第四章 - 犬猿の決戦(D-7)
戦火は止まず、獣の如き雄叫びがコートから湧き上がる。
「殺ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
「おらァッ! どんどん来いッ、真澄ッ!」
「くッ――死ねぇッ! ゆうくんッッッ!」
「甘ぇ! こんなんじゃ俺は殺せねえッ!」
あたしでも目に追えるか怪しい超速球を、瞬時に跳ね返し続ける相棒。
「…………ちィッ!」
大きく舌打ちをして、態勢を崩した真澄が苦し紛れのロブを上げる。
――頼んだ狗上!
――わかってる!
アイコンタクトを交わすと同時、申渡はスマッシュの姿勢を解除する。
ここから先はあたしの領域。
山なりのボールは……まだ滞空している。
申渡のような反射神経を持ち合わせていないあたしに肝要なのは、頭を使うこと。
考えろ、考えろ、考えろッ!
考えろ、狗上優姫ッ!
この一球を、どこに突き刺せば良いのか、死ぬ気で考えろッ!
時は一瞬で過ぎていく。
ラリーの中、わずかに生まれた数秒を、思考の餌にする。
相手にパーで勝ちたいと思うなら、相手にグーを出させればいい。
相手にグーを出させたいのならば、こちらがチョキを出すふりをすればいい。
テニスのラリーは絶え間ない駆け引きの上に成り立っている。
すべてがつながっているのよ!
「――――ッ!」
視えた。
その瞬間、真尋が対角線上に走り出すのが本能で理解できた。
あの女は――鬼頭真尋は、あたしの狩り方を知っている。
甘く飛来した打球。
崩れた真澄の態勢。
いつものあたしなら――否。
今までのあたしなら、どうしたか。




