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test  作者: test
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第五章 - 犬猿の後日譚①

 高天原オープンで準優勝という実績を作ってから、早いもので1ヶ月が経過した。


 全国から猛者の集う舞台で優勝する――という輝かしい実績をつくることはできなかったし、もちろん賞金も手に入らなかった。


 しかし、俺たちを取り巻く環境は劇的に変化した。


 あの高飛車なお嬢様――狗上優姫との仲が深まったのかって?


 ちがうちがう。


 高校生である俺たちに課された、逃れられぬ運命。


 劇的な環境の変化――そう、期末試験である。


 誰しもが通る道であり、誰しもに等しく与えられる試練。


 そして俺は近場の喫茶店にて――なんの因果か、相棒に勉強を教えていた。


「なあ狗上、聖峰女学院って足切りとかねえの? お前どうやって進学したんだ? ……いや、それはまだいい。どうして公民科目なんて選んだわけ? 地理と歴史を頭に入れてひたすら暗記すりゃいい政経はともかく、倫理とかお前ぜったい苦手だろ」


「うっ……うるさいわね……だって、よくわかんなかったし……科目の違いとか……」


「よくわからないからよくわからないものを選ぶってお前の思考が俺には一番わからねえ」


「……うぅ〜〜〜……」


 いまの言葉は思いのほか効いたらしい。唸りながらテーブルに突っ伏す。


 夏休みを目前に控えたこの時期は、どこの高校も試験期間にあたる。さて勉強するかなー、と自宅の卓袱台に問題集を広げたところで、突然この女に召集をかけられたのだ。


「……ていうか、あんたって意外と頭いいわよね……むしろ、かなり頭いいわよね……テニスバカのくせに。そこらへんの大学なら特待生枠で入れるんじゃないの? 学業が優秀な生徒は返済不要の奨学金が出るとか聞いたことあるわよ?」


「アホか。学力を維持しようと思ったら、そのぶんラケット握る時間が減るだろうが」

「ア、アホじゃないもんっ!」


 むきになり、椅子から立ち上がって抗議する狗上。しかし、ガタンと椅子を揺らして大きな音を響かせ、「すみません……」と周囲に頭を下げる。


 その後、なにごともなかったかのように赤い顔で着席した。子どもかこいつは?


「おい狗上、そこ違うぞ。『最大多数の最大幸福』は功利主義の思想で、唱えたのはベンサムだ。ついでに功利主義がめざすのは社会幸福の最大化な」


「いっぺんに言わないで、ノートに写せない」


「写すんじゃねえ覚えろ。……んじゃ問題。『神の見えざる手』を国富論で提唱したのは?」


「……ガエル・モンフィス」


「わからねえからって好きなテニス選手の名前を出すな!」


「なによあんた、さっきからポンポンと知ってる単語ばかり出して! いくら得意教科だからって詰め込まないでくれないかしら!」


 ぷんすか怒る狗上に、俺は抗いようのない事実を述べる。


「心を強く持って欲しいんだが……俺の選択科目は歴史だ。公民は好きで勉強してるだけで」


 対面の狗上は目を点にして硬直した。……死んだか。


「安らかに成仏してくれよ……」


「……なっ……なんで……あんた、試験に出ない科目も勉強してるの? 頭おかしいの?」


「生き返って早々、失礼なことを言うんじゃねえ。社会のこと知っとくのは大事だろうが」


「えぇ……気持ち悪いんだけど。ねえ、真尋もそう思わない?」


「どうして私に水を向けるんだ!?」


 同じく狗上に呼び出され、俺が狗上の間違った解答を指摘する脇で黙々と問題集を進めていた真尋さんが声を荒げる。


「だって、申渡って見た目も中身も脳筋スポーツマンでしょう? それなのに勉強ができるって付加価値が果たして必要かしら? そのギャップ、世間は求めてないと思うんだけれど?」


「私としては、優姫がほんとうにバカだったことのほうが、さらに衝撃が強いんだが……」


 狗上は今度こそ音もなく息絶えた。

 しかたない、勉強は一時中断とするか。


「……部活。最近どうだ?」


 死体と化した狗上に問いかけると、か細い声で。


「……まあまあ、かしら」


 曖昧な答えだった。けれど悪態が出てこないってことは、心配することもなさそうだな。


「部員のみんなも驚いたんじゃないか? あの狗上さんが頭を下げるなんて、ってさ」


「……まあ。あたしの言動にも少しだけ……ほんの少しだけ問題はあったと思うし? たまにはそんなふうに生きてみてもいいかもしれないなって思ったのよ……誰かさんみたいに」


「へえ。誰みたいに? 真尋さん? 真澄? それともねえさん?」


 頑固な女代表みたいな狗上の考え方に影響を与えるなんてすげえな。

 どういった部分に共感したんだろう? 俺は興味本位で尋ねてみる。

 すると狗上は顔を上げ、まるで猛禽類みたいな視線で俺を射抜いた。


「……ッ! こい、つ……ッ!」


 ……どうして射殺すような目を俺に向けるんだろうか。


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