第三章 - 犬猿の発展(C-8)
「また緊張してんのか?」
代表挨拶を終えて弛緩した空気の中で、申渡があたしの顔を覗き込んできた。
「……あんたのメンタルどうなってんのよ。緊張しないほうがおかしいでしょう」
「アホか。俺だって緊張してるっつうの。でも――これは、良い緊張だ」
そう言って予選リーグのおこなわれるコートへ足を進めながら。
「良い緊張は集中に結びつく。自分の力を一〇〇%試合で出し切るなんて無理だ。だからこそ集中して、今までに積んできた練習の成果を少しずつ試合に反映していって、堅実に点を積み重ねられる奴が強い。お前も分かってんだろ、狗上?」
こいつの言葉は至極当たり前のことだ。
ただこの男は、畑は違えど、同じような死線をくぐり抜けて全国の頂点に立った実力者。
だからこそ――重みがある。
もっとも、本人は自覚していないだろうけれど。
「それにスポーツは楽しんだもん勝ちって言うしな。だから狗上、勝負しようぜ。俺とお前、どっちのほうが点数を獲れるのか。シンプルで良いだろ?」
「…………はぁ」
溜息をついて手を開くと、指の先まで熱が通っていた。思い通りに動く。
どうやらこの男は。
あたしのプライドに火をつけるのが、めっぽう上手いらしい。
「――言ってなさい。俺が点獲れるのはぜんぶ狗上様のおかげです、って跪かせてみせるわ」
「あれ!? 俺と言ってること違くね!?」
おどける申渡の後ろに、あたしも続く。
かくして、あたしたちの運命を決める大会の火蓋が、切って落とされた。




