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ほんの少しのわだかまり


 駅の改札前までつくと、見覚えのある二人の姿があった。


 朔と悠月ちゃんだ。朔はどこか呆れたような感じで、悠月ちゃんはなぜか機嫌が悪そうだ。


 二人を最後に見たのは十分ちょっと前だけど、その間に兄弟喧嘩でもしてしまったみたいだ。

 正直、めんどくさいことになりそうだから、素通りしたいところだけど改札を通り抜けるには二人のすぐそばを通らないといけないし、絶対に気づかれるだろう。 

 そうなったら自分から声をかけたほうがまだいいかも。そう思って二人に声をかけた。二人が何かしらの喧嘩?言い合い?をしていそうなことには触れないようにして。


「あれ?二人とも今から帰るの?」


 私が声をかけた途端、悠月ちゃんがまた飛びついてきた。さっき注意したから威力は控えめだったけど。そしてそのまま朔に大きな声で宣言する。


「わたし!あかねおねーちゃんとかえるから!」


「え?」


「それでもんくないでしょ!おにーちゃん!」


「あのなあ……」


 そして、私のことを置き去りにしてまた言い合いが始まった。


 私は一体なんのことだか最初は分からなかったけど、二人の言い合いを聞いてるうちにだんだんと状況が掴めてきた。


 さっきの電話は朔のバイト先?のようなところかららしく、急遽朔がそちらに向かわないといけなくなったらしい。

 ただ、まだ十八時前とはいえすっかり暗くなった状態で小学生の悠月ちゃんをそのまま置いて帰るわけにもいかず、家まで送ろうとしていたみたい。

 それに対して悠月ちゃんは、朔が急いで向かわないといけないし、自分だってそこまで子供じゃないから一人で帰れると言い出してたみたいだ。


「あのな、あかねお姉ちゃんだってだってそんな急に言われたら困るだろ?だからさ。」


「でも……おにーちゃんだっていそがしいのに……」


 兄妹間で話す時は朔の口調が昔みたいに戻る。普段の口調が自分の妹に移ったら嫌だからとか前に言い訳してたけど、私からしたら、普段の口調の方がわざとらしくぶっきらぼうに演じているような気がする。

 高校に入ってから、私たちには距離を置いたのに、妹だからとはいえ以前と変わらない距離感のままの悠月ちゃんがちょっと羨ましい。


 全く、私は小学生相手に何考えてるんだか。


 一人で勝手に後ろめたくなってると、また朔の携帯がなった。どうやらよっぽど急ぎの用みたいだ。

 このまま言い合いをしている時間が勿体無いだろう。別に困るようなことでもないから、悠月ちゃんを送ることに同意することにした。


 朔は渋々といった表情だったけれど、悠月ちゃんは目をキラキラさせながらぴょんぴょん跳ねていた。


 ひとまずテンションの上がりすぎた悠月ちゃんを落ち着かせながら、朔を置いて改札を通り抜ける。


悠月ちゃんは私に話しかけるのに夢中で朔の方を一瞥もしなかった。流石に可哀想だったので、代わりにはならないかもしれないけど朔に手を振った。

 朔はなんともいえない表情で、少しだけ手を振って、どこかに向かって早足で歩き出していた。


 電車の中に入ってからは、悠月ちゃんのおしゃべりは止まらなかった。流石に電車内で静かにしなきゃいけないということはわかってるからか、声は控えめだった。流石に私も疲れてきて途中から半分ぐらい内容が頭に入ってこなかった。幸い話すことに夢中になっていた悠月ちゃんにはそのこと気づかかれていないようだ。


 公言するようなことではなかったから優子たちには言わなかったけれど、朔と悠月ちゃんは本当の兄妹じゃない。


 朔が中学生の時に色々訳あって、おばさんが保護者になることになった親戚の子らしい。

 急に朔に妹ができたと聞いた時はだいぶ驚いたし、心配もした。最初はぎこちなさと、遠慮を感じた悠月ちゃんもだんだんと朔に対して容赦なくなって、雑に扱えるようになっていた。

 私は上にも下にも兄弟がいないから分からないけど、朔と同じく妹を持つ樹曰く、「妹は兄をパシるモノとしか思っていない」と言っていたから、割とちゃんと兄妹やれてるんだとは思う。朔も樹も妹に甘いだけかもしれないけど。

 

 しばらく止まらないおしゃべりを聞き流していると、いつの間にか家の最寄り駅に到着したアナウンスが流れていた。

 ずっと喋っていた悠月ちゃんはもちろん、私も全く気づかなかったので慌てて電車を降りる。


 乗り過ごしちゃうところだったねと話しながら改札に向かっていると、悠月ちゃんが急に黙り込んでしまった。


 あまりに急に静かになったものだから、大丈夫か声をかけたけど、「うん」とか「ん」とか曖昧な相槌しか返ってこなくなってしまった。

 もしかして私とお別れしないといけないことに気づいて不機嫌になってしまったのかな。昔、それこそ悠月ちゃんが保育園に行ってた時は、そういうことが何回もあった。

 その度に朔が強引に抱き抱えて帰るというのが定番だったけど、流石にもうそんな歳ではないよね?自分が小学生だった頃がどうかは覚えてないけど、同じような拗ね方や癇癪はしてなかったはず……!自信ないけど……。


 若干の不安を残しつつ、悠月ちゃんの手を引きつつ改札を出る。よかった、素直に歩いてくれてるから大丈夫そうだ。

 昔はバイバイしようかというと手を逆方向に引っ張ってきたり、座り込んで酷い時は寝そべって一歩も動こうとしなかったのに。小さい子の成長ってやっぱり早い。


 悠月ちゃんが急に立ち止まるまではそう思っていた。


 そして結局、駅前の広場で悠月ちゃんは動かなくなってしまい、駅に逆戻りしてしまった。


 駅の中のベンチで、暖をとりながら携帯をいじる。めっきり喋らなくなってしまったので、することがない。

 それに悠月ちゃんが朔が迎えに来るまでは動かないと宣言してしまっていたので、朔にいつなら迎えにこれそうか何度か電話をかけたり、メールも送っていた。まあ、一切返事ないんだけどね……。


 かれこれ一時間近く待っていた。朔からは何の連絡もなかったけれど、お母さんからいつ家に着くのかの確認のメッセージが来ていた。それは私も知りたい。時間的にも、もう普通なら晩御飯を食べている時間だ。お腹も空いてきた。


 相変わらず俯いたままの悠月ちゃんに、駅に併設されたコンビニで何か買ってもいいか聞いたら、どうやらそれはいいらしい。駅から離れることだけがダメのかな。よく基準が分からない。


 悠月ちゃんの手を引きながら階段を降りてコンビニに向かう。一体いつまでここで足止めされてればいいんだろう。


 そんな不安を感じながら入ったコンビニへ入った。とにかく温かい食べ物が食べたかった。肉まんにしようかな。私だけ買うわけにもいかないし、悠月ちゃんにもなんか買ってあげないといけない。


 そんなことを考えながら、順番待ちの最後列に向かうと、見覚えのある顔があった。


「おや、また珍しい組み合わせだね。こんな時間までどうしたの?」


「おいおい、小学生を連れ回すなよ〜」


「違うって!」


 ちょうど最後尾に並んでいたヒロ君に話しかけられた。おまけに翠までいる。こっちの方がなんだか珍しい組み合わせな気がする。


 そういえば、二人は瑠璃と違って怪盗シスルの件で呼び出されていないみたいだ。

 気になったから聞いてみると、ヒロ君はあのとき以来関わっていないらしく、翠はいつの間にか言いがかりのような怪盗シスル疑惑がかかってるらしく、出禁になったらしい。


 短いやり取りを数回していたらあっという間にレジの順番が回ってきた。肉まんだけ頼んで支払いをする。悠月ちゃんに何かいらないか聞いたけど、何もいらないと、相変わらず不機嫌な様子で答えるだけだった。正直財布にそんなに余裕がなかったからほっとしたけど、なんだか悪い気もする。


 コンビニを出ると先に会計を終えていたヒロ君たちに向かって、悠月ちゃんが止める間も無く駆け出して行った。そのままヒロ君に抱きついたと思ったら、そのまましがみついたまま離れない。


 慌てて追いかけて3人のもとに行くと、翠とヒロ君は困惑していた。


 何かあったのか聞かれたから素直に答えていると、私が説明している途中に、悠月ちゃんは急に今度はヒロ君と帰ると言いだした。


 ヒロ君はそれだけで何か分かったみたいで、そういうことかと呟いた後に、私に帰っていいよと声をかけてきて、なぜか翠もそれに同調している。


 そしてそのまま二人に押し出されるように、自分の家の帰り道の方向に押しやられてしまった。そして早く帰れと言わんばかりに手を振られる。


 急に意見を変えた悠月ちゃんにも、それに同調するような二人も何を考えているのか全くわからない。

 それに、それなりに長い時間、私はなんのために待たされたんだろう。そこもなんだかモヤモヤする……。

 とはいっても子供なんていうことコロコロ変わるもんだし。まあ、怒るほどのことではないけど、うーん、やっぱりなんだかな……。


 どうして悠月ちゃんは意見を変えたんだろうとか、なんで私じゃダメだったんだろうとか色々気になることはあったけど、一人冷めてきた肉まんを食べながら家に帰った。


 そして、次の日携帯を開いたら、日付が変わったぐらいに朔からメールが届いていた。

 昨日のことに対しての色々な謝罪と、悠月ちゃんに言い聞かせておくとのことだった。

 具体的なことは相変わらず何にも書いてなかったから、朔が隠したがっていることに関わることだったんだと思う。でも、昨日の態度を見る限り、ヒロ君や翠は何かを知っているんだろう。私には何も教えてくれないのに。


 せっかく冬休みが始まったというのに、私の気持ちはどこか沈んでいた。


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