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test  作者: test
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第四章 - 犬猿の決戦(Ⅳ-3)

 真澄がどんな呼び名で恐れられているのかを、俺は知っている。


 けれど、こんなに寂しそうな目をされてしまっては、突き放すこともできない。


「……っていうか、男ならせめてタオル巻くのやめねえか? 浴槽の中でそれはアウトだろ」


 とっさに話題を変えると、真澄は急に赤面して。


「……だって、恥ずかしいし」


「あんまりもじもじされると、こっちまで恥ずかしくなるんだが……?」


 ……なにか重要な理由があるのか?


 真尋さんが、『真澄の首筋に傷がある』って言ってたけど、他にも過酷な練習の爪痕が残っていたりするのだろうか。


 だとすれば申し訳ないな。


 興味本位で邪推してしまったことを内心で謝っていると。


「……ま……まだ、生えてないから、見られたくない……」


 と、蚊の鳴くような声が聞こえてきた。


「……マジかよ」


 生えてないって……高校2年生だぞ、俺たち……。


 いたたまれなくなって、今度はきちんと謝罪を口に出した。


「……なんか、ごめんな」


「謝らないでよう! 気にしてるんだから! 逆に傷ついちゃうよ!」


 わたわたと手を振る真澄。……なんだか以前、真尋さんと話したときのジェスチャーと被って見える。

 やっぱり姉弟なんだな。

 すると、真澄はバシャっと音をたてて立ち上がる。


「ゆうくん、こっちこっち」


 俺の手を取って水道まで誘導すると、後ろにひっついてきた。


「せなか流してあげるよ! こういうの一度やってみたかったんだぁ」


「おい、ちょっと! いいって! こら引っ付くな洗いにくいだろ!」


「うわぁ、ゆうくんの広背筋ゴツゴツだぁ。いいなー、うらやましい」


「逆に俺は、お前の身体からあんな鋭い打球が飛ぶ理由がわからねえ」


「あっ、それね。コツがあるんだけど聞いとく? たぶんゆうくんには通じないし」


「マジ? 教えてくれんの?」


 こんな状況だが……一応聞いておこうかな。


「試合の序盤で、相手の顔面狙ってスマッシュかボレー打つんだ。そしたら相手は反射的に恐怖を感じて、その次のボールが甘くなる。それをもう一発ボディめがけて打ち込んで……って繰り返す感じ。すると終盤でチャンスボールばっかり上がってくるようになるんだよね」


 聞くんじゃなかった。動物の狩猟そっくりじゃねえか……。


「ゆうくんってボールに対して恐怖心持ってないよね。そういう相手には効かないんだ」


「今日の相手には、そういうやつはいなかったのか?」


「いなかったね。というより、僕の場合、評判が先行してるから。試合に入る前からすでに勝ってる感じかな。勝手につくりあげた『笑う鬼』っていう虚像に、勝手に萎縮して、勝手に恐怖して、はじまる前から終わってる。だから――つまらない」


 背中越しに、ふたたび寂しそうな声が響いてくる。


「勝ったときにしか楽しいって思えなかったのに――今は、それすらもつまらないんだ」


「……じゃあ、どうして続けてるんだ?」


 ふと湧いた疑問。返答はたどたどしかった。思いついた単語を、そのまま口にするような。


「どうしてだろう……自分でもよくわからないんだけど……僕には、これしかないから。僕にはテニスしかないってことを、失ってから気づいたからかな。テニスのない生活には彩りがなくて、なにも起こらない日常に溶けていくみたいな錯覚があったんだ。そうやって無気力になっていた僕を、おねえちゃんが引っ張り上げてくれたから、僕はこうして大会に参加してる」


「……そういえば、真尋さんは?」


「部屋で寝てる。おねえちゃん運動量多いし、すごい朝方人間だから。いつもこの時間には布団に入ってるんだ」


「あー、わかる。真面目だもんな。毎日遅くまで練習してるみたいだし」


「家では全裸であちこち徘徊してるけどね」


「……聞かなかったことにしとく」


 初めて会ったときのイメージが一気に崩壊しそうだ。


 そんな折、真澄は俺の耳元にひっついて、ぼそりと、こんなことを言ってきた。


「ねえ、ゆうくんは――僕のこと、楽しませてくれる?」


 その言葉に、俺は真剣に向き合う。


「1回負けたら即終了。そんな状況で戦うだけで燃えてくる。俺は、極限の戦いの中で精一杯テニスを楽しむよ。救ってやれるかは分からねえけど……めいっぱい楽しませてやる」


「……壊しちゃうかもしれないよ?」


「大丈夫。俺は頑丈だから。ちょっとやそっとじゃ死なねえよ。今までいろんなことがあったし、易しい道じゃなかったけど……ここまで来れたしな。――さてと、そろそろ上がるか」


 立ち上がると、後ろで「わわっ」と真澄が慌てた。間髪入れず、背中がぶつかる。真澄は思いきり尻から着地して――その拍子に、頑なに閉ざされていたタオルの中がご開帳した。


 たしかに、つるつるだった。


 そして、やっぱり男だった。


「ごめ――」


 俺が謝罪の言葉を述べる前に。


「ひゃああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?」


 真澄の甲高い悲鳴が、満天の月に向かって轟いた。


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