幼馴染たちの進路
「え?進路?瑠璃と同じ大学行くけど。」
翠に聞いたのは間違いだったかもしれない。多分高校も瑠璃と一緒だからという理由で決めた男に進路の相談をするべきじゃなかった。学校のホームルームが終わってすぐに、今は隣の席になった翠に話しかけたけど、予想の上を行く、ある意味翠らしい返答に戸惑いながらも質問を続ける。
「えっと、そうじゃなくてさ、大学に行くとしてマジックはどうするの?」
「もちろん、在学中にちゃんと腕は磨くし、コンテストにだって出る。最終学歴は学士でも修士でも博士でもなんでもいいけど、どれとってもプロマジシャンになるさ。オレは天才かつ優秀だからな!」
本当に人選ミスだ。何にも参考にならない!しかも本人の言葉通り、実際に実力があるのが腹立たしい。翠は現時点で高校生のマジック大会だとか、未成年対象の大会とかで荒らしてるレベルで優勝を勝ち取っているのは事実だし、頭がいいのも模試の成績や、稀に高校生の論文発表かなんかで賞取ってるのもあって事実だ。
念のため、もしも怪我とかしたらどうする?とは聞いてみたけど、オレは天才だから、頭が動いているなら体が動かなくてもできるようなマジックを考えると返されてしまった。だめだ、次に行こう。自分に自信がありすぎて私とは考え方が真逆すぎる。翠みたいにポジティブになれたら、進路もきっともっとすぐに決められたんだろうな。
気を取り直して、次に行こう。次は樹だけど、どうやって樹に声かけよう。クラスまで押しかけて進路どうしたの?って聞くのはあまりに不自然すぎる。かといって、わざわざ樹のクラスに行く用事はないし、部活中に押しかけるのも、帰りを待つのもなんか変だ。周りからも変な目で見られるだろうし、本当にどうしよう。
そんなことを考えていたら、あっという間に放課後になってしまった。今日はもう諦めて家に帰ろう……。明日以降勇気を出して樹のクラスに突撃するか。
そしてなんの収穫もなかったことに気落ちしながら学校から出た。家に帰ったら色々と調べないとなあ。ばったり樹に会えたら、楽なんだけどね。
そんな私の願いは案外あっさり叶うことになった。
「あ!」
「……?どうしたあかね?」
電車で揺られて、家までの最寄り駅まで辿り着いたところで、偶然樹と会った。思いの外、大きい声が出てしまって、周りの注目を集めてしまって恥ずかしい。私がワタワタと照れていると、樹が何かを察したらしく、改札近くのベンチに座らされた。
「何か話があるのか?」
「あー、えと、樹はさ、進路どうやって決めた?そのバレーのこと一筋だとは思うんだけどさ、怪我した時のこととか、引退するってなったその先とかさ、その辺も踏まえてどうやって決めた?いや、急にごめんね? 私、全然決めきれなくってさ。」
樹から話を振られて、謎にテンパってしまって、無茶苦茶早口で、何が言いたいのかもよくわからない長文を話してしまった。樹はいつも通りの無表情のままだったけど、私のことに呆れているに違いない。
「進路をどうするかで言えば、大学に入ってからプロの選手になるつもりだ。もちろん大学もバレーを基準に決めた。大学もバレーが強いところにするつもりだ。最もスカウトの声がかかるのはまだ先だろうが。」
「やっぱ、そうだよね!続ける選択をするなら、そうするしかないよね……。」
樹もやっぱりしっかり決めていた。その道のプロとして生きていくことを自分の意思でしっかり決めていた。その分私はやっぱり、ダンスで生きていくっていう覚悟が決まってないように感じた。翠や樹みたいに、意思も覚悟も持てないなら、大人しくダンスへの情熱を捨てて、受験へと舵を切った方がいいかもしれない。太ももにおいていた手に力が入って、スカートがぐしゃぐしゃになった。
「怪我や引退後の話をするのであれば、そういった状態でも最終的にはバレーにどうにかして携わるつもりだ。だから、学部としてはトレーナーや体育教師の資格が取れるスポーツ系か、興行とかでもバレーに携われるように、マーケティングや経営の方面でも考えている。」
「……意外、樹はスポーツ系以外に進む気ないと思ってた。」
翠とは違って、自分の夢が叶わなかった時のことも樹はしっかり考えていた。その上、スポーツ以外の進路が選択肢に入ってることに驚きの声をあげてしまった。それをみた樹はいつも通りの無表情からほんの少しだけムッとしたような表情になった。
「失礼だな。俺だってバレーのことだけ考えているわけでもないぞ。……とはいっても俺も他の人からの受け売りで、経営系の進路を考えただけだが。」
「そうなの?」
「だから、細かい進路相談はこいつの方がよっぽどタメになるぞ。」
そういって、樹が指を刺した先には、いつの間にか私たちの近くにいたヒロ君が立っていた。どうやら、話し込んでいる私たちの姿を見て声をかけようとしていたらしい。
「なかなか珍しい組み合わせだね?」
「ヒロあとは任せた。あかねは進路相談をしたいらしい。」
樹はそれだけいって立ち去ってしまった。色々と言葉も態度も足りてない!!急にそんなこと言われても、ヒロ君だって困るだろうに。唐突な頼み事をされたヒロ君は数回瞬きをしてちょっと考えたあと、何かに納得がいったように大きく頷いたあと、それじゃあ、行こうかと私に声をかけて歩き出してしまった。樹の短い言葉だけで状況を把握してしまったらしく、私の進路相談に乗ってくれるみたいだ。ありがたいだけで、特に断る理由もないので、慌ててヒロ君の後を追いかけた。
「それで、あかねは何をそんなに悩んでいるんだい?」
ヒロ君が入ったのは、駅前のファストフード店だった。そこまで長居する気もなかったので、ポテトとそれぞれ飲み物を頼んで席に着いたところで、ヒロ君がいきなり本題に切り掛かった。進路相談をする上で、隠す意味もないので正直に話した。ダンスを続けるのか、大学からは違う道を選ぶのか、そもそも行きたい大学も学部もちゃんと決まってないことを一通り話した。ヒロ君は私のまとまってない話を聞いて一呼吸置いてから、問いかけてきた。
「うん、そうだねそもそもダンスを続けるかどうかってところでいちばん悩んでいるのかな。」
「まあ、そうなるかな……。将来のこととか考えるとさ、どうしても不安定そうなイメージがあってさ。」
「あかねは今までそういったことを気にしていなかったように思えるけど、一学期とかは特に。勉強とか知らない!って感じでダンスに夢中になってたように思えるけど。夏休み以降に、何かあったのかな?」
「それは、その……。」
ヒロ君に言われたことは図星だった。本当につい最近までダンスだけに一生懸命になってることに何の不安もなかった。急に不安になったのは、舞のことがあったからだ。
夏休み前にあの捻挫をするまで舞はすごいダンサーだった。日本国内でも優勝はいっぱいしていたし、最近は海外の大会でも爪痕を残して、これからもっと良い成績が取れるはずだったのだ。
なのに、怪我をした後、うまく踊れなくなり大会で思うような結果が出なくなり、ダンスもだんだんと以前みたいな輝きがなくなっていった。本人もそのことは自覚していて、かなりショックを受けていた。
そして、いつの間にか通っていた教室を辞めてしまった。また、舞からは「あかねは頑張ってね」というメッセージを受け取っただけで私からは連絡が取れなくなってしまった。
ダンスの先生経由で聞いたけど学校にもあまり行けていないようだった。そのことを聞いて私は急に不安になった。このままダンスだけに全力をそそいだ後に、ダンスができなくなったら何が私に残るんだろうって。私もちょうど捻挫して復帰した後だったので、尚更重くその考えが頭にこびりついて離れなかった。




