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test  作者: test
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第三章 - 犬猿の発展(C-4)

 桃子さんに抱いていた疑いの念は、すぐに払拭された。


 申渡から「真澄の動画を送ってくれ」と言われたので、何に使うんだろう、研究材料にでもするのかしら? でもあのプレーから得られるものって……? なんて思いながら従ったのだけれど、どうやらその動画は申渡を経由して桃子さんの手にも渡っていたらしい。


 あれから数日後。

 スポーツセンターの待合室にて、あたしたちは練習用のコートが空くまでの待機時間を活用して、ミーティングをおこなっていた。


 そこに桃子さんが合流して、いの一番に口にしたのがこんな内容である。


「送ってもらった動画をひと通り見た。いやー、ありゃすげえわ。少なくとも高校生がやるプレーじゃねえ。確かにバケモンって言われるのも納得だな。あんなに正確な突き球、プロの試合でもなかなか飛んでこねえよ。ホーミング機能でもついてんのかと疑いたくなるわな」


 たしかにそう思う。


 突き球はたしかにテニスの技巧のひとつとして確立されているけれど、基本的にはサーブやレシーブ、ラリーの最中に使うことで相手の動きを牽制するものだ。


 突き球を何度も繰り返して、相手のメンタルに――場合によっては肉体に物理的な負荷をかけ続けるなんて、想像の範疇に存在しない。


 加えて言うなら……鬼頭真澄の異質さは、その非常なまでの制球能力にある。テニスのラリーは「相手のいないスペース」を狙うのが普通だ。つまり、狙う先は『面』である。


 だが、これに対して鬼頭真澄は相手プレーヤーの肉体そのもの――『点』を狙う。


 そこまでは分析済みなのだけれど……そこからは分からない。


 きっと、真尋に聞けば答えを……もしくはヒントを得られるのかもしれないけれど、あたし自身が踏み込むことをためらっていた。


 たぶん、心のどこかであの暴力的なテニスを拒否したいんだと思う。


 そんなあたしとは対照的に、桃子さんは腕組みをして「うーん」と唸る。


「『笑う鬼』とか『相手を壊して勝つ選手』とか、おどろおどろしい呼ばれ方をされてるから、けっこう期待してたんだけどなー。まさかあんなにかわいい――じゃなかった、サイズの小さいプレーヤーだとは思わなかったな」


「おい、本音が漏れてるぞショタコン」


 間髪入れずに申渡がたしなめる。


 桃子さんは「ウッ」と一瞬言葉に詰まったけれど、すぐに分析報告を続けた。


「ていうか……あれって、ボールのコントロールが異常に上手いだけじゃね?」


 さらりと言ってのける。さも当然のように流すので、理解が遅れてしまった。


「……へっ?」


 意思とは裏腹に、間の抜けた返事が喉から漏れた。


「そっ、それだけ……ですか?」


 鬼頭真澄はボールコントロールが異常に上手い。きっと、全国でも数本の指に入る。


 でも、それだけ?


 風の噂では、『笑う鬼』と戦うと、身体が重くなったり、打球の威力が下がったり、あげくの果てにはラケットを吹き飛ばされたり――テニスを続けることに自信がなくなるような、そんな状態に陥るという。


 ゆえに『鬼』と呼ばれているのだと。


 けれど桃子さんは、たった数日間、動画を分析しただけで答えにたどり着いた……?


「ねえさん。俺には詳細がまだわかってねえんだけど……真澄の打球が敵のラケット吹っ飛ばしてるのって、単純に『筋力が強いから』が理由じゃねえんだよな?」


 申渡が口を挟むと、桃子さんは「そりゃそうだろ」と軽く返答する。


「あんなにかわいい男の子――ンンッ! じゃなくて! あんなサイズの選手が打球で相手をぶっ飛ばすとか、常識的に考えて不可能だろ」


 と、そこであたしの顔に視線をよこして。


「優姫ちゃん。もしかして『常識的にありえないから理解ができない。理解できないからこそ怖い』って思ってた?」


 正鵠を射抜く指摘に、なにも言えなくなった。あたしの反応を見て察したのか、桃子さんはうんうんと納得して頷いている。相手は元プロとはいえ……ちょっとだけ悔しい。


「俺、真澄にフォームを見てもらったんだけどさ。あいつ頑なにラケット握らなかったんだよな。だから当の本人はどんな打ち方してんのかなって観察してたんだが……なんだろう、手首がこう、めちゃくちゃしなってたように見えたな。あと腰をめっちゃ捻ってた」


「あー、それもあるな。おそらく身体がちっちゃいぶん、遠心力を使って打球の威力を底上げしてるんだと思う。だが惜しい悠坊! 本丸はそっちじゃねえんだよなーっ!」


 むふふ、と嬉しそうに笑って、桃子さんはタブレットを取り出し、動画を再生しはじめた。


「ほらこれ、相手の足。動いてねえだろ?」


 鬼頭真澄のサーブ。桃子さんが指さしたのはレシーバーのポジション。たしかに、足裏が瞬間接着剤でコートに貼り付けられているのかとでも思うくらい、動いていなかった。


「たぶん真澄くんは、『恐怖』を制御してるんだと思う」


 桃子さんは正確無比なスマッシュを叩きつけるように、軽い口調で核心を述べた。


「恐怖で足がすくむ、っていうやつ。あるだろ?」


 あたしはコクリと頷く。


 事実、鬼頭真澄に接近された際、足が震えていた経験が思い起こされる。


「なにかに緊張や不安、恐怖をおぼえたとき、同時に『どうしよう、どうすればいい?』って戸惑いが生まれるだろ? 人はそのとき正常な判断力を失って筋肉が硬直する。脳からなんか出るんだよな、ノルアドレナリンとかなんとかいったっけ……とにかく、それが増えまくって身体が硬直してるときに威力のある打球が吹っ飛んできたら――どうなると思う?」


「ああ、なるほどな」


 そこまで聞いて、かたわらの申渡がポンと手を打った。


「つまり真澄は、突き球で相手の緊張を引き出して、それを恐怖に繋げてるわけか」

「正解ッ! よしよし悠坊、頭なでてやるぞー」


「やめろねえさんッ! ここ教え子も通るんだぞ見られたら恥ずかしいだろ!」


 じゃれあう申渡と桃子さんをよそに、あたしは依然として動けなかった。

 でも、頭はぐるぐると思考を繰り返している。

 すごい。


 あの『笑う鬼』のカラクリが、たった数日で……こんなに鮮明になるなんて。


「優姫ちゃん。感心するのはまだ早いぜ?」


 桃子さんはそう言って、芝居がかったウインクを投げてきた。

 そして時計を確認し、「よっしゃ」と気合を入れる。


「実践練習の時間だ! 悠坊、でっけえヤクモノ持ってきたから運ぶの手伝え」

「これでギャンブル中毒じゃなかったら最高の女なんだけどなぁ……」


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