↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/73

比良坂朔は悪態をつく


 ーー新年早々最悪だ。


 心の中で悪態をつきながら朔は一人、大神宮へといく参道から意図的に逸れて灯り一つない道を歩いていた。


 別にあかねが泣いていたこととか、気を使ってやったことは気にしてないが、あの男があかねに接触してしまったこと自体が、人生で一番といっていいほど最悪だ。


 そのことを知って思わず顔に出してしまった自分も、新年早々の失態だ。思わず舌打ちが漏れる。


「おいおい、舌打ちなんて行儀悪いぞ。そんなふうに育てた覚えはないぞ。」


 飄々とした声と共に、周囲が明るくなって、真っ暗な道に突然神社が現れる。


 わざわざこういった演出をしてくるのも腹が立つ。


 もう何度も見慣れて、今更驚くようなことでもない。


 ニヤニヤとしながらこちらの反応を伺うクソ野郎の顔面に当てるつもりで、あかねから預かった懐中電灯を思い切り投げつける。

 当たるだなんて都合のいいことは思ってもいない。案の定、顔面に当たる寸前にどこからか伸びてきた黒い手に懐中電灯は回収されてしまった。


「ものも投げ渡すし、やれやれ、父親に対する尊敬とかないの?」


「……あるわけないだろう。」


 心底呆れてため息が出る。目の前にいる父(クズ)のことなんてどうだっていいが、先にこっちにきていたはずの母親の姿がないことだけが引っかかる。


 ここに来る道をあんまり、普通の人間一人で歩かせたくはない。


 あたりを見渡していると、母親のことを心配しているのかばれたらしく、さっきよりもさらにこちらをバカにしたかのような顔で近づいてきて、肩を組まれた。

 当然払い除けようとしたが、アホみたいな力のせいで叶わなかった。


「母さんは俺が、ちゃーんと家まで送り届けました。お前が彼女とイチャイチャしているうちに。」


「……彼女じゃねえし、近寄んな、死臭がする。」


 俺のいうことを聞く気が全くないのか、こちらの頬を突きながら、照れちゃってまあだの、青春だねえだのこちらを逆撫でしてくるような言葉ばかりかけてくる。


 本当にこいつを叩っ斬ってやりたい。家に流石にいらないだろうと刀を置いてきた自分が恨めしい。


 せめてもの抵抗として腕から全力で抜けようとするが、全く抜けられる気配もない。ひとしきり暴れたせいで無駄に疲れただけだった。心の底から本っっっっっっ当に認めたくないが、俺ではこいつに叶わない。諦めて脱力する。


 大人しくなった俺を見て、満足したのかここぞとばかりに頭をわしゃわしゃ撫でられる。息子のことを揶揄うだけ揶揄って、ろくに育てたこともないくせに、父親ヅラしたがるところも昔から、本当に嫌いだった。こんなので、喜んでしまう自分も嫌だった。


 ひとしきり撫で回した後、満足したのか解放された。やっぱりここにくるんじゃなかった。懐中電灯の返却なぞ、使い魔とかに任せればよかった。一刻も早く帰りたくて、何も言わず背を向ける。


「あの子いい子だよな。それでいつ紹介してくれるんだ?」


「うるせえ、黙れ。あいつは普通の人間だから、お前に紹介する日なんて来ねえよ。」


 まだ解放する気はなかったらしい。再びこちらに絡んでくるらしい。思わずため息もでる。


「普通の人間ね……。じゃあ、なんで普通の人間がここまで来れたんだろうな?」


「……うるせえ。」


 父親から、飄々とした雰囲気が消える。刺すような視線が背中に突き刺さる。思わず振り向くと、俺と同じ金色の瞳が、射抜くように輝いていた。


「こっち側に巻き込む気がねえなら、ちゃんとしろよな。」


「……分かってる。」


 いつもは母さんだけに会うくせに、わざわざ俺のために道を開いた理由がやっと分かった。こいつ、構いに来たんじゃなくて、説教をしにきたんだ。曖昧な態度を続ける俺に。


「お前の行動は最近矛盾している。なんのためにわざわざ、高校三年間の猶予与えたのか、その意味をよく考えて行動するんだな。」


「分かってる!分かってんだよ!そんなことは!」


 子供の八つ当たりみたいに声を荒げた。


 情けないのは分かってる。思わず握りしめた手のひらから生暖かい血が流れるのを感じた。肌を焦がすような熱気も感じていた。


 こういう時に力を制御できないのも、未熟な証拠だった。あいつの、みんなの側にはずっとはいられない理由だった。


 中三の時に、自覚した。自分の醜い本性に。この男と同じ、人間じゃない部分が俺にもあるってことを改めて。


 友人たちが、自分の好きな人が傷つくのは耐えられない。離れるのも許せない。相手の幸せじゃなく、自分の欲望を優先させる醜い執着心を、様々と見せつけられた。


 このままじゃ、人の世界で、友人たちの側にいると取り返しのつかないことをしでかす自覚があった。


 だから、わざわざ父親に頼んで、坂を下り川を超えた、隠世の、向こう側の世界で生きていくことを決めた。


 それでも、わがままを言って、三年間だけ猶予をもらったのだ。きちんとみんなと別れるための猶予を。



 一年生の時はうまくいく自信があった。二年生になってから、うまくできなくなった。せっかく遠ざけた距離が少しづつ元に戻っていってる。


 遅くても後一年で、完全に切らなければいけない縁なのに。また、学校が始まったら距離をとっていこう。


 一年の時みたいに急に離れるんじゃなくて、徐々に。きっとダイエットのリバウンドみたいに、急に距離を取ったからまた戻ってしまったんだ。大丈夫、うまくやれる、やれるはずだ。やらなきゃいけないんだ。


 いつの間にか父親とあの神社は消えていた。多分時間切れだ。あの人がこちらにいられる時間は長くないから。


 覚束ない足取りで家に帰る。あの場所は時間の流れが少し違う。そのせいで、あかねと別れたときは真夜中だったのに、もう日が登り始めていた。やけに太陽が眩しくて、真冬なのに焼けるような感覚がして、まるで初日の出にまで不甲斐なさを攻められているような気分だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。