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test  作者: test
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第二章 - 犬猿の宣誓(II-1)

 狗上がシューズを新調するというので、俺は単身テニスコートへと向かった。


 もともとは付き添うつもりだったのだが、そう提案したところ……。


『ペアを組んであげるからって、彼氏面しないでくれる?』


 あの女、なんて目つきしやがるんだ……メンタル弱い動物なら死ぬぞ。


 俺はただ、直接あっちの学校に出向いて、狗上に「せっかくだからついていこうか、パートナーなんだし」と一声かけただけなんだが……あんなふうに曲解されるとは思わなかったな。

 善意を厚底のブーツで踏みにじられた気分だ。


「あいつはいったい何を勘違いしてやがるんだ……?」


 ともにペアを組み、同じ戦場で並び立つパートナーのことを思いやるのは当然だ。

 狗上のミスは俺のミス。

 俺のミスは狗上のミス。

 一蓮托生の存在。それがダブルスのペアである。


 狗上の通う高校――聖峰女学院(せいほうじょがくいん)は、この近辺では有名なお嬢様学校らしい。


 実際に見ると納得しきりだった。

 俺のところとは違って学舎も綺麗だったし、なにより正門がデカい。

 

 女子がぞろぞろと出てくる光景はなかなかに壮観で、もの珍しさに呆けていると、露骨に嫌そうな顔をした狗上が正門前で待っていた俺のところに肩をいからせながらやってきて、ひと悶着あった後に浴びせかけられたのがくだんの言葉。


 どこが気に障ったんだろうな。

 まあ、どこか気に障ったんだろう。

 あとで謝っておくとして。


 そんなことを考えているうちに、テニスコートへと到着する。

 今日はスクールの指導(バイト)もないし、人もまばらだ。

 練習するにはもってこい。


 さて。


 ソフトテニスプレーヤーだった俺が硬式の大会をめざすにあたって、超えておかなければならないハードルがもうひとつある。

 

 実に単純な問題。

 軟式と硬式では、打球感がまったく異なるのだ。


 ゴム製のボールを打ち合うソフトテニスでは、腰を入れて遠心力を使い、球を真芯で捉えてラケットを振り抜く必要がある。


 当然ながら、一般的なテニスとして認識されている硬式テニスとは基礎から異なる。ソフトテニスのフォームを硬式に展開すると球の軌道や運び方に不都合が出るし、なにより腰や肩、そして肘などを故障するリスクもあるわけだ。


 今日は狗上を相手に打ち合って、そこらへんを調整するつもりなんだが……あいつは不機嫌な顔のままテニスショップに向かってしまったし、先に到着したはいいものの手持ち無沙汰になってしまった感が否めない。


 俺はいつものようにマウンテンバイクを駐輪場に押し込んで、壁打ち場へと向かった。


「……あいつのフォーム、綺麗だったな」


 壁に走った無機質な白い線を、ネットに見立てて。

 ポン、ポン……と、軽快に硬球をバウンドさせる。

 短く息を吸い込み――正確に、真上へトスアップ。


「こんな、感じ、かッッッ!」


 地表に向けて引き戻されたボールから視線を逸らさず、一気に――振り切るッッッ!

 バコンッッッ! と、緑の光線が壁に向かって一直線。


「――フォルトかぁ。やっぱ軟式とはぜんぜん違ぇなぁ……」


 ラケットは重いし、ボールはやたらと跳ねるし、肘への反動もまったく異なる。


 それに――狗上のサーブを真似して分かったことがある。


 あいつ、コントロールすげえんだな。


 小学生のころ、コーチからよく言われていた言葉がある。


『サーブは入るもんじゃない。入れるもんだ。入れてからスタートなんだ』。


 2回失敗すれば相手の得点。サーブを入れられない選手はそもそも試合すらできない。


 そのため、ふだんの8割くらいの力加減で打てよ――なんて言われたけど。


 こんなにバウンドする球を、あいつは明らかに、全力を以て射出していた。


 テニスのサーブに求められるのは、速度と威力、そして精度だ。軟式の場合はボールがゴム製なので必然的に球速と球威が落ちるので、精度さえ高めればある程度上のレベルでも戦えてしまう――けれど、硬式の場合はそうじゃない。3つ揃ってはじめて成立する。


 テニスにおいては攻撃こそが最大の防御であり、サーブはその始点だ。これが完成されていればいるほど、試合を有利に進めることができる。


「もう一発……ッ! ――っ、らぁッッッ!」


 ふたたび破裂音。

 二の腕から肩にかけて、ビリビリと反動がやってくる。

 今度はネットの上を通過したようだ。よし、今の感覚を忘れないうちに。


「もういっぱ――」


「すっごぉいっ! きみの球、すっごい速いねッ!」


「なっ――!?」


 サーブのモーションに入ったところで背後から声をかけられ、前後不覚になる。

 そして、そのまま大きく態勢を崩して――。


「痛っ――」盛大に空振りをした俺は、勢い余ってその場にずっこけた。「――てぇ……」


 尻餅をつき、起き上がろうとしたところで、目の前に人影がフェードインしてくる。


「ごめんね、びっくりさせちゃった?」


 眼前にあらわれ、こちらを覗き込んでいるかわいらしい女の子と目が合った。

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