第四章 - 犬猿の決戦(D-6)
申渡の渾身のボレーがもたらしたのは、先制点だけではなかった。
あいつが掴み取り、こちら側に引きずり込んだのは、確かな希望。
鬼頭姉弟という大きな山を制するために踏み出す、大いなる一歩。
だから――あたしはあたしの戦いに徹する!
真澄の脅威である閃光のような強打は、申渡がネット際で遮断してくれている。
当然、同じ轍を踏むような相手ではない。けっこうな頻度で、あたしのもとには比較的緩いロブが返ってきていた。狙うべきは――真澄と真尋がギリギリ届かない、コート手前!
「――ふッ!」
息を入れて、打球の勢いを無に帰す。
意図的に放った短い打球が、狙い通りの地点に吸い込まれていって――。
「ここは通さない、優姫ッ!」
突如、その軌道上に割り込んだ影。
まるでハエ叩きのように。
パァンッッッ! と、強烈な音声をともなって。
鬼頭真尋が、その長い脚と腕をふんだんに使って、あたしの返球をはたき落とした。
自陣のサービスラインあたりについた打球の痕が、その鋭さを物語る。
「私も負けられないんだ……勝たなくちゃいけない理由があるから……!」
ネットの向こうから勝ち誇った表情を見せる仇敵の顔には、しかし大粒の汗が浮いている。
「相変わらず、手足が長いこと……ッ!」
女子の中でも恵まれた身体。
それを活かして、真尋はラリーに割り込んでくる。
あたしは知っている。
身に沁みて理解している。
仇敵の、選手としての特性を。
ポーチボレーに出るタイミングも、スマッシュの精度も完璧に近い。
けれど……あたしは、この相手にシングルスで何度も勝利してきた。
だいじょうぶ。
自分に言い聞かせる。
もう一回。
だいじょうぶ、だいじょうぶ、あたしはだいじょうぶ……もう1回。
ピンチはチャンスに変わる。
30対45。こちらが劣勢。このワンプレーを絶対に守り切る!




