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体育祭ダイジェスト 後半


「今年はどんなお題が出るんだろうね」


「まあ、ベタなのは一通りあるんじゃないかな。はあ、巻き込まれなきゃいいけど」


 ヒロ君と選手入場を見ながら、お題の予想をする。ヒロ君はこの競技にあんまりいい思い出がないようだ。

 去年は確か、「かっこいいと思う人」、「靴が青の人」、「内部進学生」などさまざまなお題を引いた女子がヒロ君の元に殺到した。

 都合よく話せるチャンスはここしかないと踏んだみたいだけど、同じ考えの人が複数いたせいで、あわやキャットファイト寸前だった。

 流石に、女たらしのヒロ君とはいえ、目の前で醜い争いを起こされるのは嫌いらしい。その時は確か、「幼馴染」を引いた樹が横から掻っ攫った。荷物のように担ぎ上げながら。元々女子に人気のあるヒロ君と、バレー部内でも一年せながらエースで影でモテていた樹のやりとりに、一部で黄色い悲鳴が上がっていた。

 去年の惨状を思い出したのか、ヒロ君が苦い顔をしている。私としても同じ見学席にいる身としては巻き込まれたくない。

 というか、体育祭期間中、することないからヒロ君とずっと話してたけど、この状況ってそれなりに不味くない?学校一顔のいい、女子にモテる男とずっと一緒に話していた。

 今更、ヒロ君のことを好きになるとかないけど、他の女子はそんなことも知りもしないし、よくないことを思われてそうだ。全く別の不安が湧き上がったところで、借り物競走が始まった。


 借り物競走は全部で三回行われる。制限時間三分という限られた時間で、お題に当てはまる人を探してこないといけないので割と時間がない。一回戦目の一年生は、慣れていなかったり、先輩たちに声をかけるのもためらいがあったのか、半数が時間に間に合わず得点無しになっていた。一位を獲得したのは白ブロックの一年生で、樹を連れてきていた。お題は「かっこいい人」。なぜ樹を連れてきたのかを審判に聞かれて、「同じバレー部の先輩で、エースとして活躍されている憧れのかっこいい先輩を連れてきました!」と堂々と答えていて、会場が微笑ましい感じになった。隣のヒロ君だけは、自分が巻き込まれるお題が減ったことに安堵していた。


 続いて、二回戦は二年生。なぜか出場選手に朔がいた。あと翠も。二人とも出る予定はなかったはずなのに……なんで?ふと、昼休みに翠がニヤニヤしていたことを思い出した。ものすごく嫌な予感がする。翠一人ならまだしも、朔がいることが特に。急に大量の冷や汗をかき出した私を、ヒロ君が心配してくれるけど体調が悪いわけじゃないんだ、申し訳ない。

 私の心配をよそにスタートの合図がなった。翠はお題を引くなり、速攻で赤のブロック席に向かっていった。なんとなく、絶対瑠璃を連れてくるだろうという予想があった。朔はお題を引くなり、呆れたような顔をして早足で私たちのいる見学席に向かってやってきた。


「うわ、やだ来た!?」


「面白いことになってきたね。」


 思わず悲鳴のような声を上げた私に対して、自分は巻き込まれないという確信のあるヒロ君が楽しんでいるようなことをいう。案の定朔は隣にいたヒロ君には目もくれず、私の目の前に立って、来いと言わんばかりに腕を引っ張ってきた。

 さ、最悪だ!一番巻き込まれたくなかった競技に巻き込まれた!思わずその場から動けなかった私に朔が苛立ったかのように強く腕を引っ張ってくる。


「あんまり乱暴なことはやめなよ。あかねはけが人だよ。」


「……チッ」


「うわちょっと!朔!?」


 ヒロ君の揶揄うような声に舌打ちをしたと思ったら、体が急に浮き上がって、いつの間にか朔にしがみつくような形になってしまった。いわゆるおんぶの状態で走り出した朔に私は抵抗することも抗議することもできず、落とされないようにしがみついていた。

 小さい頃に朔と手を繋いだり、おんぶされたりしたこともあったけど、こんなにむず痒い気持ちになったことはなかった。少し嬉しいような、恥ずかしいようなそんな気持ち。

 じゃなくて、違う!違う!断じて違う!照れてるとかじゃなくて、人目に晒されてるのが耐えられないだけ!顔が熱くなってきてるのも日差しに出たせい!早くなった心臓の音と、赤くなった顔が誰かにバレないか気が気じゃなくて朔の肩に思いっきり顔を押し付けた

 朔に降ろされた後も、ずっと地面を向いて自分の靴だけを見ていた。顔が熱くなるどころか、耳から入ってくる音も情報として判断できなかったし、したくもなかった。周りにどう見られているかなんて知りたくもないし、聞きたくもない。ただでさえ、優子と亜矢のせいで、私たちがそういう関係じゃないかって疑っている人が多いのに、こんなことされたらさらに誤解が広がるじゃない!

 羞恥心をなんとか朔への怒りに変えようとしたけど無理だった。結局私は頭が茹で上がった状態のまま、朔がどんなお題を引いたのかも、何位になったのかも、どうやって見学席に戻ったのかもわからない有様だった。いつの間にか借り物競走は終わっていた。


 私が正気に戻るまでの間に、いつの間にか部活動対抗リレーまで終わってしまった。毎年、真面目なリレーとおふざけなリレーで分かれてやる競技で、毎年一番盛り上がる。

 一番見るのを楽しみにしていたのに、全く記憶がない。それもこれも全部朔のせいだ!なんで私をわざわざ運んでまで連れていったんだ!これでお題が誰でも連れて行けるようなのだったら許さないし、「好きな人」とか「可愛い人」の類でも体育祭が終わってからも恥ずかしさが薄れない。

 恐る恐るヒロ君になんのお題だったかを聞くと、「幼稚園・保育園からずっと一緒の人」だったみたいだ。……うん、まあ、それなら仕方がない。お題を満たすのはここには私しかいないもんね。ほっとため息をつく。変な噂は広まりそうにないお題だ。おんぶしていったのも仲がいいってことで、ぎりぎり誤魔化せるかもしれない。


「ああ、それと、翠が瑠璃を『好きな人』でお姫様抱っこで連れていって、みんなそっちに気を取られていたよ。だからそんなに恥ずかしがらなくてもよかったのに。」


「え、あ、べ、朔に背負われてたのが別に恥ずかしかったわけじゃないけど!」


 どうやら私たちは注目されてなかったらしい。その言葉に安堵したのに、ヒロ君の余計な一言に思いっきり動揺して、墓穴を掘った。本当に心から楽しそうにヒロ君が笑顔になって、ここぞとばかりに畳み掛けてきた。


「そうかな?ずっと顔が赤かったけれど」


「急に日差しに出たから暑かっただけ!本当に違うから!意識した訳じゃないから!」


「こっちに戻ってきてもしばらくずっと俯いていたのは?」


「違う!本当に違う!」


「本当は朔のこと……」


「もーうるさい!意地悪!黙ってよ!」


「あははは、ごめんって。」


 ヒロ君とそんな言い合いをしていたら、いつの間にか騎馬戦まで終わってしまった。すでにブロック対抗リレーの入場が始まってしまった。誤魔化すように赤ブロックの応援をし始めたら、ヒロ君の吹き出すような音が聞こえてきた。もう!本当に違うんだってば!


 ブロック対抗リレーはバトン落としたりとか、誰かがこけたりすることもなく、陸部の固まった赤と青が常に先行していた。スウェーデンリレーでも活躍した、400メートル全国出場の子がリードを広げると、青は結局最後まで追いつけず、赤、青、黄、白の順で順位が決定した。なんだか予想通りであんまり面白くなかった。


 そして、そのまま閉会式。長ったらしい校長先生やPTAの言葉の後に待ちに待った結果発表だ。まずはマスゲーム。黄色ブロックが一位。滑り倒した青は案の定最下位。続いて創作ダンス、赤ブロックが一位。たくさんアドバイスした甲斐があった。応援合戦では硬派な応援が年寄りに刺さったのか、白が一位を取っていた。

 とうとう、総合優勝の発表だ。私たちの学校の体育祭では午前中までは得点掲示板が表示されるけど、午後は点数が隠される。ここで一気に吹奏楽部のドラムロールで全ブロックの点数が表示され、結果がわかるという形だ。

 ドラムロールが鳴り響くなか、ヒロ君と最後の得点予想をしていた。と言っても今までみたいなちゃんとした予想じゃなくて、自分のブロックが勝つと言い張るだけのものだったけれど。

一際大きい、ドラムの音が鳴ったと同時に、得点を隠していた紙が一斉に取り払われる。各ブロック席から、歓声と落胆の声が響くなか、見学席は割と静かだった。やっぱり、蚊帳の外って感じが強いからね……結局。


 結果は一位赤ブロック、二位青ブロック、三位白ブロック、四位黄ブロックだった。未だ声の止まないブロック席を無視するかのように教頭先生が閉式の言葉を言って、私たちの高校二年生の体育祭は終わった。


 教室に戻って、帰りのホームルームが始まると、先生が差し入れとしてアイスを全員に配ってくれた。見学の私がもらうのは申し訳なかったけど、ありがたくいただいた。みんなで食べていると、やっぱり今日の色々あったことで話が盛り上がってきた。ブロック席の中で起きたことなんかは、私が知る由もないからちょっとだけ疎外感も感じていた。それをめざとく見つけてきた優子が話を借り物競走のことについて誘導してきたせいで、すぐに疎外感は無くなったけど、ひどい質問攻めにあった。朔はいつの間にか教室から消えていたので、私一人がいじられまくって、耐えられなかったので逃げるように教室を後にした。


 余談だけど、翠と瑠璃が私と同じようにみんなから追求されなかったことを体育祭が終わった次の週に知った。ヒロ君の言ってたことが本当なら、私だけ質問攻めされるのはおかしいじゃん。それ以上にみんなが食いつきそうな色恋沙汰っぽいことがあったのに。

 実は借り物競走で「好きな人」として連れてこられたことに対して、瑠璃は「私も友達として大好きだよ!」とマイクを通して会場全体に宣言したらしい。これには全員が翠に同情していた。そのせいで、あいつらしれっとおんぶしてなかったみたいな感じで、私たちのことを見ていた人たちで盛り上がったらしい。

 本当にいい迷惑だ。


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