板挟み
「あかね!はっきり言ってやりなよ!迷惑だって!ほら行くよ!」
「あかねさん!こんな薄情な人のことは放っておいていきましょう!」
「いや、えっと、」
「早くこっち!」
「いいえ!こっちよ!」
両方サイドに陣取った弥ちゃんと優子が私にどっちに着いていくのか選択を迫ってくる。ものすごい圧をからかけられているけど、どっちかを選ぶわけには行かない。選ばなかった方を傷つけてしまうのはもちろん、選んだ方の気が大きくなって喧嘩がさらに激しくなることは目に見えているから。
それに、瑠璃たちと約束したのだ。どちらの味方もしないで、中立の立場でいることを。お互い巻き込まれて迷惑をかけられている以上、私の選択で事態を悪化させるわけにも行かない。
答えを出さない私に対して、両サイドの圧がどんどん強くなっていく。だんだん現実を直視できなくなって、私はなぜこんなことになったのかを振り返る現実逃避を始めた。
その日の体育祭の練習が終わって、帰りのホームルームが終わった頃、二人はどこかに消えて行った。てっきりもうすでに帰ったものと思って、私たちはこの隙に今後どうしていくかを話し合うことにした。みんな板挟みの状態には疲れていた。話し込んでいるうちにクラスメイトは徐々に教室から出て行って、気づけば私たち三人だけになっていた。ここ数日はあの二人のせいで、瑠璃と亜矢ともろくに話せなかった。そのこともあって、お互い話したいことがいっぱいあったのだった。あの二人のことは一切話題にせず、楽しい会話が始まった。
そうして盛り上がっていると、教室の前方と後方のドアが両方同時に開いて、それぞれから弥ちゃんと優子が入ってきた。弾んでいた会話が急に途切れて、私たちは引き攣った顔でお互いの顔を見合わせた。
私たちの様子も気にせず二人はズカズカと近寄ってきて、私たちの正面に立った。私たちには目もくれず、お互いを睨みつけあって、数秒の時間が過ぎた。そしてお互い同じタイミングで口を開いたけれども、どうやら二人はそれも気に食わなかったらしい。
「私が先に話そうとしてたんだけど!」
「あら、てっきり大きな口を開けたからあくびでもするのかと。」
「ちょっと待った!二人とも何か言いたいことがあったんじゃないの?」
またくだらない喧嘩が始まりかけたところ、亜矢が待ったをかけた。本題に入る前にひたすら罵り合いが始まるのは勘弁してほしいと言うのが、巻き込まれた私たちの総意だった。
「ええ、二学期が始まってから、くだらないことで毎度噛みつかれてうんざりしてたのよ。だから、白黒はっきりつけるべきだと思って。そこの小心者がどう思っているかは知らないけれど。」
「何、私が提案しました〜みたいな顔で話してんの!私から言ったことじゃん!そういう態度がムカつくって言ってんのよ!この陰険女!」
「えーと、だから本題を言ってほしいかな!」
再び喧嘩が始まり出そうとしたところを瑠璃が話を戻そうとする。どうやら、三日間続いた喧嘩の勝敗をつけるつもりらしい。なんで、そこに私たちが必要なのかわからない。相変わらずお互いのことを睨みつけたまま、どちらが先に本題を話すかの読み合いが始まった。数秒の読み合いのうち、先に口を開いたのは優子だった。
「……私たちのどっちがあんたたちの友達としてふさわしいと思う?」
優子の突拍子のない質問に私たちの頭上に『?』が浮かぶ。それを見た弥ちゃんが鼻で笑って詳しく説明を始めた。
「ふふ。そんな結論だけ言って伝わるわけないでしょう? 私たちで言い争ったところで、意味がないと結論を出したの。だって、友達として誰がふさわしいかなんて本人が決める物でしょう。」
「は?」
案の定その態度が気に障った優子が声を荒げたけど、二回も止められたからか、喧嘩が始まることはなかった。さらっと話されたが、二人の今日までの喧嘩の原因がやっと分かった。『どちらが、友達としてふさわしいか』ということだ。きっと、夏休み中にお互いがお互いを、私たちの友達としてふさわしくないと考えるようなことがあったんだろう。そのせいで今日までずっと私たちを、その都度巻き込んで喧嘩をしていたと。そんな理由で喧嘩するなら、私たちを巻き込まないで欲しかった。
「「だから早く答えなさいよ!」」
二人とも笑顔で凄まじい圧を放ちながら、私たちに詰め寄ってくる。気圧されて、私たちは思わずのけぞってしまった。ここではっきりどっちがいいかなんて答えるなんて、さっきの約束のこともあるし、二人を下手に刺激もしたくなくて私たちは、えっととかあのとかモゴモゴ口を動かすだけで、何も言えなかった。そうして時間を稼ぐこと五分。とうとう二人が痺れを切らして、何かを言おうとしたところで、教室のドアをスパンと開けて乱入者がやってきた。
「おい!瑠璃!お前なんでまだ教室に残ってるんだよ!」
翠がそう言って、詰め寄る二人には目もくれず、瑠璃のところへ歩いてきた。普段なら女子の話に入ってくるな!とか男子禁制!みたいな冗談を言い返すところだけど、状況が状況なだけ、私たち三人はほっとした顔をしてしまった。そんな様子を見て、翠は何が起きてるかよく分からないと言うような顔をしたけど、鬼の形相で例の二人が睨みつけてきたことに気づいて、引き攣った顔をしていた。
「遠藤!今大事な話してるんだけど!来ないでくれない!」
「はあ?なんで俺が?そもそも瑠璃とは先にこっちが約束してたんだよ。こっちの方が優先に決まってんだろ。」
翠はそう言って、詰め寄る優子をものともせず、瑠璃の手を取って教室を出て行こうとする。当然、止められてたけど完全に無視してる。このまま瑠璃はこの状況から抜け出せそうだ。そのまま教室の出口まで歩いて行き、思い出したかのように翠が一言声をかけた。
「あ、あと前田。化学の山本が探してたぜ。提出物がどーのこーの言ってたけど。」
「あ、え!?嘘!やばいかも!」
それを言われた瞬間亜矢も慌てて立ち上がり、教室を出て行こうとする。それも優子が手を掴んで阻止しようとしたけど、亜矢が「私が特進落ちどころか留年してもいいの!?」と見たこともないぐらい必死な顔で言っていたので、思わず手を離していた。化学のテストの成績が悲惨な亜矢にとっては、提出物の出し忘れなどの平常点の減点はかなり致命傷だと本人も言っていた。優子に手を離された瞬間、教室を飛び出して、全速力で駆け出していった。
亜矢が開けっぱなしにしていった方のドアに向かって、翠と瑠璃が歩いていく。瑠璃は私が残されてしまうことを気にしていたせいか、半分引っ張られるような形になっていた。とうとう教室の外に出てしまった瑠璃が、口パクでごめんねって謝っていた。そして教室のドアがピシャリとしまった。多分翠の仕業だろう。そもそも予定あるのに拘束してきたこの二人が悪いけど、顔が引き攣ってしまったのは許してほしい。だって、三人を見送る形になった、優子と弥ちゃんが、背筋も凍るような笑顔を私に向けてきたんだから。
「「それで、どっちなの?答えて」」
「えっとね……」
次回から、1日1回更新となります




