第四章 - 犬猿の決戦(Ⅳ-10)
一度は失ったと思っていた、未来へ続く道。
その入口となる山頂が、目と鼻の先に鎮座していた。
「申渡。次がラストよね」
「……ああ」
「次勝てば、あたしたちは優勝よね」
「……そうだな」
「いまさら言うことではないかもしれないけれど、絶対に勝――、……っ」
士気を高めるため、気合を声に乗せた狗上が、一瞬だけ表情を歪める。
「…………」
俺はなにも答えなかった。
沈黙の肯定――ではない。
きっと、気づかせまいとしているんだろ?
見えるんだよ、お前が肘を庇ってるのが。
「はぁ……。ここまで長いようで、すげえ短かったなぁ……」
諦観の念は、溜息に溶けて消えた。
代わりに残ったのは、運命を受け入れる覚悟と、新たな決意。
お前はきっと怒るんだろうな。
でも、このまま隠し通せると思っているなら俺だって怒るからな。
……思えば、目の前の悪態女と出会ったのは春のこと。
はじめはそのプレーに魅せられて、けれど、実際に話してみると悪態ばかりで。
でも、どこか弱さを隠しきれていないところが、すごく人間らしかった。
あれから何度も練習を重ねて、ねえさん――雉沼桃子という心強い味方も手に入れて。
お前とこの舞台に立つために、必死でフォームを変えて、対策を練って、磨けるところを磨いて、ときには突飛な練習メニューだってこなした。
もとはと言えば、俺が誘ったんだ。
――責任、取ってやれよ?
ねえさんの言葉が頭の中に反響する。
「……これでいいんだよな」
ひとりごちて、唇を噛んで……それでもなお重い腰を、ようやく上げた。
俺は一歩ずつ、ネットに歩み寄っていく。
対戦相手はすでに待機していた。
自陣側から、狗上がこちらを横目で見ている。
早くしなさいよとでも言いたげな、挑戦的な表情で。
やがて隣に並び立ち、審判がコールをかけようとした――そのとき。
「あのっ」
俺は、はっきりと宣言した。
「狗上・申渡ペア……ここで棄権します」




