比良坂兄弟は何も言わない
「あかねおねーちゃんもういった?」
「もう行ったよ。それにしても悠月ちゃん、流石にそんな態度取ったらダメだよ。」
「だって……。」
ヒロお兄ちゃんにおこられた。だって、あかねおねーちゃんはこっちのこと知らない人だから、何も話せなかったんだもん。私のお家の帰り道に、マモノみたいなのがいることに気づいたけど、そんなのがいるなんていったところで子供の言うことだって聞いてくれなさそうだし。きっとよけいにこまらせちゃうだけだろうなって思ったの。
わたしはお兄ちゃんたちと違って、まだ戦えないし、魔法だってうまく使えない。だから、あーゆうのとは会わないようにするしかないのに、たまたまお家への帰り道にいたからどうしようもなかったの。あかねお姉ちゃんにはメイワクをかけたと思うけど、ケガとかはしてほしくなかったんだもん。
たまたまコンビニにヒロお兄ちゃんがいたからよかったけど、もしもいなかったら本当にお兄ちゃんが帰ってくるまで待たないといけなかった。本当はあかねおねーちゃんだけでも先に帰ってほしかった。あかねお姉ちゃんは優しいからいっしょに待ってくれただろうけど、わたし一人でもよかったの。
一人でおとなしく、待ってるだけなら、もう上手にできるもん。
「そんな感じで態度に出すんじゃなくて、もう少しうまくできるようになろうね。」
「はーい。」
「こらこら、ちゃんと返事しろ。」
ヒロお兄ちゃんは魔法が使えるし、翠お兄ちゃんだって、よくわからないけど『片足を突っ込んでいる』らしい。
それに、わたしと違ってふつうの人をそういうのに巻き込まないようにするのが上手。
わたしも十年後にはそういうふうにならないといけないらしいんだけど、どうやったらできるのか分からない。でもやっぱり上手にできないと、ふつうの人とあんまり関わっちゃいけないらしい。そうなると、学校の友達もあかねおねーちゃんたちともいっしょにいられなくなっちゃう。それはいやだからがんばらないといけない。
それに、よく分からないけど、お兄ちゃんは高校の次は、働くために、遠いところに行くらしい。
だから、あかねおねーちゃんたちとは、あんまりお話ししていないみたい。お別れするのが、悲しくなっちゃうかららしい。
なんかもっとむずかしいことを、おばさんとかと話していたみたいだけど、わたしにはまだ早いからって教えてくれなかった。
それでも、がんばっていろいろ上手にできるようになるから、お兄ちゃんがいなくなっても、あかねおねーちゃんが、たまにはあってくれたらいいなあ。
そんな考えごとをしていたら、お話しをあんまり聞いていなかったのが、バレたのか、ヒロお兄ちゃんに少しおこられた。
危ないのを追い払いながら、お説教を続けるヒロお兄ちゃんと、ちょくちょくからかいながら、わたしと手を繋いでる翠お兄ちゃんといっしょにお家に帰った。
お兄ちゃん以外の人と帰るのはとっても久しぶりで、はしゃいじゃって、二人から怒られたことはお兄ちゃんにはヒミツだ。
『今日、悠月ちゃんがあかねに迷惑かけたみたいだからちゃんと謝っておくんだよ。』
『お前さ、あかねにちゃんとお礼言っておけよ!』
いつも通りバイトという名の化物退治から帰ると、メールの通知が大量に溜まっていた。ほとんどがあかねからで、最後の二件だけは、ヒロと翠から。
急に、「化物が大量発生した」という電話がかかってきたから、あかねに悠月を任せて向かったが、どうやら、こっちの方でも化物の類が湧いていたらしい。
悠月は言いつけていた通りに、化物には近づかなかったらしいけれど、それであかねをたいそう困らせたらしい。謝罪やお礼を言うべきなのは分かっているが、いろいろと言葉選びが難しい。
今回の出来事は、あかねにとっては悠月が急に拗ねたようにしか見えないだろう。それの原因が化物でしたなんて言えるわけもない。
肝心なことはなんも伝えられない、上っ面だけのお礼と謝罪の言葉が並ぶメールは、人に子守を任せておいたにしてはひどく不誠実に見える。
こんな時に、あかねもこっち側のことを知ってくれたらいいのにと思ってしまう。そうすれば、こんな時でも、ちゃんと感謝を伝えられたのに。
絶対にこちら側のことを知らせない。そう決めた時に、捨てたはずの考えが浮かび上がる。
それを、大量の化物退治をした疲れによる気の迷いだと切り捨てて、ひどく簡素な言葉が並ぶメールを送りつける。
これだけしか伝えられないもどかしさを感じながら。




