表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
test  作者: test
53/69

第四章 - 犬猿の決戦(D-5)

 髪を乾かして、着替えて、コンビニにお酒を買いに行った桃子さんを見送って。


 ひと足先に部屋に戻ろうとしたところで――『鬼』と遭遇した。


「――――っ」


「あれ、狗上さんだ」


 狭い廊下。

 逃げ場はない。


 先ほどの悲鳴から理解はしていたけれど、まさかこんなところで会うなんて。


「奇遇だね。明日はよろしくね?」


「……まるで、自分が勝ち上がるのが当然だとでも思っているようね?」


「そうだけど?」


 事もなげに答える。


「さっき、同じことをゆうくんにも言われたなぁ。そんなに僕のこと信用できない?」

「信用したくない――が正しい表現かもしれないわね」

「あはっ、そうかも」


 真澄の背丈はちいさい。あたしよりも低いところに目線がある。


 そこから見上げてくる重圧に、顔が引きつりそうになった。


 ごまかすように、あたしは強がりを口にする。


「……あんたのこと見てると、ちょっと前のあたしを思い出すから嫌になっちゃうのよね」


「なにそれ。すごい言いがかりだね……ひどいよ。僕泣いちゃうかも」

「――――ッ! 白々しい……」


 芝居掛かった反応に、思わず毒づいた。


 目の前の『鬼』は、挑発するような目をこちらに向ける。


「それに、狗上さん……僕のこと苦手な理由、本当にそれだけ?」


「……どういう意味よ?」


「本当はちょっぴり嫉妬も混じってるんじゃないの? ゆうくんと仲の良い、僕に対して」


 鵺的な雰囲気を纏い、こちらを窺ってくる。

 突然なにを言い出すのよ。


 その言動を訝りながら彼の表情をうかがうと、ニコニコと少年のような、それでいて得体の知れない笑顔を浮かべていた。どす黒いなにかを秘めているような。


 あたしは鬼頭真澄に同族嫌悪を抱いているし、おそらく彼もあたしのことを好いてはいないだろう。けれど、決定的な違いがある。


「……とんだ思い上がりね。あんたに嫉妬する理由なんて欠片もないわ」

「……へぇ?」


 あたしは――鬼頭真澄のように表情を取り繕うことができない。


 全部ぶつけてしまう。

 思っていること、考えていること、意思言動行動すべて。


 けれど、あいつは――申渡は。

 素直なことは美徳だと、そう言ってくれた。


「だって、あたしは申渡とペアを組んでいる。事実としてね」

「……むぅ」


 まるで幼い子どものように頰を膨らませる鬼頭真澄。

 そして去り際に、あたしの耳元でこんなことを言う。


「――僕、相手が女の子だからって手加減できないから。覚悟しておきなよ?」 


 目を細めて小悪魔的な微笑。


 反射的に身体が仰け反る。


 そこに見えたのは――万物すべてを喰らい尽くす『鬼』の影。


 あたし、これと戦うんだ……。


 覗きこもうとすれば、たやすく暗い沼の底に引きずり込まれてしまいそうな。得体の知れない重圧。狂気にも似たプレッシャー。


 ぶるっ、と背中に電流が走った。本能が萎縮する。


 けれど――あたしの目的を。


 そして申渡の望みを叶えるためには、避けては通れない。


 あたしたちの目的は、この『鬼』を乗り越えた先にある。


 ぐっと太ももに力を込めて、踏みとどまった――そして。


「手加減をしてもらう必要はないわ」


 皮肉めいた笑みを浮かべて、そう告げる。


「……あれ、今日は震えてないんだね。どうしたの、なにか変わった?」


「ええ。少なくとも、あんたに対して抱いていた恐怖感はさっぱり消えたわ」


「ふうん……そっか。おもしろくなったね」


 暗闇を孕んだ真澄の視線が、その先を促してくる。


「理由を聞いてもいい?」


 震えそうになる脚を制して、臆することなく。


 言ってやった。


「あたしと、あたしの相棒が、あなたの球をすべて跳ね返すからよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ