お菓子作りは成功!
「そんなことより、さっさとチョコ作り始めようか!ほら、準備できてるし!」
「いや……」
「洗面台あっちね!エプロンは持ってきてるはずだから大丈夫よね?早く早く!」
今度は時間稼ぎすらもさせてもらえなかった。
洗面台に押し込まれて、手を洗わされ、一年生の時の家庭科の時間以来初めて、小学校の時に作ったエプロンを身につけさせられ、あっという間に準備完了。
……帰りたい、ものすごく帰りたい。
鼻歌を歌いながら材料や、調理器具を並べる亜矢と対照的に私のテンションは赤点取るかもしれない定期テストの前ぐらい下降していたし、緊張もしていた。
そもそも調理実習以外でまともに料理はここ数年していないし、調理実習の時だって炒めるだけとか洗い物を積極的に引き受けて、包丁すら握らなかった。
亜矢が用意しているものの中に包丁はないから、指を切る心配はないだろうけど、チョコの湯煎とかで火傷しようもんならドジを通り越した何かだ。本当に変なことして亜矢に引かれないように気をつけなきゃ……!
一人覚悟を決めていたら、亜矢の準備も完了したらしい。こちらに満面の笑顔を向けて、レシピを印刷した紙を片手に高らかに宣言してきた。
「今日はマシュマロバーを作ってもらいます!砕いてレンチンして混ぜて固めてデコるだけ!とっても簡単でしょ!」
「うん、そうだね、それならまだなんとかなりそう。」
多分ネットで拾ってきたであろうレシピには、デカデカと『初心者向け』の文字も印刷されている。
その横にある『小学生におすすめ!』の文字は見なかったことにした。
料理が苦手なことを知った亜矢が気を使って、わざわざ簡単なレシピを探してきてくれたんだ。私は文句をいう立場にない……のだけれど、なんだかちょっと複雑な気分だ。
満面の笑みの亜矢に押されるがまま、チョコレート改め、マシュマロバー作りが始まった。
とは言ってもマシュマロバーを作るのは私だけで、亜矢はガトーショコラを大量生産するらしい。
亜矢はかなりおかし作りというか、料理がうまい。たまに作って学校に持ってきて分けてくれたことも何回かあったけれど、いつも美味しかった。
それに手際もいい。私がココアクッキークリームサンドをめん棒で粉々にして、マシュマロをキッチンバサミで切って、チョコレートを叩き割るという対して難しくもない作業に苦戦している間に、あっという間にチョコの湯煎どころか、メレンゲまで作っていた。
女子力の違いを思い知らされた気分だ。私のレシピなんてチョコは湯煎どころか、レンチンで溶かすだけなのに。
分かってはいたことだけれど、敗北感を感じながら次の行程に進む。
後の工程も簡単で、レンジにチョコを突っ込んで、溶かしたら全部混ぜて容器に入れるだけなんだけ。案の定私の方の作業はさっくり終わった。
なんで材料を砕くだけの作業にあんなに時間かかったんだろう。久々の料理だからって慎重になりすぎたかもしれない。
少し後悔しながら、混ぜた材料をバットに入れて、平らにならして、冷蔵庫に突っ込む。
なんかクラスの女子全員に配るとしたら量が少ない気がする……。もしかしたらこれから第二陣を作るのかもしれないけど。でも、私用の材料はこれだけしかなかったよね?
若干の嫌な予感を感じながら、亜矢の方を見ると、ちょうどガトーショコラの生地を型に流し込むところだった。私のマシュマロバーは固まるのに一時間待てと書いてあるし、ガトーショコラも焼き上がるのに時間がかかるだろう。ちょっと休憩できそう。
固めるのを待っている間、特にすることもなくて、ぼーっとしていたら、また満面の笑みをした亜矢が私のところにやってきた。
どうやらガトーショコラはオーブンに突っ込み終わったらしい。
両手には大量のカラフルなチョコペンと、飾り付け用の材料を持っていた。机の上には、何やらクッキングシートが置かれている。
「今のうちに!飾り付けの準備しとくよ!」
そして言われるがまま、今度は飾り付けの作業の準備をやらされた。とは言っても、チョコペンでひたすらお絵描きして、片っ端に冷蔵庫に突っ込むだけ。
机に置かれたクッキーングシートの下には、ハートなどの絵が印刷されていて、それをなぞるだけだったんだけど、意外と難しくて何度も失敗した。
まあ、亜矢が大量に買い込んでいたおかげでいくらでも本番という名の練習ができたのだけれど。
割と楽しくて、必要以上に大量に作ってしまった。……なんかピンクや赤のチョコペンがやたら多いのと、飾り付け用のものもハートが多いのも多分気のせいだと思いたい。
友達に渡すようにしてなんか、その、ちょっと飾り付けとしておかしいような気が……。
飾りを作ってちょっと亜矢と雑談してたら、あっという間に一時間経ってしまった。
ガトーショコラは随分前に焼き上がって、亜矢が冷ましていたのでいい匂いが家いっぱいに広がっていた。
私も固まったマシュマロバーを取り出して、切り分けたら、ひたすら飾り付けだ。
本当に、クラスの人に渡すかどうかについては疑問が残るけれど、とりあえずひたすら飾り付け……というよりはデコった。
ちょっとした自慢だけど、これでも携帯とかをデコるのは得意なんだ。おかげで、マシュマロバーの飾り付けは大体うまくいったと思う。
亜矢もたくさん褒めてくれた。今日で一番料理が楽しいって思えたかも。想定していたよりもうまく作れたし、人にあげても多分、問題ないだろう。自分一人で証拠隠蔽のように食べる必要はなさそうだ。
接着剤代わりにした、余ったチョコペンを固めるためにもう一度冷蔵庫に突っ込んだところで、インターホンがなった。
もしかして亜矢の両親が帰ってきたのかもしれない。挨拶はちゃんとしないといけないな。そう思って、もう使わないのでエプロンを外して、手を洗っていたら玄関を開けにいった亜矢が戻ってきた。一緒に入ってきたのはまさかの人たちだった。




