第五章 - 犬猿の後日譚②
真尋さんを見やると、まるで憐れむような目でこちらを眺めていた。
「そういえば真尋さん、真澄は誘わなかったのか?」
「えぇ……? えっと、その……真澄を誘うと、色々ややこしくなりそうだから」
「ややこしいこと……?」
ってなんだ?
と疑問が浮かんだところで、俺のスマホがぶるっと震える。
噂をすれば影ってやつか。プッシュ通知を開いてみると、真澄からのメッセージだった。
『ゆうくん、いまなにしてるの?』
俺は特に考えることもなく「カフェで勉強してる」と返信した。
すると、1分も経たずしてふたたび通知がくる。
『うそついちゃだめだよ?』
……嘘はついてねえんだけどな。
どう返したものか悩んでいると、さらに新しいメッセージが表示される。
『さっきおねえちゃんに連絡したら、今日はお昼食べて帰るって。どこか出かけてるのって聞いたら狗上さんに呼ばれたって。そこにゆうくんも居るって。うそつきうそつきうそつき』
「違うっつうの……」
たまらず返答が口から漏れた。
その様子を狗上と真尋さんが怪訝に思ったらしく、改めてふたりに説明すると。
「ちょっと貸しなさい」
「あっ、おい、ちょっと――」
狗上に素早くスマホをひったくられた。ものすごい勢いで会話の履歴を遡られる。そしてあろうことか、真澄からのメッセージを口頭で読みはじめる。
「いま何してる? すこし話せる? ぼくのこと、どう思ってる? ゆうくんの声きいて安心した。土曜、ふたりでいっぱいテニスしようね。約束だからね。ねぇ、ぼく以外の人とラリーしないで……って言ったら、ゆうくんはどうする? ……こっわぁ……」
実に数百件にもおよぶメッセージを目の当たりにして、狗上は思いっきり引いていた。真尋さんは「だから言ったのに」とでも言いたげな顔で肩をすくめている。
とりあえずなにか言い訳しねえとな……。
「正直なところ、『どう思ってる?』とか聞かれても答えにくいんだよな。すげえプレイヤーだと思ってるし、お互いに良いライバルになりたい。俺が大学に行ければ、もしかするとチームメイトにもなれるかもしれねえ。いろんな思いがあって、一言にまとめきれねえよ」
「……それで、あんたはなんて返したのかしらね」
「なんだったっけな?」
深夜に喉が渇いて起きたタイミングで気づいて、勢いで返信した手前記憶が曖昧だ。
どうやら狗上はくだんのメッセージにたどり着いたらしい。
「『うまく言えないけど、好きだよ』って……これはあんたも悪いわね……」
「そうなのか?」
「こんなにさらっと、好きだよ、なんて言われたら普通の女の子なら勘違いするわよ」
「なに言ってるんだ、真澄は男だぞ?」
「ものの例えよ……」
その言葉の意味するところは掴めないままだったが、俺は狗上に身を寄せて。
「もういいだろ、スマホ返してくれ」
と、近づいたところで、ふと気づいた。
「あれ……? もしかして狗上、化粧してる?」
「……うるひゃい……」
俺が言うと、狗上の顔が突如としてボンッと赤くなる。
そんな様子の狗上を、真尋さんが覗き込むようにして尋ねた。
「……優姫、もしかして申渡くんっていつもこんなんなのか?」
「……………………うん」
すると、真尋さんはポンとその肩を叩いて。
「こっちはこっちで険しい道だな……優姫」
「……うるさいわよ」




