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遠藤翠は夜を舞う

 


「待てー!怪盗シスルー!」


「今日こそ捕まってもらいますよ!」


「ああもう!なんで捕まんないのよー!」


 お馴染みの警察の声、探偵助手の声、現場では聞き馴染みのない幼馴染の声を置き去りにして、夜の空を駆け抜ける。今回の盗みは本当に危なかった。作戦会議で出た案とは全然違う案がいつの間にか採用されていた。十中八九、|あの性格の悪い探偵助手《石堂の野郎》の仕業だろう。人に意見を出させるだけ出させておいて、一切使わないとか嫌がらせ以外の何者でもない。かといって文句を言ったら、怪盗シスルの正体がバレてしまうので何も言えねえけど。


『翠、残念だが今回もハズレだ。手がかりになるようなものは何もないよ。』


「くそ!本当に今回手間暇かけて、報酬は疲労だけかよ!」


『怪盗なら、悪態をつくのは家に帰ってからするようにしないと。どこに目や耳があるかわからないんだから。』


「仰せの通りに、師匠(メートル)!」


 首にかけたペンダントから、今日の盗みが全く意味のないものだったというありがたいお言葉と、オレの振る舞いに対しての注意が飛んでくる。このペンダントこそがオレが怪盗なんかをしてしまっている元凶にして、オレの師匠、自称幽霊(ファントム)。

 事故で死んだ両親が残したからくり箱から出てきたペンダントは、夜中になるとオレの体を乗っ取り、勝手に怪盗として動いていた。全くもって迷惑な話だ。まだ無名の怪盗だった幽霊(ファントム)の10回目の犯行時に、なぜかオレの意識が戻ってしまいそのことを知った。

 オレはその時、盗んだ覚えのない宝石片手に、何かを弁明する間もなく警察から全力で逃げる羽目になった。捕まったらどう頑張っても終わりだ。「このペンダントに宿る幽霊に体を操られて、こんなことをしました」何て言ったところで、行き先が少年院から医療少年院になるだけだ。


 なんとか逃げ切ったところで、こいつはオレの両親がかつては怪盗の助手だったこと、事故に見せかけて殺されたこと、詳しいことは言えないが今後も勝手にオレの体を使うこと、その他も諸々爆弾発言をしてきた。

 そして、体を貸さないのならそれ相応の手段を取るとまで脅してきた。頭の処理は追いついていなかったが、そんな危険人物に体を貸すわけにも行かないので、オレが怪盗として動くことでなんとか同意させた。それが、怪盗シスルの誕生秘話っていうわけだ。


 体を勝手に使ったり、脅してきたりしたのとは対照的に、オレが怪盗になると言ってからこいつは驚くほどに親切だった。鍵開けだのハッキングだの変装だの、怪盗として必要なスキルどころか、マジシャンとしてのテクニックまで教えてくるし、学校生活でも怪盗の活動中にもやたら助言してくる。マジで心の底から鬱陶しいと思えるぐらいに。ヘマをすると体を乗っ取ろうとしてくるから、俺は常に色々警戒する羽目になった。


 石堂の野郎は謎の勘でオレが怪盗シスルではないかと疑っている。そのせいで学校生活にも気は抜けないし、神楽坂グループがよく挑戦状を出してくるせいで、最愛の幼馴染は怪盗シスルのアンチになった。ヒロと朔は言ってこないが何かに勘づいてる気配がある。

 それでも、怪盗シスルの犯行はやめられないし、捕まって正体がバレるわけには行かないのだ。今も警察などの多大な方面に迷惑をかけているが、捕まってしまったら、本当にオレの身近な人たちに迷惑をかける。そもそも身近な人間がこのペンダント(ファントム)のせいで危険な目に遭わないために怪盗になった。その結果、迷惑をかけまくっている気しかしないのが最悪だ。


 さっさとこのペンダントの目的とやらを果たして、普通の生活に戻るためにオレは今日も罪を重ねていく。


ーどうか誰にも正体がバレませんように!

 

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