第四章 - 犬猿の決戦(Ⅳ-7)
試合は混戦を極め、ファイナルセットのタイブレークまでもつれ込む。
一瞬のミスが仇となる緊迫した場面でなお、真澄は笑っている。
サーブを打つために下がったところで、狗上に声をかけられた。
「あんた、この場面で笑えるってすごいわね……」
「…………あ………?」
そうか、俺も笑っているのか。
「なあ、狗上。やっぱりテニスって最高に楽しいよな……」
そりゃ笑えるよな。
生きていることを実感できる。
続ける喜びを噛み締められる。
「この瞬間を、ずっと続けていたいよな……ッ」
トスを上げる。
「――こんな楽しいスポーツ、ずっと続けていきたいよなぁッッッ!」
なにも変わらない。
地元を離れて、母とこの地へ。
軟式テニスから硬式テニスへ。
そして、男女混合ダブルスへ。
自らを取り巻く環境が、どれほど変化したとしても。
この気持ちは!
テニスを好きだという気持ちは、なにも変わらない!
「ぜってえ――勝つぞッ!」
何百、何千、何万回も繰り返してきた動作を、この舞台で再現する。
おもいっきり跳躍して、ラケットを振り抜く。
勝つんだ。
これまでの自分を肯定するために。
これからの未来を切り拓くために。
「ずっと、テニスを続けていくためにッ!」
俺の最高打点から、完璧な角度で入射したサーブが。
寸分の狂いなく、超速度でセンターベルトを越えて。
真澄の待つサービスラインに着地し、バウンドして。
「――らぁぁぁぁぁぁぁ殺ァああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッッ!」
対峙する真澄が、激越な叫声を上げてラケットを振りかぶる。
「僕は負けないッ! 敗者に居場所なんてないんだッ! 僕のために――僕がこの場所で生き残るためにッ! 死ねぇッ! ゆうくんッッッ!」
変幻自在に球を殺す鬼の金棒が、俺のサーブを――真芯で捉えきった。




