第一章 - 犬猿の邂逅(I-4)
「……中学生チャンピオン? 話が違うじゃない……聞いてないわよそんなこと……」
「言ってねえもんな。いや、厳密には説得材料として使おうかと思ってたんだけど、トントン拍子で試合決まっちゃったし。頭使うより身体動かすほうがお互い良いかなーって」
早々に先制点を獲得し、コートチェンジ。ネットの向こう側で、女の子がボールをポンポンとつきながら、こちらを睨んで悪態をついた。
「ふん。実力を隠して本番で粋がるなんて、ダサいわね」
「なんてこと言いやがる!」
全力で突っ込む。ひどくないか、その言い草は!
「……くっそ」
小さく舌打ちする。
情けねえ話だが、さっきのサービスエースはただの奇襲だ。
入ろうが入らまいが牽制としての意味合いが強かった。
それはまだいい。そっちじゃない。
そんなことより……見えるんだよな、後ろに。
硬式一筋でやってきた自分が負けるはずがない――という、確たる自信が。
「でも……うん、楽しめそうなのは間違いないわ」
落ち着いた声音の裏に、メラメラと燻る、見えない炎を幻視する。
「狗上優姫よ」
「……うん?」
「あたしの名前」
なんの皮肉か、それとも運命か。
俺と同じ「ゆうき」だなんてな。
彼女――狗上は、流れるような指さばきでトスアップの動作に入り、そして――。
「――――ふっ」
「な、ぁぁッ!?」
トスが重力の影響を受け始める前に、俊敏にラケットを振り抜いた。
体感、コンマ1秒。
「クイックサーブってやつか――――ぅ、ぉ、りゃぁッ!」
しかし見えないわけじゃない。腕は追いつく!
絶妙にタイミングをずらされながらも、なんとか俺はボールの軌道上に飛びついた。
「……当て……るぅ、だけぇ……ッッッ!」
軟式と硬式の決定的に異なる部分は、球の特性。硬式のボールはとにかく弾む。全力で振り抜けば特大ホームランが生まれる。だからこそ、ラケットの面を滑り込ませて当てるだけ。
それでなんとかレシーブの形になる。
しかし。
「形だけの返球に、意味なんて存在しないのよ」
大きく崩された態勢を取り戻すよりも前に、狗上は俺のレシーブの落下地点に入っていて。
「すぅ――」
ひと呼吸の溜めを作ったあと。
「――――ふっ!」
的確かつ迅速に。俺の構える逆方向……クロスに打球を突き刺してくる。
さながら天才的な外科医が執刀するかのごとく、的確に。
点を獲るために必要最低限の箇所を切り裂かれた。
これでカウント1対1(ワンオール)。
あっさりと、ゲームをふりだしに戻された。




