放課後の遭遇
とりあえず、駅前のショッピングモールに入る。ここの5Fと4Fはお小遣いでも買えるぐらいの金額の可愛い服のお店がいっぱい入ってる。
ここにいるメンツは結構趣味がバラバラだけど、幅が広いジャンルのお店があるしなんとかなるだろう。ひとまず5Fから上から順に見ていくこととなった。
誰かが入りたいお店があったら、みんなで入る。そんな感じで色々な店に入った。
特に面白かったのは、弥ちゃんがみんなの着せ替え人形にされてしまっていたことだ。みんな心の底では、美人な弥ちゃんが色々な格好をしているのを見たいという欲望を共通で持っていたので、私たち四人は結託した。
それぞれ自分の好きな系統のブランドに入ったら、弥ちゃんに似合いそうな服を持ってきては、試着室に押し込んでいった。
でも、弥ちゃんも満更でもないようで、ノリノリで更衣室に向かっては、着替えた後はまるでモデルのようにポーズを決めて、試着室のカーテンを勢いよく開けるものだから、笑いが止まらない。
ただ、一つ想定外だったのは、私たちが試着させたものを弥ちゃんが全部買ってしまったことだ。
流石にびっくりして止めたけど、お金はあるから大丈夫といいながら、高校生なのにクレジットカードで支払うものだから止められなかった。
本人曰く、色々なコーデに挑戦してみたかったと言って気にしていないようだった。けれど、私たちは悪ノリしてしまった買わせてしまったという罪悪感があるので謹んで荷物持ちになった。
一つ一つが安いとはいえ、一人で持てない量の服を買ってるのでそれなりにお金は掛かったはず。それをさらっと払えるなんて、弥ちゃんはやっぱりお金持ちなんだなあ。
コスメは同じビル内の、色々なコスメや雑貨が集まるお店で見ることにした。近くにデパートもあったけど、流石にそんなところで売っているコスメを買うのはお小遣い的にちょっと厳しい。
雑誌とかで話題になっていたコスメをみんなで「この色どうかな」とか「こっちの色のがよくない?」とか言い合いながら、売り場をフラフラと歩き回る。
私は、その中でも気になっていたリップを、他のみんなから絶対この色!と勧めてきたもので買った。いっつも自分で選ぶと似たような色ばっかり買っちゃうから、こういう時に意見をもらえるのは嬉しい。他のみんなもそれぞれ気になったコスメを買って、そしてそのままプリクラを撮ることになった。
同じビル内のゲームセンターは、色々な制服を着た学生たちで溢れかえっていた。
プリクラを撮り慣れているのはこの中だと私と亜矢しかいないので、機種選びとかは私たちの担当。
一番盛れる機種で撮りたかったけれど、あまりに人が並んでいるのでその次に盛れる機種で撮ることにした。
色々盛れるポーズとか流行りのポーズとかで撮りながら、最後の一枚は変顔で撮るってことにしてたのに、弥ちゃんだけ裏切ってすまし顔にしていた。
当然優子にどつかれていたし、裏切りの代償として、落書きの際に色々いたずらをされていた。
そうやって盛り上がりながら、最後に印刷されるのをプリクラの外で待っていると、腰にドンッという衝撃が加わった。
「ゔ……なに!?」
「あかねおねーちゃん!」
腰にきた衝撃の正体は、悠月ちゃん、朔の妹だった。
手には、キラキラした衣装の描かれたカードがあるから、アーケードゲームをしてた帰りなのかもしれない。ちょうどプリクラコーナーの近くに子供向けのアーケードゲームが大量に置いてある区画があったはず。
腰に抱きついたまま、キラキラとした目で見上げてくるのは、とっても可愛いけれど突撃してきたことに関しては、年上としては注意しなければいけない。
「悠月ちゃん、急に飛びついてくるのは危ないからやめてね。」
「ごめんなさい。でもひさしぶりにあかねおねーちゃんに会えたからうれしくて。」
悠月ちゃんはうるうるとした上目遣いでこちらを見つめながら、可愛らしいことをいうものだからついうっかり甘やかしてしまいそうになる。
それでも今度からはしないように再度言い聞かせると、若干不服そうだけど納得してくれたみたいだ。
思えば、悠月ちゃんと会うのはかなり久しぶりだ。悠月ちゃんはまだ小学三年生。いくら私たちの高校の附属小学校に通っているとはいえ、高校生と小学生で会うことはまずない。
それに、中学生までと違って朔が私たちのことを避け出したから、放課後や土日に会うこともめっきり減った。
悠月ちゃんは久々に会えたのがよっぽど嬉しかったのか、さっきからマシンガンのようにおしゃべりする口が止まっていない。
急な客人に優子たちもあっけに取られている。瑠璃だけはニコニコとしているけど、瑠璃も悠月ちゃんのこと知っているから、相槌をするので精一杯な私の代わりに説明してくれればいいのに。
どうするべきか思いつかなくて、とりあえず、喋り続けている悠月ちゃんを一旦落ち着かせようとしたところで、また新しい乱入者がきた。
「すみません!うちの妹が……お前らかよ」
こんな街中に小学生が一人でいるわけがないとは思っていたけど、案の定、保護者の朔がやってきた。
最初は礼儀正しくよそ行きの言動をしていたけど、悠月ちゃんの周りにいるのが私たちだとわかった瞬間、いつもの無愛想でぶっきらぼうな態度に戻っていた。
かなり慌てていたのか、ブレザーはぐちゃぐちゃだし、カバンも肩からずり落ちてる。ゲームをプレイしてるはずの妹が目を離した瞬間いなくなったらそれは驚くだろう。もしかしたらこのゲームコーナーを一周してきたのかもしれない。
「ちゃんと面倒見とかないと危ないよ。いくら小学生になったからと言って。」
「わかってんだよそんなことは。電話に出るんじゃなかった……。」
よく見ると朔の手には携帯電話が握られたままだった。妹のランドセルにGPS付けたり、熱を出したら自分が看病しようとして勝手に学校をサボろうとし、おばさんに無理やり学校に行かされたりと、重度のシスコンの朔が妹から目を離すなんて珍しいと思ったけど、よっぽど重要な電話だったのかな。
まあ、問い詰めても答えてくれないだろうし、気にはなるけど無理やり聞くような程のことでもないから聞かないけど。
朔は乱れた服装を整えて、携帯をポッケにしまうと、相変わらず腰に引っ付いたままだった悠月ちゃんを私から引き剥がした。そこでようやく、ここまでずっとあっけに取られていた亜矢たちが口を開いた。
「妹!?比良坂妹いたの?えー可愛いー!」
「だいぶ年離れてんね。小学生?何年生?」
「あなた、見知らぬ人にお行儀良くできるんなら普段から……」
そうそれぞれ喋りながら、朔と悠月ちゃんを囲み込んでしまった。亜矢と優子は悠月ちゃんに興味深々だし、弥ちゃんは最初だけ礼儀正しかった朔に小言を言っている。
瑠璃は相変わらずニコニコしていた。悠月ちゃんは急に知らない人に囲まれて固まってしまっている。そして、とうとう我慢の効かなくなった朔が声を張り上げた。
「うるせーな!散れお前ら!」
「こんなところで大声出すなよー!」「えーけちー!減るもんじゃないでしょ!」「あら、何か気に触るようなこと言ったかしら」
今度は三人とも朔に対して文句を言い出した。それなりに賑やかなゲームセンターとはいえ、だいぶ目立ってしまっている。
店員の人もチラチラ見ているし、そろそろ静かにさせたほうがいいかもしれない。ひとまずこの場から動こうと声をかけようとしたところで、やかましい声にかき消されながらも僅かに電話の着信音が複数鳴り響いた。
みんなそれに気づいたらしく、自分じゃないかと慌ててそれぞれ携帯を取り出す。
とりあえず私の携帯ではなかった。確認を終えて視線を手元から元に戻すと、朔、亜矢、瑠璃のそれぞれ三人が電話をとっていた。
三人とも同時に電話がかかってくるなんて珍しいこともあるんだ。
電話がなかった私たちは通話の邪魔にならないように黙る。こんなうるさいゲーセンの中だと正直、あんまり意味ないような気はする。
さらに珍しいことに、三人ともほぼ同時に電話が終わった。最初に口を開いたのは、亜矢だった。
「ごめーん!家の用事があるの忘れてて、ママから電話きちゃった!。もう帰んないといけない……。」
「私もちょっと急用できちゃった……また、怪盗シスルの予告が出たみたいで今から作戦会議が……。」
亜矢も瑠璃も今から用事があるみたいだ。正直今日の目的はほとんど達成できたので解散でも全然いい気がする。
そう思って提案すると、優子も弥ちゃんも同じ意見のようだった。そのため今日はもうここで解散となった。
亜矢はバス停、優子は地下鉄、弥ちゃんは車(お迎えがくるらしい)、瑠璃はこのまま徒歩で、私はもちろん電車と、みんな帰る方向が見事にバラバラだし、なんなら、ショッピングモールの出口すら別だったからだ。
ゲーセンの入り口でそれぞれ手を振って、それぞれ目的地に向かって歩き出した。朔たちはいつの間にかどこかに行っていたけれど、あの電話は何か急ぎの用事だったのかもしれない。
そんなことを考えながら電車に乗るために駅に向かう。
そして、その考えごとの答えはすぐにわかった。




