入ってるけど、多分マシュマロだろう。そのせいで余計に甘い。コーヒーぐらい用意しておけばよかった。


 甘ったるいチョコレートを、一つ一つ丁寧に口の中で溶かしながら食べ切った。どうせ好きでもない味なのだから、飲み込むように食べてしまえばよかったのに。


「お兄ちゃんいつまでそこにいるの……?なんか顔赤いよ?大丈夫?」


 ずっと玄関にいたせいで、心配した悠月がわざわざやってきてしまった。平気だと言い聞かせながら、妹を抱え込んでリビングにむかう。緩みが止まらない少し汚れた口元と、赤くなった顔は見せれそうにもない。見られたが最後、桐山あたりに連絡が行くだろうし、何より、あかねの耳には絶対に入れたくない。


 もらったのはただの義理だってのに、舞い上がってる自分がいる。


 そうだ、月曜は学校サボるか。桐山はともかく、千嘉や瑠璃あたりに揶揄われるのは確定している。

 特に千嘉なんかにとやかく言われようもんなら、うっかり手が出る自信がある。病人相手にそんなことしようもんなら、クラスメイトどころか、悠月にまで嫌われる。


 それに何より、しばらくあかねの顔はまともに見れそうになかった。


 そんなことを考えていたせいか、抱え込んだ悠月が手に持った携帯で何かを打ち込んでいることに気づかなかった。




ーー数分後、悠月が打ち込んだメールを受け取った、桐山亜矢は大袈裟に喜んでいた。


『お兄ちゃん、ちゃんと全部食べてた。』


 そのメールの文面を見た時に、瑠璃と二人で飛び上がって喜んだ。


 作戦は完璧なまでに成功した。色々準備して心からよかったと思う。


 瑠璃経由で、あかねの親まで巻き込んで、外堀を囲んで、あかねにチョコを作らせることもできたし、渡しに行くのを渋るであろうあかねのために、比良坂の妹も、お菓子と怪盗シスルで釣って、家に送るという名目も準備した。


 ついでに校内一のイケメンの神代君の協力をとりつけるとともに、連絡先もゲットできた。私的にも最高のおまけを手に入れられた。


 弥ちゃんや優子に、物事がうまく行くおまじないを教えてもらったおかげかもしれない。二人とも意外と興味なさそうに見えて、そういうことに詳しいからな。色々と恩恵をもらえて、ラッキー。


 別に何がなんでも二人をくっつけたいわけじゃないけど、ただなんとなく勿体無いなと思っただけ。


 他の人とは滅多に関わり持たないのに、昔からの知り合い――瑠璃や神代君には見せないような気遣いをあかねにする比良坂も、口ではワーワー言っても、他の男子の相手してる時よりも、楽しそうだし、安心したような感じで話すあかね。


 本人たちは否定するだろうけど、それなりに特別な感情を持ってそうな二人だ。一回ぐらい、本当のことをお互いに言ってあげればいいのにとは、いっつも思うのだ。


 恋愛的にどうのこうのってのは一旦置いといて。付き合うにしろそうでないにしろ、すれ違いとまではいかないけれど、思うところがあるまんま青春が終わってしまうのは勿体無い。そう思って今回の作戦を立てた。割とみんな乗り気だったあたり、みんなあの二人に思うところはあるみたいだ。


 今回のがきっかけで何か変わるといいんだけれど……。


 そんな淡い期待を抱きながら、今度は瑠璃のチョコレート作りを手伝う。瑠璃と翠は、あかねたちと違ってさっさとくっついてほしんだけどな。周りが色々気を使うし、翠が見ていられない状態になっちゃうし……。


 こっちもうまくいったらいいんだけどなあ。


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