第三章 - 犬猿の発展(Ⅲ-4)
「――げぇッ!? キャンピングカーってレンタルでもこんなに高えの!?」
俺も同じ画面を覗き込むと……そこには驚愕の数字が躍っていた。
「……ラケットが3本買える値段だな」
「試合前日の夕方に借りて、移動して、1日目は現地に泊まるだろ。んで2日目を終えて帰ってくるから……計3日間で合ってるよな?」
「ねえさんの運転だと車がスクラップになる可能性まで考慮しないといけねえから、保険はいちばん高いのに入るとして」
「言いたい放題だなてめえ。……まぁ、自覚してるから見積もりはそれで出したけど」
「旅行に行くわけじゃねえんだ。狗上やねえさんはともかく俺は余計なお金を出せないし、なるべく費用は抑えたい。キャンプするなら言い出しっぺのねえさんが責任持ってくれ」
「ウチもこんなにポンっと出せねえよ。むしろ半年で貯金食い潰してないだけマシだろ」
「その食い潰す要因がギャンブルであることを、俺は心配に思ってるんだが……」
ねえさんは「ふうむ」と一際大きく唸って、うんと背伸びをしてラケットを握る。
「まあ、考えすぎてもしゃあねえか。おい悠坊。優姫ちゃん。今日はハードにいくぜ?」
「後回しにしてなんとかなる問題だとも思えねえが……選択肢は限られてるんだ。練習を終えたら本格的に決めようぜ」
「ええ……そうね……」
当日の大惨事を覚悟したのか、抜け殻みたいになっている狗上。
移動中でも最低限の睡眠は取れるし、竜宮ヶ丘に泊まることはできなくても、その近辺で一晩明かせなくはないだろう。うまく時間を使えばなんとかなるとは思うんだが――。
と、そんな時だった。
「あっ」
ジャージの上着を脱いで教官モードに入ろうとしていたねえさんが、ふたたびスマホに目を落として、驚きの混じった声をあげた。
「やべ、当たってんじゃん――――はッ!?」
ポツリとなにごとかをつぶやいた後、慌てて口をおさえる。
露骨になにかを隠す仕草に、俺は疑いの目を向ける。
「おい、ねえさん。なにが当たったって?」
「なんでもいいじゃん、ほら、練習練習――」
「教えてくれ」
間髪入れずに問い詰めると、ねえさんは渋々白状した。
「…………競馬」
今日は日曜日だ。そういえば、今朝寄ったコンビニの雑誌コーナーに、なにか大きいレースの名前が書かれた新聞がたくさん置いてあった気がする。
「いくら勝ったんだ?」
「ちょびっとだよ。ちょびっとだけ」
「見せてくれ」
「えぅ、あっ、その…………やだ」
「見せろ」
半ば強引にスマホをひったくって、表示された画面を見ると。
「いち、じゅう、ひゃく、せん……」
そこには『的中』と書かれた赤文字と、ちょうどキャンピングカーが3日分レンタルできそうな額の払い戻し金額が表示されていた。
「待っ、待って悠坊ッ! 今日のそれはウチのとっておきの勝負レースだったんだ! 後生だからそれだけは見逃してくれよぉ!」
俺の服を引っ掴んで懇願するねえさんに、そっと優しく語りかける。
「持ってる者が持たざる者に施すのが……なんだったっけか、ねえさん?」
「うわああああああああ鬼ィィィィィィィィィィィッ!」
その後、俺は改めてねえさんから(半ば強引に)言質をとって、資金面の問題を解消した。
あぶく銭を数秒で溶かすことになった運命を呪うねえさんから目を逸らすと。
「……ふふっ、あははっ」
そんな俺たちの姿を見て笑顔を浮かべる狗上の姿が目に入った。
こいつ、笑うと本当に可愛いよな。




