第一章 - 犬猿の邂逅(A-3)
「……なんのことかしら?」
不遜な物言い。
一瞬ドキっとしたけれど、シラを切ってすっとぼける。
「視線で分かるっつうの。別にいいんだ、慣れてるから――それにっ!」
ひゅん、と風を切るようなトスが、真上へと伸びる。
ダンッッッ! と勢いよく地面を蹴りつけて、彼は空へと舞い上がった。
――高い。
まるで……翔んでいるみたい。
「――っ、しゃらぁぁぁアアァァァッッッ!」
永遠にも思える跳躍の果てに、鬼神のごとき叫び声。
刹那。
ずどんっ――と。
いつの間にか振り切られていたラケットの先から、轟音をともなう緑色の光線。
バウンドの衝撃で跳ね上がったボールが、あたしの脚元、サービスライン内を抉る。
「な…………ぁ…………ッ!」
……見え、な……かった……。
「ひゅうぅ〜〜、ラッキー! 入った入ったぁ!」
驚愕に頬がヒクつく。
冗談……でしょう……?
確かに、トスアップは綺麗だった。跳躍力も申し分ない。
でも、フォームがめちゃくちゃだった。
きっと、硬式への転向に際して矯正している過程なのだろう。それくらいは察しがつく。
不完全で、未完成。
なのに……!
なのに、あんなに速いサーブを、どうやって打ったっていうのよ。
「ぶっちゃけ、フォルトでも良かったんだけどな。一発、挨拶がてら速球ぶち込んどきゃ牽制になるかなと思って。――硬式も軟式も、サーブはひとり2回打てるわけだし」
あくまでも、無邪気に。
まさか一発で入るなんてな、と軽薄な口調で。
心底楽しそうに、コートの向こうの彼は言う。
「さてと――これで伝わったか? 俺の本気が」
対岸の男の子は、ひどく不敵な笑みを浮かべて。
今さら、自己紹介をした。
「第三高校2年生、申渡悠希だ。今はバイトで軟式テニスのコーチをやってる」
「…………ッ!!!」
ぶるっ、と身が竦む。
かつて何度も経験した、強者と向き合ったときに湧き出る感覚。
ぎりっと奥歯を噛み締めて、心に鋼を纏う。
次は絶対に獲る……と、気を引き締めるあたしを差し置いて。
「実績を付け加えるなら、そうだな――」
昨日の夕食を思い出すかのように、中空に視線を上げて。
彼は、こちらへと向き直った。
「一昨年のソフトテニス全日本中学生王者だ――さあ、楽しんでいこうぜ」




