《SET BREAK - 1》
「なあ、ねえさん――狗上優姫って名前に心当たりあるか?」
『んぁ? くじょうゆうき? たりめーだろ、女テニ界では有名だぜ。聖峰の番犬だろ?』
「せいほう、の……なに?」
『あの子、聖峰女学院っていうお嬢様学校なんだけどなー。中学1年から2年にかけて、個人戦の県大会を5連覇してたんだよ。で、関東大会に駒を進めて、毎年決勝争いしてたんだわ。いつもトーナメントの上位を守りまくってたから、ついた通り名が「聖峰の番犬」』
「……あいつ、そんなすげえ選手だったんだ」
『お? なんだなんだ? 悠坊が女の話するなんて珍しいじゃん。とうとう思春期到来か?』
「思春期はとっくに来てるわ! じゃなくて……ほら、高天原オープン。知ってるだろ?」
『あー、あの大会な。賞金出るんだっけ……え、なに悠坊、出るの?』
「狗上優姫と、ペアを組むことになった」
『……………………』
「ねえさん? もしもし、聞いてるのか?」
『……あれ、ウチ寝てる? これ夢の中? 悠坊、もっかい言ってくれねえ?』
「だから、狗上優姫とダブルスのペアを組んで、高天原オープンに出ることになったんだ」
『嘘でしょ冗談キツイって。あの子ってダブルス組んだことないんだぜ?』
「…………は?」
『は? はこっちのセリフなんだけど?』
「いや、え…………? ダブルス組んだことないって……そんなこと有り得るのか?」
『有り得るかもなにも、事実なんだからしょうがねえだろ』
「でも、県大会を5連覇した、って……」
『ダブルスが主流のソフトテニスと違って、硬式テニスはシングルスが活発だからさ。まあ、あの子の場合、それ以外にも理由はあるらしいけど』
「シングルスで大会5連覇するような選手なら、ダブルスにも駆り出されるはずだろ?」
『だから、理由があるんだよ――聖峰の番犬には、致命的に欠けているものがあったんだ』
「……それって?」
『協調性』
「……あいつ、部活やめたって言ってたけど……やっぱり、なにかあったんだな」
『ま、そういうことだな。詳しくは本人の口から聞いたほうがいいだろ……で? 悠坊がわざわざウチにそういう連絡入れてきたってことは、つまり――そういうことでいいんだよな?』
「ねえさんには何もかもお見通しだな……ああ、頼むよ。俺たちに稽古をつけてくれ」




