伊藤あかねは進路に悩む
「伊藤さん、もう一回ちゃんと面談をしましょう。大学受験をするならあまり時間はないからね。」
「……はい。ありがとうございました。」
俯いたまま、進路相談室を出る。人数の関係で放課後に回された進路指導面談は、私のあまりの優柔不断さと将来の道が定まっていないことが原因で、先生としても困ったような形だった。
今年の夏に本来なら、オープンキャンパスとかに積極的に行くべきだったんだろうけど、ダンスを優先させた私はどの大学にも行かなかった。その結果、ふわっと字面だけで学部を選んで、行けそうだと思った大学をとりあえず書いて出して、「なぜこの大学にしたのか」という先生の問いに答えられなかった。
先生には希望進路を突き返され、もう一回よく考えるように言われてしまった。全く持ってその通りだ。普通だったら行きたい学部とか、学科とかはとっくに決まっていて、行きたい大学をちゃんと選んでる人が大半だ。
私は今日の今日まで、ダンスをどこまで続けるのか、それともダンスは趣味レベルにしてちゃんと大卒になって普通の仕事に就くのかを決めれないまま、どっちつかずのままだった。
親は好きなようにしなさいとは言ってくれるけど、私はどっちの道に進むべきか決断する勇気がでなくてなあなあにしてしまった。
高校受験だって、ダンスに全ツッパするならもっと偏差値を下げたところにすればよかったのだ。
そうすれば、毎度のテストを赤点ギリギリで潜り抜けるようなことにはなっていなかった。もうそろそろ、自分の進むべき道をちゃんと決めなきゃいけない。高校を出たらすぐに大人の仲間入りをしてしまうのだから。
とは言っても自分一人で結論を出せる気がしない。きっとみんなは進路決まってるはず。こうなったら、色々な人に聞いて自分の参考にしよう。思い立ったが吉日だと思って、ひとまずいつメンに明日の放課後、ファミレスで女子会をしないか誘いをかけることにした。
――次の日放課後
瑠璃も優子も亜矢も弥ちゃんもみんなちょうど空いていたので、テスト期間にもよく使うファミレスに集まった。期間限定メニューには秋らしく、キノコを使った料理や、栗やさつまいものデザートが載っていた。先延ばしにするのも今日声をかけた意味がないので、みんなの注文が終わった途端、いきなり本題を聞くことにした。
「みんな進路ってどうやって決めた?」
「いきなりぶっ込むじゃん。何?変な進路書いて呼び出しくらった?」
あまりにも深刻そうな声が出てしまったのを、優子が茶化すように囃し立てた。優子はまた私の成績がやばいから勉強会するのかと思っていたらしい。
流石に、テストの一ヶ月近く前から勉強するほど切羽詰まってはいない。つい最近終わった中間テストでは赤点なかったし、クラス内順位も中盤近くまで食い込めたし!
「ともかく!みんながどういう風に決めたのか参考にしたくて……一人で悩んでても結論が出なくってさ。」
「そういうことなら、私はあまり参考にならないわね。元から家の事業を継ぐ予定だったし、私としてもそれでいいって納得していたから。自分の進路や未来のことで悩んだことはないわね。」
弥ちゃんが申し訳なさそうな顔で言った。仲良くなってから知ったけど、弥ちゃんの家は噂通り由緒正しい歴史のある家系で、代々継いでいる仕事があるらしい。それが何かなのは守秘義務の関係で教えてもらえなかったけど、そんな家に長女かつ一人っ子で生まれたせいで、家を継ぐことが確定していたらしい。弥ちゃん的にも家業のことを誇りに思っているらしい。また、弥ちゃん曰く、やりたいこととやるべきことが一致してるから家を継ぐのに反対する理由がないと。それはそれで羨ましい気がする。
「うーん、私は弥ちゃんとは真逆かな!家の事業とかじゃないけど、両親二人ともプログラマーだったし、私もそういうの好きだから情報系の学部に行くつもりだった!けど今は違うかな、ちょっと悩んでるー!」
「え?そうなの?」
てっきり瑠璃はとっくの昔に情報系の学部に進路を決めていると思っていたものだから、ちょっと変な声が出てしまった。瑠璃は続けて、進路が決まってない訳じゃないけどと補足した上で言った。
「あの怪盗シスルを捕まえる作戦会議みたいなの、定期的にまだしてて、実際に予告の現場に立ち会うこともしてるんだ。その中でいろんな機械使ったり、化学反応とかを応用した技術を使ってたりするのを見て、プログラミング以外もいいなって思ったの。だからとりあえず、理工系の学部には行くつもり!入学後にコースが選べるタイプの!」
そこまで言い切ったところで、瑠璃は怪盗シスルに色々してやられたことを思い出したのか、盛大な瑠璃一人の愚痴大会が始まりそうになった。みんなで慌てて止めにいった。
最終的にはちょうど運ばれてきたポテトを、隣の席に座っていた亜矢がひたすら口に運ぶことで阻止することに成功した。
よかった、話が盛大に脱線するどころか、想定以上の時間ファミレスに拘束される羽目になるところだった。夏休み前のことを考えると、瑠璃は怪盗シスルの悪口なら延々と言えそうな気がする。そのぐらい大嫌いみたいだ。
「みんな真面目に考えてんねー。あたしそこまでちゃんとは考えてないよ。」
「そういうあなたはどうやって決めたの?」
感心したような声を上げた優子に、弥ちゃんが問いかける。優子は二人の後にいうのは恥ずかしいんだけど、と若干後ろめたそうに言った。
「あたしは、実家から通えて、一番校舎が綺麗なところにした。あと、奨学金制度がいっぱいあるところ。あたしの家、そんなに金ないからさ。高校だって、入学費とか学費の免除が成績優秀者なら多いって理由で決めたし。だから、学部学科は二の次。行けるところに行く。親からもそう言われててさー。あたしは別に働いてもいいんだけど。」
なんか、暗い話してごめんねーと茶を濁していたけれど、私的にはそれも立派な理由に思えた。将来のことを考えたら、大学卒業の肩書はあった方がきっと便利だ。きっと優子の親もそう思ってどうにか手助けできる範囲で、大学を出て欲しいのだろう。優子もそれをわかってるから、親孝行の一環で、近場の大学に行くつもりみたいだ。
そう考えると、私は急に自分の親に対して申し訳なくなってきたし、自分が情けなくなってきた。ダンスにも教育にもお金かけさせたのに、今のままだと中途半端でダンスで食べては行けないし、大卒の資格も手に入らないような人になってしまいそうだ。
「優子は十分立派だよ……私はオープンキャンパスに行って楽しそうだったって理由だけで、第一希望の学部選んだよ。学部も化学使わなさそうだからって理由で情報系の学部志望……。就職とか先のことは考えてないです。」
「安心して!オープンキャンパスすら私行ってないから!」
亜矢が恥ずかしそうな顔で、小さくなりながらボソボソと呟いた。私的にはオープンキャンパス行ってるだけで偉いと思うし、少なくとも学部の調査もちゃんとしてる。なんだかんだみんな理由はそれぞれあって、進路を決めてるようだ。
「ていうか、あかねはてっきりダンス系の進路行くのかと思った。大学受験もしないかと。」
「うん、それも考えたんだけどさ、やっぱ、怪我したら終わりじゃん?あと、年齢も上がるにつれて色々大変になりそうだなーって。」
優子が最もな疑問を私にぶつけてきた。それに対してふわっとした自分の考えで言い訳するように返してしまった。こういうところが本当に自分がいかに何も考えていないかを見せつけているようで、すごく嫌だ。
「……それなら、スポーツ系の人にも意見を聞いた方がいいんじゃないかしら。怪我とか引退後のこともちゃんと悩んで決めてるでしょうし。」
「確かに!私も優子もソフトは高校までのつもりで進路決めてたし!ダンスの先生とかにも相談してみたら?同じことで悩んだはずだし。」
「いっくんとかに聞いたらいいんじゃない?後スポーツとはちょっとしがうけど翠とか!」
私の浅い返答に対して、みんなが口々にアドバイスをくれる。本当にありがたい。やっぱりこういう時に持つべきものは友達だなって改めて思う。その日は進路の話はそこまでにして、注文した料理を食べながら雑談をしてお開きになった。最後の会計は相談に乗ってもらったお礼も込めてちょっとだけ私が多めに払うことにした。みんなからはちゃんと払うよって言われたけど、強行突破した。進路については、まずは明日、学校で樹と翠に聞いてみよう。どうせ次の面談まで後一週間は時間があるのだから。




